2018年06月26日

Brexit(英国のEU離脱)に伴う14のソルベンシーリスク-EIOPAが保険会社のソルベンシー・ポジションに関する意見書を公表-

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6|マッチング調整
リスクフリー金利に対するマッチング調整の計算は、保険又は再保険会社のマッチング調整ポートフォリオにおける資産の格付けに基づいている。会社は、外部信用格付機関(ECAI)によって発行された場合か又はCRA規則に従って承認されている場合のみ外部信用格付けを使用することができる。英国の信用格付機関は、離脱日後に登録抹消され、ECAIの資格を失うことになる。マッチング調整ポートフォリオに含まれる資産は、そのECAI格付けを失う可能性がある。CRA規則には、登録抹消の場合の経過措置が含まれている。CRA規則には、上記2|で説明したように、登録抹消の場合の経過措置が含まれている。
7|Tier2補助的自己資本項目の特定種類
Tier2補助的自己資本項目の特定種類は、資本要件指令に従って承認された保証機関によって提供される信用状又は保証である。英国の信用機関によって提供された信用状又は保証は、もはやその特定種類の商品に該当せず、その特性によっては、Tier 2から脱落するか、又は離脱日後に全く認識されないかもしれない。
8|金融機関及び信用機関への参加
ソルベンシーIIは、資本要件指令に定義されている金融機関及び信用機関への参加が、一定のケースでは、適格自己資本から控除されることを要求している。英国の金融機関及び信用機関は、離脱日後に資本要件指令に該当しなくなる。しかし、参加を含む関連会社の取扱いに関するEIOPAのガイドラインに明記されているように、金融機関及び信用機関への参加の具体的な取扱は、EU指令の範囲内の金融機関及び信用機関だけでなく、全ての金融機関及び信用機関に適用される。
9|加盟国の国債のスプレッドリスク及び市場リスク集中のSCR標準式におけるリスクチャージ
加盟国の国債のスプレッドリスク及び市場リスク集中のSCR標準式におけるリスクチャージはゼロである。このアプローチは、中央政府及びその中央政府の国内通貨によりファンディングされている中央銀行へのエクスポージャーに適用され、中央政府と同じ方法で取り扱われる特定の地方政府及び地方自治体へのエクスポージャーにも適用される。英国の中央政府、中央銀行及び3つの英国の地方自治体へのエクスポージャーは現在そのアプローチの下にあるが、離脱日後にはそのように取扱うことを終了する。英国国債の信用度のステップに応じて、これらのエクスポージャーに対するSCRは増加する可能性がある。
10|エクスポージャーの格付け
市場リスク集中及びカウンターパーティのデフォルトリスクに対する標準式SCRは通常、エクスポージャーの格付けに依存する。未格付けのエクスポージャーは、最悪の信用度のステップ6のエクスポージャーのように取り扱われる。ただし、未格付けの保険及び再保険会社へのエクスポージャーについては、SCRは会社のソルベンシー比率から導かれ、もし比率が100%を超えると資本要件が低くなる。撤退日後、未格付けの英国の保険及び再保険会社へのエクスポージャーは、第三国の保険及び再保険会社になるため、その条項にはもはや該当しない。同様に、資本要件指令の対象となり、銀行の資本要件を遵守する、未格付け金融機関及び信用機関へのエクスポージャーに関しては、より低い資本要件が適用される。離脱日後、未格付けの英国の金融機関及び信用機関へのエクスポージャーは、もはやその規定が適用されない。
11|再保険のリスク軽減効果
再保険のリスク軽減効果は、一定の定性的条件を満たしていれば、SCR標準式計算で認識することができる。特に、再保険カバーは、以下の者によって提供される必要がある。

(i).SCRを遵守する保険又は再保険会社
(ii).同等のソルベンシー制度の対象となっており、その制度のソルベンシー資本要件を遵守している第三国の会社
(iii).同等とみなされないソルベンシー制度の対象となり、ステップ3以上の信用度に対応する格付けを有する第三国の会社

英国の保険及び再保険会社により提供される再保険は、現在(i)に該当している。離脱日後、それはもはや(i)には入らず、ポジティブな同等性決定もない場合(ii)にも該当しない。その場合、再保険カバーは(iii)に該当し、その会社がステップ3以上の信用度の格付を有する場合にのみ認識することができる。
12|特別目的ビークル(SPV
ソルベンシーIIでは、特別目的ビークル(SPVs)から回収可能な金額は、通常再保険回収見込額のように取り扱われる。法的枠組みには、そのSPVsが設立されている又は設立予定の加盟国におけるそのようなSPVsの認可に関連する基準と条項が含まれている。SPVsへのリスク移転は、一定の条件が満たされた場合にのみSCR標準式の計算におけるリスク軽減技術と見なされる。さらに、第三国の監督当局によって規制されているSPVにリスクが移転する場合、リスク軽減手法は、ソルベンシーII第211条(2)に規定されているものと等しい要件がSPVによって満たされている場合に、基本SCRにおいてのみ考慮することができる。したがって、英国のSPVsのリスク移転の認識は、離脱日後に適用される英国の国内法の要件に応じて変更される可能性がある。
13|グループ監督
ソルベンシーIIにおけるグループ監督の範囲は、特に、保険グループの親会社がEUに存在しているかどうかに依存している。それゆえ、他の加盟国にわたる英国の親会社及び子会社を有する保険グループについては、グループ監督の範囲は、離脱日後に変更される。
14|内部モデル
グループ内部モデルは、グループレベルのSCRとグループ内の保険及び再保険会社のレベルでのSCRの両方の計算で使用することができる。英国の親会社を抱える保険グループがそのような内部モデルを適用する場合、国家監督当局の再承認なしに、EU27加盟国に所在するグループの保険及び再保険会社のSCRを計算するために使用することができない。他の承認された内部モデルがない場合、これらの会社のSCRは、標準式に基づいて計算されなければならない。
 

4―EIOPAによるモニタリングの実施

4―EIOPAによるモニタリングの実施

EIOPAは、国家監督当局と連携して、英国が第三国になることに起因する保険及び再保険会社のソルベンシー・ポジションのリスクを継続的に監視する。モニタリングは、リスクの性質、規模、複雑さに比例する。国家監督当局は、監督協力の現在のEUの枠組みの中で、このモニタリングに必要な情報をEIOPAに提供すべきである、としている。
 

5―まとめ

5―まとめ

以上、EIOPAが、5月18日に公表した意見書「英国のEU(欧州連合)からの離脱を踏まえた保険及び再保険社のソルベンシー・ポジションに関する意見(Opinion on the solvency position of insurance and reinsurance undertakings in light of the withdrawal of the United Kingdom from the European Union)」について、報告してきた。

EIOPAもこの意見書の中で述べているように、EUと英国の離脱協定については、引き続き交渉中であり、これらの政治交渉の結果がどうなっていくのかについてはいまだ不透明である。さらに、「この意見は、英国が欧州単一市場の一部であり、EU法が英国に適用される可能性のある移行期間の結果を考慮していない。」としている。あくまでも、「英国が第三国となり、EUの内部市場を離れる」ということを前提にした場合の意見となっている。

その意味で、今回の意見は、EUが定める規則に従った場合の原則的な考え方が示されている。また、その場合でも、リスクの存在については網羅的に挙げてはいるものの、実際への影響については、いくつかの前提条件等があり、今後別途の対応策等が講じられる可能性もあることから、明確に触れられているわけではない。あくまでも、監督当局として、留意しておくべき点をまとめたものといえる。

今回のEIOPAの意見書の公表を踏まえて、今後、英国以外の欧州各国の監督当局がどのように対応していくのかは興味深い点である。さらには、そもそも英国の監督当局が今後どのように対応していくのかについては、引き続き大きな関心が寄せられている。

これらの動向については、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年06月26日「保険・年金フォーカス」)

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