コラム
2018年06月19日

高齢者を直撃する物価上昇~世代間で格差~

経済研究部 研究員・総合政策研究部兼任   白波瀨 康雄

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物価上昇に直面する高齢者

2017年の消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合、以下も同じ)は前年比0.6%と2016年の同▲0.1%から2年ぶりにプラスに転じた。この上昇率は平均的な世帯が消費する財・サービスが基準になっている。しかし、世帯属性によって消費構造は変わってくるので、直面している物価変動は異なっている可能性がある。実際に、消費者物価指数を公表する総務省では、年齢階級別や収入階級別、住宅の所有有無別など、世帯をある特徴ごとに区分して物価指数を算出している。
(図表1)年齢別の消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合) その1つである世帯主の年齢階級1別消費者物価指数物を元に、3分類(39歳以下、40~50歳代、60歳以上)して指数の動きをみると、年齢が上がるにつれて、消費する物の価格が大きく上昇している(図表1)。

2010年から2013年までの3年間は、年齢別の物価指数に大きな差はなく、3年間の上昇率は0.1~0.3%に収まった。一方、2013年から2017年までの4年間では、39歳以下が3.7%に対して60歳以上は5.5%と差は2%ポイント近く開いており、指数の差は年々広がっている。若年層は、消費税率引き上げ(5%→8%)のあった2014年こそ物価が大きく上昇したものの、その後の物価水準は概ね変わっていない。一方、高齢者は消費税率引き上げ後も基調は変わらず物価上昇に直面している。
 
1 世帯主の年齢階級:29歳以下、30~39歳以下、40~49歳以下、50~59歳以下、60~69歳以下、70歳以上

物価上昇率に差が出る要因:「60歳以上」と「39歳以下」との比較

「60歳以上」と「39歳以下」の10大費目の支出ウェイトと物価上昇率から、物価上昇率(2013~17年の4年間)の差(1.7%ポイント)の要因を分析すると図表2のようになった。なお、品目の物価指数は、全国の品目別価格指数を共通に用いており、物価上昇率の差は各世帯属性における品目のウェイト差に起因している2
(図表2)「60歳以上」と「38歳以下」の物価上昇率(2013→17年)の差
1.7%ポイントのうち、10大費目の支出ウェイトの差による影響(ウェイト要因)が0.6%ポイント、残り1.1%ポイントは10大費目ごとの物価上昇率の差による影響(品目選択要因)となっている。

ウェイト要因については、総合の物価上昇率を上回った食料のウェイトが60歳以上は高いこと、総合の物価上昇率を下回った交通・通信のウェイトが60歳以上は低いこと等から発生している(図表2赤枠)。

品目選択要因は、食料、住居、交通・通信の影響が大きかった(図表2青枠)。食料については、60歳以上は約21%3を生鮮食品の支出に充てており(39歳以下は約11%)、生鮮食品の物価は18.3%と大幅に上昇している。また、外食(物価上昇率:5.9%)は食料の中で物価上昇率が低位の品目だったが、60歳以上は約12%しか支出に充てておらず(39歳以下は約26%)、物価上昇率に差が出た。住居については、39歳以下は支出の約92%を占める家賃の物価上昇率がマイナスとなり、住居全体でもマイナスになった。一方、60歳以上は持家率が高く、支出の約75%が住宅リフォームを含む設備修繕・維持(物価上昇率:6.1%)に充てられており、住居の物価上昇率が大幅なプラスとなった。交通・通信については、電話通信料のうち、固定電話通信料は物価が5.0%上昇した一方で、移動電話通信料は▲6.9%下落した。固定電話通信料は60歳以上の方がウェイトが高く(60歳以上:約9%、39歳以下:約3%)、移動電話通信料は39歳以下の方がウェイトが高い(60歳以上:約16%、 39歳以下:約28%)ことが、差の広がる要因となっている。
 
2 世帯年齢によって消費行動も異なっており、同じ財・サービスを購入するのにも利用する店舗・業態が異なれば直面している物価変動に差が生じている可能性があるが、それは考慮していない。
3 総務省統計局の2015年家計調査(二人以上の世帯)から計算した数値。以下に出てくる年齢別の品目ウェイトについても同様。

最後に

(図表3)世帯年齢別の実質消費支出の増減率(13→17年) 世帯年齢によって物価上昇率は2014年以降大きく異なっている。これは、世帯の消費構造の違いから物価指数に差が生じているためだ。高齢者の消費支出ウェイトが高い生鮮野菜、設備修繕・維持、固定電話通信料などは物価上昇率が高く、若年層と比べて高齢者は厳しい物価上昇に直面している。

この期間の消費支出の増減率をみると、名目消費支出では39歳以下の減少幅が最も大きいが、年齢別の消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)を用いて実質化すると、60歳以上の減少幅が最も大きくなった(図表3 左図)。所得面でみても、年金給付額は、賃金・物価の上昇を受けて本則の改定率が2%台半ばのプラスとなる一方、年金財政健全化に向けた特例水準の解消やマクロ経済スライドの発動を受けて抑制されている(図表3 右図)。厚生労働省の国民生活基本調査によれば、公的年金を受給する高齢者世帯の半数以上は所得が年金のみであり、高齢者世帯の経済環境は厳しい状況に置かれている。デフレではない状況に達した日本だが、世帯の属性別に直面している物価上昇にもより注意を払っていく必要があるだろう。
 
 

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経済研究部   研究員・総合政策研究部兼任

白波瀨 康雄 (しらはせ やすお)

研究・専門分野
日本経済

(2018年06月19日「研究員の眼」)

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