2018年06月18日

見た目のケアと恋愛・結婚に関する一考察~未婚化社会データ考察:乾癬(2)  

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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2――皮膚疾患・トラブルへのケア、という支援アプローチ

1代表的な皮膚疾患は「アトピー性皮膚炎」「乾癬」
 
患者数の多い身近な皮膚疾患としては、アトピー性皮膚炎や乾癬があげられる。
 
このうちアトピー性皮膚炎に関しては一般の知名度が高く、患者数も多い。
アトピー性皮膚炎治療研究会の世話人を務める幸野健・日本医科大千葉北総病院教授の2017年の講演によれば、患者数の多い皮膚疾患の第2位であり、患者数は約45万6千人にのぼるとされるメジャーな皮膚疾患である3
幸野教授によれば、アトピーというと子どもの疾患のイメージが先行しがちであるものの、20歳以上の成人患者が6割以上と圧倒的に多い疾患である。
 
乾癬は、欧米では知名度が高いものの日本では知名度が低く、同音異議語の類推やその見た目から感染症と間違われることが多発しているとされる免疫介在性の慢性疾患である4
患者数は当研究所の推計では約31万人にのぼり、アトピー性皮膚炎と比べても十分な母数といえる患者数である。
 
3 時事メディカル2017年8月15日「生活の質低下、成人アトピー=意識調査が示す患者の不満」参照。皮膚疾患第1位は、「アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎以外の皮膚炎および湿疹」52万1千人。
4 詳しくは、村松 容子2018年5月28日“乾癬(かんせん)の受診実態~疾病の理解のために・乾癬(1) ”, ㈱ニッセイ基礎研究所「基礎研レター」参照。
2乾癬の特有の問題は「知名度の低さ」
 
恋愛・結婚の阻害要因の1つとみられる見た目・ルックスに影響を及ぼし、かつ患者数の多い皮膚疾患の中でも「乾癬」には独特な問題がある、と患者支援団体である一般社団法人INSPIRE JAPAN WPD(乾癬啓発普及協会)5は指摘する。
 
乾癬は、アトピー性皮膚炎と同様に接触や空気感染する疾患ではない。
にもかかわらず感染症と間違われ、治療費負担問題等から十分な治療が行われていない場合、その見た目から感染を恐れられ、周囲から過剰に忌避される患者も少なからず存在するという。この問題は知名度の高いアトピー性皮膚炎患者に関しては生じていない。
 
同団体が2017年10月の国内初・乾癬患者による乾癬啓蒙東京タワーイベントで行った歩行者アンケートでは、実に回答者の55%が「乾癬という病気を知らない」と回答した。
また、2018年5月の札幌市における231名アンケートでも、非患者における認知率は39%で、61%が乾癬という疾患を知らないという状況であった(図表3)。
 
アトピー性皮膚炎と比べると、その知名度においてかなり落差がある疾患であると指摘することが出来るだろう。
【図表3】乾癬についての一般の知名度(%:左・渋谷、右・札幌)
支援団体からの意見を含めて勘案するに、乾癬はまずその知名度を向上するだけでも無知による患者への忌避行動を防止することができ、日本においては大きな恋愛・結婚支援効果があるように思われる。
 
 
5 http://www.inspirejapan-wpd.net/ 参照。
本稿の執筆に際し多くの情報提供を頂いた同団体は、任意団体から2018年に一般社団法人となった。2017年には世界乾癬デーにあわせて国内初の乾癬患者による世界乾癬デー・東京タワーイベントを実施し、多くの参加者を集めた。
 

3――見た目・ルックスに対する「周囲の意識の改革」ケア

3――見た目・ルックスに対する「周囲の意識の改革」ケア

結婚希望者の割合はあまり変わらないものの未婚化が進行する中で、様々な結婚支援が行われている。
本稿では見た目・ルックスに関しての自信の差が既婚者の独身時代と未婚者の間に明確にあること、また、皮膚疾患が恋愛阻害要因の1つであることを指摘した。
 
見た目・ルックスへの自信向上というと、ついつい「洋服を買って、美容院へ行って・・・」と経済的負担の大きなことを考えてしまいがちである。
しかし、ある皮膚疾患が「感染症ではない」という疾病への理解を進め、周囲がナチュラルに患者の疾患を受け止めるなど、周囲が変わることで本人の自信が向上するケースも十分ある。
 
またデータからは、実は男性の方が見た目への自信の有無の格差が既婚者と未婚者との間にあることが見えてきた6
この結果から、周囲が「男は黙って仕事をしていればモテる」「男は見た目より出世」といった「恋愛価値観の押し付け」を行うことやめ、見た目の悩みへの理解を図っていくことも、男性の未婚化解消の1つの道筋となりうるだろう。
 
「恋愛・結婚の希望を叶えるのは個人の力量問題」として片付けてしまうのではなく、その周囲の人々の知識不足・価値観が少なからず「恋愛阻害要因」となっているかもしれない、ということを本分析結果は示しているといえるのではないだろうか。
 
6 本当に客観的に見た目格差があるのか、自信の多寡の問題なのかは不明である。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

(2018年06月18日「基礎研レター」)

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