2018年06月12日

自動運転に対する保険-自動車保険の補償はどのように変わるのか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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5――海外における賠償責任の検討

欧米では、自動運転の技術開発が進んでいる。これに併せて、保険の責任についても議論が進められている。ドイツとアメリカの検討の様子を、簡単にみていく。

(1)ドイツ
自動車事故に対して、民事責任が、道路交通法、製造物責任法および民法で法制化されている。自動車事故責任が車両の保有者と運転者、製造物責任が製造者に課される。

保有者の責任は、過失の有無によらない。自動運転のレベルによらず、責任があるとされている。レベル3以上に相当する高度自動化機能または完全自動化機能の使用により損害が生じた場合、上限金額を倍額に引き上げている9。運転者の責任は、過失があると推定される場合に問われる。レベル2までは現行法を適用。レベル3以上では、正当な方法でシステムに運転を委ねている場合、免責される可能性がある。製造者の責任は、レベル2までは現行法を適用。レベル3以上で、第三者による交通違反のみを原因とした事故であることが立証されない限り、認められるものとみられている。なお、「自動運転システムの製造者は運転者でもある」と解して、運転者責任を認めるべきとの考え方も出てきている。保有者は、自動車責任義務保険への加入が義務づけられている。ドイツ保険協会は、自動運転システムの事故の場合、この保険が被害者の損害を填補するとの見解を示している10
 
9 人的損害は500万ユーロから1,000万ユーロへ。財物損害は100万ユーロから200万ユーロへ引き上げ。
10 保険者による求償の是非については、事故内容を分類して検討されている。
(2)アメリカ
民事責任と製造物責任は、各州の州法で規律されている。

レベル3以下で、自動車の運転操作を運転者が行っていた場合、運転者の責任は免れないとみられている。一方で、レベル5のように完全に運転をシステムに委ねている状態では、運転者の注意義務違反は問われないと考えられている。この状態での事故は、自動運転システムの不具合が原因と考えられる。日本の運行供用者責任とは異なり、アメリカではこの場合、運転者の責任は免責となる11
 
11 ただし、自動運転システムを使用すべきでない状態で使用した場合や、オーバーライド(自動運転システムの作動を運転者の意思で打ち消すこと)をして運転すべき状態でそうしなかった場合には、運転者の過失責任が問われる可能性がある。
 

6――国内の損保会社の動向

6――国内の損保会社の動向

日本では2017年度以降、損保会社が任意加入の自動車保険に付帯する無料の特約を発売している。既存の自動車保険では、事故における運転者・所有者の責任の有無やその割合が確定されるまで保険会社からの被害者対応が行われない。事故の責任関係が複雑化する可能性のある自動運転12では、被害者補償の遅れが懸念された。各社の特約の発売は、迅速な被害者救済を目的とした対応といえる。
図表2. 自動運転に関する特約 (例)
大綱の決定・公表を受けて、政府や損保会社は、システムが運転の主体となる自動運転車の対人事故も自賠責保険や任意加入の自動車保険の補償対象とする方針と報道されている13。損保会社は新商品開発を進め、レベル3の自動運転の商用化が見込まれる2020年代には発売の見通しとされている。
 
12 事故の責任関係が運転者・被害者などの事故当事者のみならず、メーカーやソフトウェア事業者にまで及ぶ可能性がある。
13「自動運転に任意保険 損保各社、対人事故を補償 商用化へ環境整備」(日本経済新聞2018年5月16日朝刊)より。
 

7――おわりに (私見)

7――おわりに (私見)

今後、自動運転システムの開発は、更に高いレベルへと進展していくものと予想される。自動運転システムを装備した自動車はますます身近なものとなり、人々の生活を大きく変化させる可能性が高い。自動運転から得られる効用は幅広い範囲に及ぶであろう。たとえば、交通渋滞、ドライバー人材不足、高齢者の移動困難など、現代社会が抱える諸問題の解決に寄与することが期待される。

一方、これに伴って自動車保険の役割には大きな変化が求められる。引き続き、国内外の法規制の見直しや損保業界の商品開発の動向などを、注視していくことが必要と考えられる。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2018年06月12日「保険・年金フォーカス」)

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