2018年06月04日

欧州 保険ストレステスト2018(2)-ストレステストのストレスシナリオ及びサイバーリスクに関するアンケートの内容-

中村 亮一

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1―はじめに

EIOPA(欧州保険年金監督局:European Insurance and Occupational Pensions Authority)が、5月14日に「2018年におけるEU全体の保険のストレステストの実施内容」を公表1した。

今回のストレステストの全体的な概要については、前回のレポート「欧州 保険ストレステスト2018(1)-EIOPAが第4回目の EU全体の保険のストレステストの実施内容を公表-」(2018.5.29)で報告した。

そのレポートの中で述べたように、2018年の保険ストレステストは、以下の3つのストレスシナリオで構成される。

(1) 解約及び準備金不足ストレスと組み合わせたイールドカーブ上昇ショック(YCup)
リスクフリーレートの上昇とインフレ圧力の大幅な上昇の両方によって引き起こされる急激で突然の金利上昇。このシナリオは、ESRB(欧州システミック・リスク理事会:European Systemic Risk Board)と協力して開発され、運用されている。

(2) 長寿ストレスと結び付いた低利回りショック(YCdown)
長期にわたる非常に低い金利。このシナリオは、ESRBと協力して開発され、運用されている。

(3) 自然災害シナリオ(Nat-Cat)
欧州で発生する一連の自然災害(例えば、暴風雨、地震、洪水)
さらには、サイバーリスクへのエクスポジャーに対するアンケートが含められ、これらのリスクに対処するベストプラクティスに関する情報も収集される。

今回のレポートでは、これらのストレステストのストレスシナリオの具体的内容及びサイバーリスクに関するアンケートの内容について、EIOPAによる技術仕様書(Insurance Stress Test 2018 Technical Specifications)2に基づいて報告する。

以下の図表は全て、技術仕様書からの抜粋である。  

2―解約及び準備金不足ストレスと組み合わせたイールドカーブ上昇ショック(YCup)シナリオ

2―解約及び準備金不足ストレスと組み合わせたイールドカーブ上昇ショック(YCup)シナリオ

1|概要
YCupシナリオは、グローバル・リスク・プレミアの急激な逆転によって開始されると想定されている。スワップレート曲線は、EUでは85 bps、他の主要先進国では100 bps以上シフトする(図表1参照)。
(図表1)10 年スワップレートへのショック(bps)
リスク・プレミアの全体的な見直しは、一部のEU国家の債務の持続可能性についての懸念を提起し、同等のドイツ債に対するスプレッドに対するEU国債利回りのスプレッドを拡大する。平均して、ドイツ債に対する10年国債利回りの拡大は約36bps増加し、最大134bpsに達する。全体として、EUにおける10年国債利回りは、不利なシナリオの下で、平均で155 bps増加し、119 bpsと253 bpsの間の範囲で増加する(図表2参照)。
(図表2)EU における10 年国債へのショックの分布
リスク・プレミアの一般的な増加に伴い、非金融会社及び銀行借入金の利回りも上昇する(図表3参照)。銀行部門では、低格付け金融機関に対する350 bps以上の増加を示唆する固定利付資産の時価評価損失の見通しに関する根本的な懸念から、信用スプレッドへのショックは悪化する。AAA格付けの非金融会社の債券利回りもEUでは138 bps増加するが、信用スプレッドへの影響はより弱い発行体により顕著であり、CCC格の非金融法人債では310 bpsに達する。
(図表3)社債利回りへのショック(bps)
リスク・プレミアの再評価は、浅い市場の非流動性とノンバンク部門の一般的な売却によって増幅されるであろう株価の大幅な下落を意味する。全体として、EUの株価は約39%低下する(図表4参照)。
(図表4)EU における株価へのショックの分布(%)/(図表5)プライベートエクイティ、ヘッジファンド及びREIT へのショックの分布(%)
プライベートエクイティ及び不動産投資信託(REIT)への投資価値は、33%から41%の間で低下する(図表5参照)。住宅及び商業用不動産価格も大幅に下落し、EUレベルでベースラインに対して、それぞれ20%と31%低下する(図表6と図表7参照)。
(図表6)住宅用不動産価格へのショックの分布(%)/(図表7)商業用不動産価格へのショックの分布(%)
リスク・プレミアの見直しは、保険者の投資ポートフォリオの市場価値を下げるだけでなく、(例えば失業率の上昇や所得期待の低さなどの)一般的な民間世帯の経済的福祉にマイナスの影響を与えると考えられる。このような背景から、生命保険会社は、市場危機によるマイナスの経済見通しに対する保険契約者の懸念を反映して、解約率の急上昇に直面する。

リスク・プレミアの見直しによってもたらされる予想よりも高いユーロ圏のインフレ圧力は、既存の最良推定計算よりもかなり高い請求インフレーションのために、損害保険セグメントの負債準備金の不足にまで及ぶ。これらのインフレ圧力に沿って、全体の費用とコストは大幅に増加すると予想される。
2|ショックとその適用
2-1.市場ショック
市場ショックは、2017年末と比較して、資産価格の一時的で瞬間的な同時シフトを表すものと仮定される。

(1) 市場ストレスパラメータ
市場ストレスパラメータの詳細な概要は、これらの仕様書に添付されている技術情報ファイルに記載されている。市場ストレスパラメータは、以下のリスクファクターを指す:

・スワップレート
・国債利回り
・社債及び住宅ローン担保証券(RMBS)利回り
・株価
・居住用不動産価格
・商業用不動産価格
・その他の資産価格(プライベートエクイティ、ヘッジファンド、不動産投資信託(REIT)、コモディティ)
・調和指数消費者物価(HICP)インフレ率
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中村 亮一

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