2018年06月01日

法人企業統計18年1-3月期-企業収益の増勢ペース鈍化も、設備投資は堅調を維持。1-3月期の成長率は上方修正へ

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.利益率の悪化から増益率が鈍化

経常利益の推移 財務省が6月1日に公表した法人企業統計によると、18年1-3月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比0.2%と7四半期連続の増加となったが、17年10-12月期の前年比0.9%から伸びが鈍化した。非製造業は前年比5.0%(10-12月期:同▲0.0%)と3四半期ぶりの増益となったが、製造業が前年比▲8.5%(10-12月期:同2.5%)と6四半期ぶりの減益となった。
売上高経常利益率の要因分解(製造業)/売上高経常利益率の要因分解(非製造業)
製造業は、円高の影響などから売上高が前年比1.4%(10-12月期:同4.7%)と前期から伸びが鈍化したことに加え、売上高経常利益率が17年1-3月期の7.1%から6.4%へと悪化したことが収益の悪化につながった。売上高経常利益率を要因分解すると、金融費用要因が前年の大幅改善の裏が出る形で悪化したほか、人件費(前年比1.8%)、変動費(同1.7%)が売上高の伸びを上回ったことから、人件費要因、変動費要因も利益率を押し下げた。

非製造業は、売上高が前年比3.9%(10-12月期:同6.4%)と6四半期連続で増加し、2四半期続けて悪化していた売上高経常利益率が5.2%と前年同期と同水準となったため、減益から増益に転じた。人件費が前年比5.1%と高めの伸びとなり、製造業と同様に売上高人件費率は悪化したが、金融費用要因、減価償却費要因が利益率を押し上げた。

2.経常利益(季節調整値)は3四半期ぶりに増加

経常利益の内訳を業種別に見ると、製造業は、化学(前年比14.4%)、鉄鋼(同39.0%)、生産用機械(同43.0%)は高い伸びとなったが、ウェイトの高い輸送用機械が前年比▲29.9%の大幅減益となったことが全体を押し下げた。

非製造業は、電気業が4四半期ぶりの赤字(▲18億円)となったが、卸・小売業(前年比15.4%)、建設業(同3.5%)が2四半期ぶりの増加となった。
 
季節調整済の経常利益は前期比1.7%(10-12月期:同▲1.2%)と3四半期ぶりに増加した。製造業は前期比▲0.4%(10-12月期:同▲7.8%)と3四半期連続で減少したが、非製造業が前期比2.8%(10-12月期:同2.8%)と2四半期連続で増加した。
経常利益(季節調整値)の推移 経常利益(季節調整値)は過去最高水準となった17年4-6月期から2四半期連続で減少した後、18年1-3月期には3四半期ぶりの増加となったが、過去2四半期の落ち込み(17年7-9月期:前期比▲2.5%、10-12月期:同▲1.2%)を取り戻すには至らなかった。企業収益が引き続き高水準にあることは変わらないが、人件費や原材料費などのコストが増加しており、利益率の大幅な改善によって収益が急拡大する局面は過ぎたと考えられる。18年度入り後の原油価格の大幅上昇は利益率を一段と押し下げている可能性が高い。

先行きについては、海外経済の回復や国内需要の持ち直しを背景に企業収益の改善基調は維持されるものの、人件費や原材料費の増加が続くことが見込まれるため、増益のペースは緩やかにとどまることが予想される。

3.設備投資は堅調維持も、投資スタンスの積極化はみられず

設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比3.4%(10-12月期:同4.3%)と前期から伸びは鈍化したものの、6四半期連続で増加した。非製造業は前年比3.6%(10-12月期:同3.0%)と前期から伸びを高めたが、製造業が前年比2.8%(10-12月期:同6.5%)と伸びが鈍化した。

季節調整済の設備投資(ソフトウェアを除く)は前期比▲0.0%のほぼ横ばいとなった。非製造業は前期比1.9%(10-12月期:同0.4%)と3四半期連続で増加したが、製造業が前期比▲3.4%(10-12月期:同8.3%)と3四半期ぶりに減少した。
設備投資は2四半期続けて経常利益の伸びを上回ったが、引き続き前年比で一桁前半の伸びにとどまっている。16年後半から17年前半にかけて経常利益が二桁の伸びを続けてきたことを踏まえれば、企業の投資スタンスが積極化しているとは言えない。企業の設備投資意欲を反映する「設備投資/キャッシュフロー比率」は10年度以降50%台の低水準での推移しており、17年度は56.8%と16年度の57.3%から若干低下した。
設備投資/キャッシュフロー比率と期待成長率の関係 内閣府の「企業行動に関するアンケート調査(2017年度)」によれば、今後5年間の実質経済成長率の見通し(いわゆる期待成長率)が1.1%となった。前年度の1.0%からは若干改善したものの、依然として低水準にある。潤沢なキャッシュフローを背景に設備投資は堅調に推移しているが、企業の設備投資意欲が高まり、キャッシュフローに対する設備投資の水準を大きく引き上げるまでには時間がかかるだろう。

4.1-3月期・GDP2次速報はプラス成長への上方修正を予想

本日の法人企業統計の結果等を受けて、6/8公表予定の18年1-3月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.1%(前期比年率0.2%)となり、1次速報の前期比▲0.2%(前期比年率▲0.6%)から上方修正されると予測する。設備投資、民間在庫変動、民間消費、公的固定資本形成がいずれも上方修正されるだろう。

設備投資は前期比▲0.1%から同0.3%へ上方修正されると予想する。設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比2.1%と10-12月期の同4.7%から伸びが低下した。ただし、法人企業統計ではサンプル替えや四半期毎の回答企業の差によって断層が生じるため、当研究所でこの影響を調整したところ、設備投資は前年比3%程度となり、10-12月期の同2%程度からむしろ伸びが高まる形となった。また、金融保険業の設備投資は前年比8.9%(10-12月期:同12.5%)と高めの伸びとなった。
2018年1-3月期GDP2次速報の予測 また、民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映され若干上方修正されるが、前期比・寄与度は1次速報の▲0.1%から変わらないだろう。その他の需要項目では、民間消費は3月のサービス産業動向調査の結果などが反映され、前期比▲0.0%から同0.1%へ、公的固定資本形成は3月の建設総合統計の結果が反映され、前期比0.0%から同0.1%へ若干上方修正されると予想する。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2018年06月01日「経済・金融フラッシュ」)

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