2018年05月21日

【タイGDP】1-3月期は前年同期比+4.8%増~投資の回復で5年ぶりの高水準を記録

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2018年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比4.8%増1と、前期の同4.0%増から上昇し、Bloomberg調査の市場予想(同4.0%増)を上回る結果となった。

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、投資拡大が成長率上昇に繋がった(図表1)。

民間消費は前年同期比3.6%増と、前期の同3.4%増から小幅に上昇した。財別に見ると、半耐久財と非耐久財が緩やかな伸びに止まる一方、耐久財とサービスが堅調に拡大した。

政府消費は同1.9%増(前期:同0.2%増)と、財・サービスの購入および公務員給与を中心に上昇した。

投資は同3.4%増と、前期の同0.3%増から上昇した。投資の内訳を見ると、まず民間投資は同3.1%増(前期:同2.4%増)と上昇した。民間設備投資(同3.1%増)と民間建設投資(同3.4%増)がそれぞれ底堅く推移した。公共投資は同4.0%増(前期:同6.0%減)とプラスに転じた。公共設備投資(同16.5%増)が大きく上昇する一方、公共建設投資(同0.1%減)が僅かに減少した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲1.1%ポイントと、前期の+0.5%ポイントから減少してマイナスとなった。まず輸出は同6.0%増(前期:同7.4%増)と低下したものの、堅調な伸びを維持した。うち財貨輸出は同4.7%増(前期:同6.6%増)、サービス輸出は同9.4%増(前期:同9.9%増)となり、それぞれ小幅に低下した。また輸入は同9.0%増(前期:同7.5%増)と上昇した。うち財貨輸入が同9.3%増(前期:同8.3%増)、サービス輸入が同7.8%増(前期:同4.0%増)と、それぞれ上昇した。
(図表1)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)タイ実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、主に農業と建設業の回復が成長率上昇に繋がった(図表2)。

農林水産業は前年同期比6.5%増と、前期の同1.3%減から大きく上昇した。農業・林業(7.1%増)は好天に恵まれてコメやパーム油、果物、ゴムなどの主要農産品を中心に拡大し、2期ぶりのプラスに転じた。漁業(同0.2%増)は海外需要の拡大を受けてエビや魚を中心に増加して僅かながらプラス成長を確保した。

非農業部門では、まず製造業が同3.7%増(前期:同3.4%増)と上昇し、輸出関連産業を中心に底堅く推移した。製造業では、自動車やコンピューター・部品などの資本・技術関連産業(同7.5%増)、化学・同製品やゴム・プラスチック製品などの素材関連(同5.3%増)がそれぞれ堅調に推移した一方、食料・飲料や宝飾品などの軽工業(同0.7%減)は、たばこの物品税増税によって2期連続のマイナスとなった。また建設業は同1.2%増(前期:同5.3%減)と民間部門と公共部門が揃って増加して4期ぶりのプラスとなった。一方、電気・ガス・水供給業は同2.2%増(前期:3.1%増)と低下した。

全体の6割弱を占めるサービス業は引き続き景気の牽引役となっているが、前期から伸び率の低下した業種が多かった。卸売・小売業は同7.0%増(前期:同6.9%増)と上昇したが、ホテル・レストラン業が同12.8%増(前期:同15.3%増)、運輸・通信業が同7.1%増(前期:同8.8%増)金融業が同3.5%増(前期:同3.6%増)、不動産業が同4.5%増(前期:同5.8%増)と、それぞれ低下した。
 
 
1 5月21日、タイの国家経済社会開発委員会事務局(NESDB)は2018年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。なお、前期比(季節調整値)の実質GDP成長率は2.0%増と前期の同0.5%増から上昇した。

1-3月期GDPの評価と先行きのポイント

1-3月期は成長率が再び上昇し、5年ぶりの高水準を記録した。輸出と民間消費が引き続き成長ドライバーとなるなか、これまで低調だった投資が持ち直してきており、景気の好調が鮮明になっている。

まず輸出は財貨とサービスがそれぞれ増勢鈍化したものの、総じて堅調な伸びを維持している。財貨輸出を品目別に見ると、値上げによってゴムが落ち込んだものの、主力の輸出品である自動車や化学、石油化学製品、世界的に需要が拡大しているコンピューター部品や情報通信機器、インドネシアやアフリカ向けのコメなどは依然として好調に推移している。また1-3月期の訪タイ外国人観光客数は前年同期比15.1%増(前期:同19.5%増)と鈍化したものの、欧米からの観光客が増加して二桁増を維持している(図表3)。こうした観光業の好調を背景にサービス輸出は10%弱の高い成長を続けている。
(図表3)タイの外国人観光客数/(図表4)タイ 鉱工業生産と稼働率の推移
民間消費は緩やかに回復している。非農業部門の収入は観光関連のサービス部門を中心に増加傾向を続けており、またインフレ率も中央銀行の目標(1~4%)を下回って推移するなど、消費者信頼感指数は上昇基調にある。さらに足元では、低所得者向け支援策や最低賃金の引上げなども消費の支えとなっており、また自動車販売も好調で個人向けローンは拡大傾向にある。

これまで低調だった投資は持ち直しつつある。輸出拡大を背景に製造業の設備稼働率が上向くなか、企業信頼感指数も上昇傾向にあり、民間投資が回復した(図表4)。また公共投資は政府調達・供給管理法の改正の影響で政府の予算執行こそ遅れているものの、公営企業が進める住宅や水利施設、道路などの建設プロジェクトが進展して4期ぶりのプラスに転じた。

先行きのタイ経済は、高成長を記録した2017年と比べて成長ペースこそ落ちるだろうが、4%前後の堅調な伸びを維持しそうだ。海外経済の成長による財・サービス輸出の拡大が続けるなか、雇用・所得環境が改善して民間消費も拡大しよう。また漸く持ち直した投資も輸出型製造業の設備投資に加え、東部経済回廊などの開発プロジェクトや遅れていた予算執行の加速、1,500億バーツの補正予算の執行なども見込まれることから民間部門と公共部門がそれぞれ緩やかな伸びを維持するだろう。

GDP統計に合わせて政府が公表した18年の成長率見通しは+4.2-4.7%と、2月の+3.6~4.6%から引上げられた。落ち込んでいた投資の持ち直しを反映して、成長率見通しの下限が引上げられた結構だ。タイは順調な経済成長が続く一方で、物価は依然として低水準で推移しており、また経常黒字を背景に通貨バーツは強さを保つなど、良好な経済環境が続いている。しかし、周辺国に目を向けると通貨安や米国追随利上げなど経済環境に変化が見られている。タイは比較的外部環境に左右されやすい国であるだけに、米中貿易戦争や原油価格の上昇などが順調な経済に水を差す流れとならないか、注意深く見守る必要がある。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2018年05月21日「経済・金融フラッシュ」)

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