コラム
2018年05月16日

長さ、時間、速さの単位-宇宙人とも話が通じる?

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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古くからある単位は、長さ、時間についてのものであり、例のごとく理科年表で記載されている最古の定義は、以下のようなものである。
 
(時間) 1秒・・・平均太陽日(簡単にいうと、地球からみて太陽が1周する時間、即ち1日)の1/86400(中世以降。欧州各地の天文台などで。)
これは逆にいうと、1日=24時間=86400秒ということである。

(長さ) 1メートル・・・地球の北極から赤道までの子午線の長さの1000万分の1
(1791年 フランス科学アカデミーの提案を国民議会が承認)
 
それまで長さといえば、基準として、足のかかとから指先までの長さを基準としたり(フィートの起源)、大麦3粒分(インチの起源1)などという現在からみれば不正確な基準をもとにしたりしていたのだが、より一般的・科学的な定義とするには、個々の人間やモノによらないもの、即ち地球や天体運動を基準にするべきとの考え方から、上のような定義がなされたようである。

その後、測定技術の進歩により、地球を基準にすることすら不正確さが目に付くようになった。例えば地球が完全な球でないとわかった。あるいは、地球の自転の速さが、潮の干満・大気や海水の動きなどで常にゆらいでいることがわかってきた。

これは当時の科学の最先端地域である欧州での話であり、こうした単位の決定はフランスが主導していたようだが、1870年に普仏戦争が起こり、フランスがプロイセン(ほぼ現ドイツ)に敗北するなど政治的な背景から各国の主導権争いもあったようだが、1875年に、度量衡を国際的に統一しようという「メートル条約」が締結された。

さらに1889年には、このメートル条約に基づく第1回国際度量衡総会(CGPM:Conférence Générale des Poids et Mesures Internationales )が開催された。度量衡とは度(長さ、ものさし)量(体積、升)衡(質量、秤)のことで、当初はそうした基本的な単位のみ扱っていた。その後、電気や放射線関係なども含めた物理量全般をも検討の対象にするようになった。

第1回CGPMでは、長さと重さについての基準が承認された。

国際メートル原器・・・1メートルは国際メートル原器に刻まれた2本の線の間隔
国際キログラム原器・・・1キログラムは国際キログラム原器の質量
 
これらは、メートルのほうは、「子午線の1000万分の1」というそれまでの考えを「原器」というものを作って決めた、ということだ。重さのほうは、次回触れる予定だが、水1リットル(縦横高さが10センチの体積)の重さを1キログラムとして、それをまた原器という形で定義した、ということになる。

これと時間の単位(秒)を併せて、基本的な単位系(MKS単位系という)が構成された。

その後CGPMは、ほぼ4年に1度パリで開催され、長さなど一度決めた単位をさらに精密に定義し直したり、電流や温度など別の単位を国際的に統一した定義を決定しながら、今年2018年には第26回が予定されている。

日本は1885年にメートル条約に調印した。会議には経済産業省の管轄である計量標準総合センターの学者が参加している。
 
一挙に時代を飛ばして、最新の定義を見てみると、

1秒・・セシウム133原子の基底状態の2つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の9192631770周期の継続時間
(1967/68年 この定義は、温度0ケルビンのもとで静止した状態にあるセシウム原子に基準を置く(1997年に確認))

1メートル・・・光が真空中で1/299792482 秒の間に進む距離(1983年~)
 
ということで、もはや相当高度な物理学を知らないとついていけない。これ以上の説明は筆者の知識を超えるので、時間は、「原子レベルにおける高度に安定した繰り返し運動をもとにしているんだな」くらいの理解で勘弁して頂きたい。

長さのほうは、わかったつもりにもなれる定義だが、よく考えると、先に「速さ」の定義があることになる。つまり

真空中の光の速さ=秒速299 792 482 メートル

であることを先に決めて、それが一定の時間に進む長さを1メートルと決めた。こんな「きりの悪い数字」にしたのは、それまでの長さ、時間の基準を急に変えず、生活習慣、科学データの取り扱いに合わせるようにしたためである。
 
このことは、日頃、物理学と関わらないわれわれにとっては、意外な事実ではあるまいか。小学校以来、速さ=進んだ長さ÷かかった時間、と習ってきた。「長さ」と「時間」が先にあってこその「速さ」、と感じる人が多いのではないか。

逆に、意外でもなんでもないという感想もあっていい。というのは、「新築マンション、駅から10分」などと、距離を時間で表すやり方も普通に目にするから、である。1メートルとは駅から(いや、駅では漠然としすぎだが)約3億分の1秒、なのである。

とはいえ、なんの速さでもいいということではない2。真空中の光の速さが誰からみても一定だからこのような長さの定義ができる。こういうと、日常の感覚からするとおかしなことにならないか。止まっている人からみても、新幹線に乗っている人からみても光の速さは同じだというのである(新幹線の速さの分遅くみえたりしない。)。しかしこれまでの物理実験の結果をみると、どうやらこの世はそうなっているらしい3

こうして距離、時間、速さに関しては、当初は地球の動きなどを基準としていたが、いまやさらに一般的な物理学上の理論に基づいて、決めることができている。仮に、地球など知らない宇宙人と遭遇しても、話が通じるようになっている4、といっていいだろう。
 
では、重さの定義はどうなったのか?実は今のところ「宇宙人とは話が通じない」状態にある。依然として「これが1キログラムだ」という原器による定義が続いている。重さのこうした定義の改正は、まさに今年のCGPMで決定される予定の大きなテーマとなっている。次回はそれをみていこう。
 
1 インチの起源は、足の親指の爪の根元における幅、という説もあるようだ。
2 駅からの所要時間は、分速80mで歩くと、の話らしいが、坂道や信号もあり、幅があってもいいようである。
3 この「光速度不変の原理」などをもとに、物体の運動や電気・磁気、さらに宇宙全体を解明していこうというのが「相対性理論」である。
4 言葉そのものが通じないだろ、という突っ込みは禁止。あるいは出会った宇宙人が自分の星を基準にした単位を使っているかもしれない。 
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2018年05月16日「研究員の眼」)

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