2018年05月16日

【アジア・新興国】韓国の生命保険市場の現状-2017年のデータを中心に-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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4――市場シェアの推移

2000年以降、継続的に低下傾向にあった大手3社(サムソン生命、ハンファ生命8、教保生命)の市場シェア(保険料収入が基準)は、2017年第3四半期には46.7%で、前年同期の45.3%より小幅上昇した。一方、ING生命の売却以降、大きく減少した外資系生命保険会社の市場シェアは、2014年以降再び上昇しており、2017年第3四半期には18.6%まで上昇している(図表7)。
図表7 生命保険業界の市場シェアの動向
図表7をみると、2010年から2014年までには特に中小生命保険会社の市場シェアが大きく増加しているが、その理由としては、銀行が所有している中小生命保険会社がバンカシュアランス販売により自社商品の販売を拡大したこと、2012年3月から農協の農協共済が農協生保と農協損保に分離し市場に参入9したこと、2013年末にING生命が韓国を基盤とするMBKパートナーズ10に売却され、2014年第1四半期から中小型生命保険会社としてカウントされたこと等が挙げられる。

2017年第3四半期には、大手3社の市場シェアが上昇し、中小生命保険会社の市場シェアが低下することにより、市場への特定企業の集中度を表すハーフィンダール・ハーシュマン指数11は、1,031で、前年同期の1,000より少し増加した(図表7)。
 
8 2010年9月以前には大韓生命。
9 従来は協会の外枠であった農協共済が農協生保になることにより業界の枠内に入ってきたのが中・小型生命保険会社のシェアを増加させたと言える。
10 MBKパートナーズは、2005年に設立したアジア最大規模の投資ファンド会社である。
11 ハーフィンダール・ハーシュマン指数(Herfindahl-Hirschman Index)とは、ある産業の市場における企業の集中度を表す指標のこと。市場に参入している企業の市場占有率(%)を二乗し、すべての企業における総和を求めたものである。
 

5――資産運用

5――資産運用

2017年第3四半期の韓国の生命保険会社の資産総額は822.4兆ウォン(前年同期の775.5兆ウォンに比べて6.1%増)で、一般勘定資産の利回りは3.49%(対前年同期比0.09%ポイント減)に達した(運用資産は3.61%、非運用資産は0.57%)。一般勘定資産の中では有価証券が74.0%で最も高い割合を占めており、次は貸出債権(18.3%)、不動産(2.0%)、現金と預金(1.6%)の順であった(運用資産は一般勘定資産の95.9%、非運用資産4.1%、図表8)。
図表8 生命保険産業の資産運用の現状

6――販売チャネル

6――販売チャネル

生命保険の初回保険料を基準とした販売チャネルは、過去には保険外交員による販売が多かったものの、バンカシュアランスが登場してからは保険外交員のシェアは減少傾向にある。但し、2017年第3四半期における保険外交員のシェアは26.4%で、前年同期の17.8%より8.6%ポイントも上昇した。

一方、2016年第3四半期に64.4%まで上昇していたバンカシュアランスのシェアは2017年第3四半期には52.5%まで低下した。>バンカシュアランスのシェアが低下した理由としては、主要販売商品である年金保険と生死混合保険の販売が減少したことが挙げられる(図表9)。
図表9 生命保険の販売チャネルの推移(初回保険料基準)
保険商品販売における保険外交員のシェアが減少することにより、2008年に173,277人でピークであった保険外交員の数は2017年第3四半期には109,194人まで減少した。最近は、若者の保険外交員離れが続いており、保険外交員の高年齢化も進んでいる。若者が保険外交員になろうとしない理由は、韓国では保険外交員が個人事業主で働くケースが多く、安定的な収入が保障されていないからである。今後労働力人口の減少が予想される中で保険業界がどのように若手人材を確保するのか、また、どのような販売チャネルをより活用するのか注目したい。さらに、最近はインターネットを中心とした情報通信技術の発達や、スマートフォンやタブレットPCの発達により、保険販売におけるオンライン販売チャネルの重要性が高まっている。韓国の保険業界も、オンライン販売の重要性を認知し、自社のホームページによる販売のみならず、オンラインショッピングモールのプラットフォームやテレビショッピング・通販などを活用しながら、オンライン販売の比重を高めている。今後はオンライン販売の動向にも注目をする必要があるだろう。
参考文献
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~  日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2018年05月16日「保険・年金フォーカス」)

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