2018年05月09日

増え行く単身世帯と消費市場への影響(1)-家計消費は2020年頃をピークに減少、2040年には現在の1割減、うち単身世帯3割弱、高齢世帯が半数へ

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

文字サイズ

2世帯構造変化が与える家計消費額への影響~2020年頃をピークに減少、2040年では現在より1割減
さて、世帯構造が変わることで家計消費における構造も変わるわけだが、家計消費額全体には、どのような影響があるだろうか。

図表7に国内家計最終消費支出について世帯類型別の内訳を推計したものを示す。2015年までの値は、内閣府「国民経済計算(GDP統計)」の国内家計最終消費支出に対して、図表4で得た世帯類型の割合を乗じて、各世帯の値を得た。2020年以降は、各世帯について2015年の値を基に世帯数の増減を考慮して推計し、各世帯の値を合算して合計値を得た。

その結果、国内家計最終消費支出は2020年頃をピークに増加するものの、その後、減少に転じ、2040年には273兆円となる。2017年の国内家計最終消費支出は295兆円であるため、1割弱の減少となる。なお、2015年では単身世帯は65兆円、60歳以上の高齢世帯は123兆円、高齢単身世帯は24兆円だが、2040年には単身世帯は73兆円、高齢世帯は135兆円、高齢単身世帯は36兆円となる。
図表7 世帯類型別に見た国内家計最終消費支出の推移
なお、国内家計最終消費支出の変化について、世帯類型別に寄与度を分解すると、2025年以降の国内家計最終消費支出の減少には二人以上世帯の40歳代が、2035年からは二人以上世帯の50歳代の寄与が大きくなっている。また、二人以上世帯の30歳代や若年男女単身世帯も減少に寄与している。一方、2020年以降、国内家計最終消費支出全体としては減少しているが、増加に寄与している層を見ると、2020~2025年頃は二人以上世帯の50歳代や70歳以上が、2030~2035年頃は二人以上世帯の60歳代の寄与が大きい。また、高齢男女単身世帯も増加に寄与している。

つまり、2020年頃をピークに国内家計最終消費支出が減少する背景には、世帯当たりの消費額が少ない高齢世帯数が増える一方で、世帯当たりの消費額が多い現役世帯の世帯数が減少することがある。

なお、本稿における推計では、各世帯の消費額は2015年並みとして、世帯数の変化のみを考慮している。しかし、若い世代ほど消費性向が低下している現状もあり3、世代による消費性向の違いを考慮すると、国内家計最終消費支出の将来推計値は今回の値より少なく、早い時期から減少に転じる可能性がある。
図表8 国内家計最終消費支出における世帯構造による寄与度分解
 
3 内閣府「平成29年第5回経済財政諮問会議 資料2-2消費の持続的拡大に向けて」など。
 

4――おわりに~家計消費市場縮小を止める1つの鍵は、今後の単身世帯像を丁寧に捉えること

4――おわりに~家計消費市場縮小を止める1つの鍵は、今後の単身世帯像を丁寧に捉えること

未婚化や核家族化、高齢化の進行で単身世帯の存在感が増している。現在、世帯数全体の3割を超え、2040年には約4割となる。単身世帯の内訳を見ると、かつては若年男性が多かったが、現在は高齢女性や壮年男性が多く、2040年には高齢男女が半数を占めるようになる。

家計消費における単身世帯の存在感も増している。現在は家計消費全体の2割程度だが、2040年には3割に近づく。高齢世帯の存在感も増している。二人以上世帯と単身世帯を合わせた高齢世帯全体が家計消費に占める割合は現在では約4割、2040年には約半数となる。さらに、国内家計最終消費支出を世帯構造別に分解し将来推計を行うと、世帯当たりの消費額が少ない高齢世帯数が増える一方で、世帯当たりの消費額が多い現役世帯数が減るために、国内家計最終消費支出は2020年頃をピークに減少に転じる。なお、2015年では単身世帯は65兆円、60歳以上の高齢世帯は123兆円だが、2040年には単身世帯は73兆円、高齢世帯は135兆円となる。ただし、この推計では消費額は2015年並みとし、世帯数のみを考慮したものであるため、実際にはより少ない値となり、より早い時期から減少に転じる可能性もある。

日本の消費市場の縮小に歯止めをかけるには、増え行く単身世帯像を丁寧に捉え、単身世帯ならではのニーズに合う商品・サービスを拡充することが有効だ。

ひと昔前は、単身世帯と言うと若い男女のひとり暮らしの印象が強かったが、今後は高齢男女が増えていく。今後の単身世帯の消費市場を考える際、まずは多くが高齢者であるという量的な感覚を押さえるべきだ。次稿から単身世帯の具体的な消費生活を見ていくが、単身世帯共通の消費志向に加えて、性年代による違いに留意した商品・サービスを提供することが肝要だ。消費者が真に欲する消費生活を送ることができるようになれば、少子高齢化・人口減少が進む中でも、活気ある消費社会につながるのではないだろうか。
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2018年05月09日「基礎研レター」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【増え行く単身世帯と消費市場への影響(1)-家計消費は2020年頃をピークに減少、2040年には現在の1割減、うち単身世帯3割弱、高齢世帯が半数へ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

増え行く単身世帯と消費市場への影響(1)-家計消費は2020年頃をピークに減少、2040年には現在の1割減、うち単身世帯3割弱、高齢世帯が半数へのレポート Topへ