2018年05月02日

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2017年決算数値等に基づく現状分析-

中村 亮一

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4―まとめ

以上、欧州大手保険グループの2017 年の保険事業について、生命保険事業を中心に、地域別の事業展開の状況について報告してきた。ここで、今一度欧州大手保険グループの状況を総括するとともに、日本の生命保険会社への示唆について考えてみる。昨年度のレポートの繰り返しになる部分もあるが、この1年間の状況を踏まえて改めて述べておく。

1|市場の選別化による撤退の動き
各社の自国以外の地域への事業展開の方針等は必ずしも一様ではない。各社毎に、重点を置く事業種類等も考慮した上で、地域選定等に特徴を有した形になっている。その中には、積極的に海外進出するだけでなく、一旦進出した地域からの事業撤退等を行い、高成長市場等に資源を集中していくケースも含まれている。

具体的には、AXAのルーマニア事業の売却、Allianzの韓国生命保険事業の売却に続く台湾の生命保険ポートフォリオの移転、Prudentialの韓国の生命保険事業の売却及び英国年金市場からの一部撤退、Avivaのフランス事業の売却や台湾における合弁事業の売却、Aegonのカナダ生命保険事業に続く、米国の生命保険事業の一部の売却等が挙げられる。さらに、Generaliについては、2016年11月に新興市場を含めて最大15の市場の合理化を進めることを公表していたが、これに基づいて、オランダやアイルランドの事業の売却等を行ってきている。

2|地域毎の展開スタンスや展開状況の違い
ただし、基本的には、各社とも、自国以外の保険先進国や新興国への進出を通じて、自国以外での収益機会の拡大を目指してきており、実際に着実に一定規模の収益を確保してきている。

(1)欧州
まずは、EUの保険先進国においては、相互に参入しあって、お互いに有意な市場シェアの獲得にしのぎを削っているが、さらに中東欧の新興国やトルコ等に積極的に注力してきている。ただし、各社が特に注力する国については各社各様となっており、全ての会社が全ての国で一様に取り組んでいるわけではない。

(2)米国
また、米国においては、ここで取り上げた欧州大手保険グループでは、GeneraliとAvivaを除いて、各社とも、一定のプレゼンスを有し、高い収益を上げてきている。競争の激しい市場であるが、基本的には各社とも自社の強みを生かした分野でのさらなる成長を目指している。

(3)アジア・太平洋
アジア・太平洋においては、欧州大手保険グループは、基本的には積極的に事業展開を進めることで、収益機会を拡大させてきている。

ただし、一口にアジア・太平洋とはいっても、日本、韓国、オーストラリア等の生命保険が既に高水準で浸透している市場への取組みについては各社各様で、撤退ないしは進出をしていないケースも多く、これらの国での欧州大手保険グループのプレゼンスは必ずしも高いものとはなっていない。これらの国では、既にローカルの保険会社のプレゼンスが一定程度確固たるものになっていることや、韓国等では昨今の低金利下での過去の逆ざや契約の存在等が、これらの地域での事業展開やその継続を判断していく上で影響を与えているものと思われる。

これに対して、東南アジア諸国に対しては、今後の高成長が見込める高いポテンシャルを有する市場として、各社とも高い優先付けを与えて積極的に取り組んできている。これらの国々では、欧州大手保険グループ各社が進出して、一定の市場シェアを確保して、その地位を高めてきている。ただし、2017年においては、それまで外国企業の100%所有が認められていた国において、その見直しが行われて、外資出資規制が新たに加わるようなケース(外資出資上限の導入:インドネシアの80%、マレーシアの70%等)もあり、新興国における事業展開においては、こうした各種規制の変化に伴うリスクも念頭に置いておく必要があることを再認識させられている。

一方で、中国やインドは、巨大なポテンシャルを有して、高い成長が見込める市場ではあるが、これまでの外資規制等の影響で、ローカルの国営等の保険会社が引き続き高い市場シェアを有している。これらの国では、外資規制の下で、外資系会社も、現地の企業との提携を進める中で、着実にその地位を築き上げてきてはいるものの、そのシェアは、東南アジア諸国に比較すれば、いまだ低い水準にとどまっている。ただし、これらの国では、今後さらなる外資規制等の緩和も期待されていることから、各社ともこれらを絶好の機会と捉えて、市場シェアの拡大を目指していくことになるものと思われる。

(4)中南米
ブラジル、メキシコ等の中南米諸国についても、今後成長が期待できる市場として、欧州保険グループ各社は注目しているが、現時点でのグループ全体の財務面への影響はいまだ限定的な会社が多い。

次ページの図表は、欧州大手保険グループの生命保険事業の主要国等でのプレゼンスをまとめたものである。あくまでも、生命保険事業に限定しており、損害保険事業や資産管理事業を含めれば、より幅広い地域で事業展開をしている。

なお、前年からの地域別の進展率等についても、各社毎の異なる地域展開の方針及び地域毎の市場環境の違い等を反映して、必ずしも一様ではない。ただし、これらを合算したグループ全体の数値は、分散効果も一定程度見られる中で、比較的安定した形になっている。自国以外の地域への事業展開は、こうした点での意味合いも一定有する形になっている。
欧州大手保険グループの生命保険事業の主要国等でのプレゼンス
3|日本の生命保険会社への示唆
昨今、日本の生命保険会社も、アジアでの積極的な事業展開に加えて、米国や豪州の会社の買収等を通じて、先進国も含めた海外での生命保険事業の展開を積極化させてきている。ただし、欧州大手保険グループが以前からより積極的に海外事業展開に取り組んできたことに比べれば、日本の生命保険会社の海外事業展開やそのグループの中におけるプレゼンス、さらにはそれぞれの事業展開地域におけるプレゼンスは、まだまだ高いといえる状況にはない。

日本の大手各社が公表している経営計画等によれば、今後海外事業からの収益を拡大していく方向性が示されてきている。この際、グループでのガバナンスやリスク管理、有効な資本政策のあり方等いろいろな意味で、欧州の大手保険グループの先行的な事例に学ぶべきことは多いものと考えられる。

ただし、欧州大手保険グループの海外事業戦略においては、一方的に事業地域の拡大を図るだけではなく、各国の保険市場の特性等を分析する中で、収益状況や成長可能性等を見極めながら、コア事業となりうるものに集中し、コアでない市場からは速やかに撤退する等の方針が明確に示され、実際にその方針が実行されてきている。

単純な規模やプレゼンスの拡大を目指して、グローバル展開を進めるのではなく、自社の強みを十分に認識した上で適時適切な判断を行っていくことがより重要になってきているといえる。特に、最近の(保険会社ということではないが)日本企業による買収事例において、買収後比較的短期間において多額の減損を行うケースが見られていることは、既存保険会社の買収を通じて海外事業を展開していく場合において、買収に伴うプレミアムに見合うリターンをいかに獲得していくのかについて、会社の方針・戦略を明確化していくことの重要性を再認識させられているものと思われる。

さらに、グローバルに事業展開を進めていく上では、国際的な保険資本規制や国際的な保険会計基準の適用への対応も問われてくることになる。日本と米国はともかくとして、欧州やアジア・太平洋地域においては、基本的にはこうしたグローバルな規制の動きに対応したローカルの規制の見直し等も行われてきている。

日本の生命保険会社は、こうした世界における監督規制の動向及びそれらを通じての日本の監督規制への影響も踏まえつつ、海外事業の積極的な展開に向けた戦略や体制を構築していくことが求められてきている。

以上、ここまで、2017年における欧州大手保険グループの海外事業展開の状況を報告するとともに、これらを踏まえての日本の生命保険会社にとっての示唆について考えてきた。

欧州大手保険グループは、ある意味、最も先駆的にこれらの課題に取り組んできていることから、今後もこうした会社の戦略や方針は、今後のグローバル展開を考えていく日本の生命保険会社にとっ て、いろいろな点で大変参考になるものがあると思われる。今後とも、その動向については引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年05月02日「基礎研レポート」)

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