2018年04月17日

成長が加速するインドネシアの生保市場-インドネシアの生命保険市場(2016)-

松岡 博司

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(1)初年度収入保険料で見た新契約販売の商品別構成(個人保険・団体保険総合)
グラフ3の左側は、2016年にどの商品がどの程度販売されたかを、新規販売された契約からの初年度保険料の商品別構成比として表したものである。

これを見ると、養老保険が53.9%と一番多く、次がユニットリンク保険の25.7%で、両者をあわせた貯蓄性・投資性商品の販売割合が79.6%を占めている。保障性商品である定期保険(13.0%)、医療保険(4.4%)の比率は小さい。

(2)既存契約・新契約全契約からの収入保険料で見た保有契約の商品別構成(個人保険・団体保険総合)
グラフ3の右側は、新契約だけでなく既存の契約を含む全ての契約から収入される生命保険料を、その源にある商品別に分類したグラフである。

こちらのグラフでは、ユニットリンク保険が過半の54.5%を占め、養老保険が31.3%で続く。両者をあわせた投資性・貯蓄性商品の比率は85.8%にもなる。保障性商品である定期保険(8.3%)、医療保険(3.9%)は、初年度収入保険料におけるよりもさらに存在感が小さくなる。
3|販売チャネル
今回OJKが発表した統計資料には販売チャネルに関する統計が含まれていない。グラフ4は2017年4月の前回レポートとは情報源を変え、ミリマン社の“Indonesia Life Insurance Newsletter, June 2016”に掲載されていたインドネシア生命保険協会(AAJI)発表の2014年と2015年の統計データを使用したグラフに切り替えて掲載している。

情報源を異にするので若干、前回の数値とは食い違いがあるが、インドネシアにおける最大の生保販売チャネルがエージェントであり、それに次ぐチャネルがバンカシュランスであることは変わらない。2014年から2015年にかけて、バンカシュランスのシェアが増えつつある。
グラフ4 インドネシア生保市場における販売チャネルシェアの推移(保険料による)
4|資産運用
投資資産(総資産から非投資資産を除いたもの)の運用状況がグラフ5である。

定期預金・CD(11.8%)や国債等(15.5%)など、安全性の高い資産への投資が約3割で、上場株式(32.8%)、ミューチュアルファンド(27.9%)等のリスク性の運用対象への投資割合が6割を超えている。

リスク性資産の構成比が高い理由は、販売商品中のユニットリンク保険の割合が大きくなったことと考えられる。
グラフ5 インドネシア生保会社の投資資産の構成(2016年末)

4――市場参入の状況 会社数の推移

4――市場参入の状況 会社数の推移

1|生命保険会社
2016年末現在、インドネシアには55の登録生命保険会社がある。内訳は、内国会社が31社、外資との合弁会社が24社である。外資合弁会社数の24社は過去最高である。
表2 インドネシアの生命保険会社数の推移
収入保険料で計算した2016年のシェア(表3)を見ると、内国民間会社のシェアが39.4%、外資合弁会社のシェアが60.6%で、市場の6割を外資合弁会社が押さえている。

また収入保険料上位20社を見ると、上位に外資合弁会社が数多くランクインしている。

なお、表中第1位のプルデンシャルは英国に本拠を有するプルデンシャルplcグループの生保会社であり、本レポート冒頭に記した米国のプルデンシャルファイナンシャルとは関係のない会社である。
表3 収入保険料上位20社(2016年)
2|イスラム保険(シャリア生命保険またはタカフル生命保険)の状況
インドネシアは人口の約9割がイスラム教徒という宗教的な側面を持つ国である。そしてイスラム教徒の世界には、一般的な生保事業とは別途のイスラムの教義に即したシャリア生命保険(世界的にはタカフル生命保険と呼ばれることが多い)がある。インドネシアでもシャリア生命保険の提供がなされている。

表4はインドネシアでシャリア生命保険事業を営む会社数の推移である。2016年末現在、シャリア生命保険専業会社が6社、シャリア生命保険を提供するビジネスユニットを持つ生保会社が21社ある。このいずれの社数も過去最高である。
表4 シャリア生命保険を提供する会社数の推移
表5はシャリア生命保険事業の業績数値と一般の生命保険事業の業績数値を対比したものである。シャリア生命保険事業の規模が一般の生命保険事業の何%にあたるかを見ると、2016年では、保険料で5.7%、総資産で6.0%となっている。保険料ベースでは2014年以降、シェアが下がってきているが、総資産ベースでは反対にシェアが上昇してきている。
表5 シャリア生保事業と一般の生保事業の規模比較
今後、インドネシア経済の発展とともに国民の間に生命保険へのニーズが高まることが予想されるが、その際には、イスラム教徒の一定割合の人々がイスラムの教義に則ったシャリア生命保険に加入することを選択すると考えられる。そのためシャリア生命保険事業の将来性は明るいと見られており、これが全体としてのインドネシア生命保険市場の魅力を高めることともなっている。シャリア生命保険事業の発展を見越して多くの生命保険会社が取組を開始した。

OJKはビジネスユニットの一つとしてシャリア生命保険事業を行っている生命保険会社に対し、シャリア生命保険部門を分社化することを求めている。これに応じ2016年には1つのシャリア生命保険専業会社が発足した。
 

5――さいごに

5――さいごに

以上、主に昨年のレポートの統計数値を2016年に更新する形で、インドネシア生命保険市場の状況を見てきた。

冒頭に記したプルデンシャルファイナンシャルのような、有力生保会社の海外からの参入はこれからも続くだろう。OJKの要人は、インドネシア生保業界にはまだ新規参入社を受け入れる余地があると語っている。

2017年中には、「1つのグループは生保会社を1つにすべし」という「シングルプレゼンスルール」を遵守するために、アクサグループが、アクサ生命とアクサファイナンシャル生命を合併させた。

2014年に施行された新保険業法に基づく規制への本格対応が求められる時期を迎えているため、インドネシア生保市場におけるこうした生保会社の出資関係の調整はこれからもしばらく続きそうである。

インドネシア生保市場の動向については、今後とも継続的、定期的にフォローしていくこととしたい。
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松岡 博司

研究・専門分野

(2018年04月17日「保険・年金フォーカス」)

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