2018年04月06日

都道府県と市町村の連携は可能か-医療・介護の切れ目のない提供体制に向けて

基礎研REPORT(冊子版)4月号

保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   三原 岳

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1―はじめに~問われる都道府県と市町村の関係~

医療・介護業界で「惑星直列」と呼ばれていた2018年度制度改正が終わった。国レベルでは診療報酬と介護報酬、障害者福祉サービスの報酬がそれぞれ改定されたほか、都道府県では医療計画と医療費適正化計画の改定、国民健康保険の都道府県単位化に向けた手続きが進んだ。市町村でも介護保険事業計画が改定された。これらの制度改正の方向性を捉えると、医療行政に関する「都道府県の総合的なガバナンス」と、介護保険に関する市町村の「保険者機能」を強める方向で制度改正が進んでおり、医療行政に関する都道府県の役割と、介護行政についての市町村の役割がそれぞれ大きくなることは間違いない。

一方、診療報酬や介護報酬で重点分野とされた在宅ケアは医療・介護の垣根が低く、医療・介護連携など切れ目のない提供体制を構築する上では、都道府県と市町村の連携が求められる。

本レポートでは、制度改革で都道府県、市町村に期待されている役割を考察し、「医療=都道府県、介護=市町村」という役割分担が進む可能性を論じる。その上で、両者の連携が必要な在宅ケアを中心に、切れ目のない提供体制の構築を図る上で、市町村が医療提供体制に関与していない点を課題として挙げ、市町村に医療計画の策定を促す制度改革を提案する。

2―都道府県に期待されていること

まず、都道府県に期待されている役割基礎研レポートから考察する。昨年6月に閣議決定された「骨太方針2017」では同時改定に際して、医療費・介護費の高齢化を上回る伸びを抑制しつつ、国民のニーズに適合した効果的なサービスを効率的に提供するため、「都道府県の総合的なガバナンス」を強化すると定めた。

具体的なイメージの一端は昨年10月の財政制度等審議会(財務相の諮問機関)資料に示されている。それによると、①病床機能再編や在宅医療の充実に向けた定量的な病床数の把握、②慢性期病床に入院する患者の在宅移行推進、③病床機能再編に関する都道府県の権限整備―などを掲げつつ、都道府県の役割に期待した。さらに、医療費適正化計画の観点でも地域の実情に応じて都道府県別に診療報酬を設定する特例の活用、国民健康保険の都道府県化による負担抑制なども挙げた。

財政制度等審議会の資料は歳出削減に傾いている感が否めないが、医師確保に関する計画の策定も都道府県に義務付ける議論が別途進んでおり、こうした動向を踏まえると、医療行政に占める都道府県の役割が大きくなりつつある。

3―市町村に期待されていること

次に、市町村にはどのようなことが求められているだろうか。市町村は介護保険の保険者として財政運営に責任を持っており、介護保険事業計画の策定を通じて3年間の需要予想に立ち、65歳以上被保険者(第1号被保険者)の保険料を設定している。

今回の制度改正で期待されているのは「保険者機能」の強化である。「保険者機能」とは元々、医療分野で1990年代後半から言われ始めた考え方であり、日本では専ら健診強化の文脈でしか語られていないが、非常に多義的であり、定義を明確にする必要がある。

先行研究によると、保険制度を運営する「保険者」が医療制度における契約主体の1人として責任と権限の範囲内で活動できる能力と定義されており、レセプト(診療報酬支払明細書)の審査、適切な受診行動に向けた情報提供なども含んだ概念である。

改正介護保険法で言われている「保険者機能の強化」とは介護給付費を抑制するため、介護予防の強化を通じて高齢者の要介護度の維持・改善を図ることを重視している。

さらに、要介護度を維持・改善させた市町村を財政的に優遇するインセンティブ制度がスタートすることになっており、2018年度予算では200億円の交付金が盛り込まれており、介護予防の是非は別にしても、市町村の権限と役割を強化する意図が見て取れる。

4―制度改正の影響

以上のような制度改正の結果、「医療=都道府県、介護=市町村」という分担が明確になると、医療・介護の垣根が低い在宅ケアの推進に際して、切れ目が発生する可能性がある。そこで在宅医療の推進や医療・介護連携について、都道府県と市町村の連携が求められるほか、これらの分野に市町村が関与することが求められる。

しかし、多くの市町村では医療政策のセクションや職員を置いておらず、介護保険や健康関連の部署が併任しているところも少なくないと見られる。厚生労働省としても、表に掲げた8つの事業で構成する「在宅医療・介護連携推進事業」を市町村に義務付けることで、医療・介護連携を進めようとしているが、在宅医療や医療・介護連携を進める上では、医療提供体制に関する市町村の主体的な関与が欠かせない。
在宅医療・介護連携推進事業で求められている内容

5―市町村の事例

実際、独自の医療政策を展開する市町村が増え始めた。例えば、神奈川県横須賀市では、専門職の連携強化、市民向け啓発の2つを重視しており、前者では▽多職種による合同研修会やセミナーの開催、▽医療的な知識を持たないケアマネジャー(介護支援専門員)のための在宅療養セミナー、▽市独自の「退院前カンファレンスシート」の作成、▽異なる文化の多職種が集まった際の留意点などを定めた「よこすかエチケット集」の作成―などを展開している。

後者の市民向け啓発では、▽在宅医療を実施している医療機関の公表、▽在宅ケアに向けた心構えや方法論を記した「在宅療養ガイドブック」の作成・公表、▽在宅療養に関するシンポジウムの開催―などを実施しており、市役所や市医師会などの関係者が集まる「在宅療養連携会議」で議論・決定している。

さらに、「市医療計画」を2016年3月に作成した東京都稲城市の事例も挙げることができる。ここでは市が入手できる国民健康保険、後期高齢者の診療報酬支払明細書(レセプト)のデータを活用し、他市への患者流出入を明示しつつ、医療提供体制の現状と2025年の医療の姿を予想。さらに、市民を対象にしたアンケートに加えて、地元医師会に加入する医師にアンケートも実施し、市民のニーズと医師との認識ギャップも浮き彫りにし、市が現時点で考える施策の方向性を「あるべき姿」という別紙で整理した。

東京都武蔵野市も2017年5月、「市地域医療構想2017」を策定した。ここでも市内にある病院の廃止や建て替えも視野に入れつつ、医療需要や病院の現状を可視化した。さらに、2025年に向けた病院機能や救急医療体制の維持・充実、武蔵野赤十字病院の高度急性期としての機能強化、医療・介護連携、認知症ケアへの対応、人材確保といった対策を列挙している。

このほか、岡山県高梁市が市独自の医療計画を策定する動きが伝えられるなど、それ以外の市町村にも広がる可能性がある。言い換えると、それだけ市町村が医療行政、特に在宅医療や医療・介護連携など身近な医療分野に取り組む必要性は高まっており、市町村に医療計画の策定を促す制度改正も一つの方策として考えられる。

6―おわりに~都道府県と市町村の連携を~

医療・介護分野で進んでいる制度改革の流れに沿うと、都道府県、市町村のそれぞれが今後、住民や事業者ととともに、地域の医療・介護政策について責任を全うすることが求められる。

しかし、「医療=都道府県、介護=市町村」という役割分担が明確になると、その間の在宅ケアに関する両者の連携が問われることになり、市町村が医療行政に関わる必要がある。

確かに市町村職員からは「在宅医療に回せるほど、人も時間も余裕はない」との意見があり、小規模市町村では相次ぐ制度改正や権限移譲への対応を余儀なくされていることで、「制度改正疲れ」の状況が見受けられる。

しかし、在宅ケアを受けたい住民にとって、都道府県と市町村の「縄張り」など本来どうでも良い問題である。そして現場で連携しなければ、都道府県や市町村に付与された権限や責任は「無用の長物」と化す。切れ目のない提供体制の構築に向けて、市町村の積極姿勢や都道府県との連携、それを支える国の制度改正が望まれる。
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保険研究部   准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

(2018年04月06日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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