2018年04月06日

トランプ政権のインフラ投資計画-2,000億ドルの連邦政府支出を呼び水に、1.5兆ドルのインフラ投資の実現は可能か

基礎研REPORT(冊子版)4月号

経済研究部 主任研究員   窪谷 浩

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1―はじめに

2月12日、トランプ大統領は今後10年間で1.5兆ドル規模のインフラ投資計画の概要*1を発表した。同大統領はインフラ投資を今年の重要政策課題と位置づけ、その実現を目指している。

今回提示されたインフラ投資計画は、全体のインフラ投資目標の1.5兆ドルに対して、連邦政府支出は2,000億ドルと限定的になっており、主に州・地方政府や民間資金を活用する内容となっている。
 
 
*1 “Legislative Outline for RebuildingInfrastructure in America”(18年2月)

2―米国内インフラの状況

[交通・水道インフラ投資額] (インフラ投資額)
実質ベースでは03年をピークに頭打ち
米国の交通・水道インフラに対する公的支出額は14年度が4,160億ドルとなっており、物価を加味した実質ベースでみると03年度をピークに低下基調となっている[図表1]。

また、支出額を連邦政府、州・地方政府に分けると、14年度の連邦政府支出が963億ドル(支出全体の23%)となっているのに対し、州・地方政府が3,197億ドル(同77%)と、州・地方政府の支出が大きく、連邦政府は全体の4分の1程度を占めるに過ぎない。 さらに、州・地方政府では新規投資に比べて、維持・管理支出が大きいことが分かる。
(インフラ投資不足額)
インフラ全体で1.4兆ドルの不足
米土木学会(ASCE)は主要なインフラに対して、現在の設備を維持するのに必要な投資額および、人口増加に伴い必要となる新規投資額を合計した必要投資額を試算している。同試算では、インフラ全体で必要な投資額3.3兆ドルに対して、実際の投資額は1.9兆ドルに留まっており、1.4兆ドル程度必要な投資額を下回っている結果となっている。

このため、米国内のインフラは投資不足から、老朽化などが目立っており、本来の機能を発揮できない状況となっている。

(国際競争力ランキング)
実業界からインフラ整備を求める声
世界経済フォーラムが毎年発表している国際競争力ランキングでは、直近(17-18年版)の総合ランキングで米国はスイスに次ぐ2位となっている。一方、インフラの項目に関するランキングでは9位に留まっており、総合ランキングに比べて劣後している[図表2]。

このような状況に対して、実業界からは国際競争上不利になっているとして、米国内のインフラ整備を求める声が強い。
[インフラランキング]

3―トランプ政権のインフラ投資計画の概要

(連邦政府支出の内訳
今後10年間で2,000億ドルの歳出を要求
今回提示されたインフラ投資計画では、連邦政府自身の支出は2,000億ドルに留まっており、残りの1.3兆ドルは州・地方政府、および民間資金に頼っている所に特徴がある。2,000億ドルの支出の内訳は、1,000億ドルが州・地方政府、民間部門に対してインフラ投資の20%を上限に補助金を支給するインセンティブ補助金となっている。500億ドルが地方のインフラ投資の補助金、200億ドルが将来の国民生活に大きな恩恵をもたらしうる斬新なプロジェクトに対して80%を上限に支給する補助金、140億ドルが現行の連邦融資制度の増額と対象インフラの拡大、100億ドルが長期でリースしている資産を連邦政府が購入するための基金、残り60億ドルが非課税の民間活動債券(PAB)である[図表3]。
[インフラ投資計画に伴う連邦政府支出の内訳]
(その他のポイント)
許認可の迅速化、政府資産売却、職業訓練
上記の6項目以外には、これまで平均10年かかっていたインフラ計画の許認可について、環境規制の緩和に加え、新たな政府機関が一括して対応することで2年に短縮することを盛り込んだ。

また、鉱物やエネルギー関連の収入を主な財源にした国有地インフラ基金を国務省内に設立して国有公園などのインフラ投資に充当することや、不要な国有資産の売却なども盛り込まれた。

さらに、今回のインフラ投資計画では、米国に投資する上で最も重要な資産は人材であるとして、職業訓練プログラムの強化などの人材育成策にも取り組むこととなっている。

(インフラ投資計画の評価)
州・地方政府、民間資金を活用したインフラ投資計画の実効性に疑問
一方、今回のインフラ投資計画では、連邦政府から州・地方政府などに対する補助金の上限を一部の例外を除いて2割とし、残りの8割を州・地方政府の負担としているが、これは現行制度から州・地方政府の負担を大幅に増加させる政策変更に他ならない。

現在、州際道路など連邦政府が出資する道路建設では、連邦政府負担が8割、州政府負担が2割となっている。また、鉄道などの大量輸送プロジェクトでも連邦政府と州政府が5割ずつ負担することになっているためだ。

今回のインフラ投資計画では、許認可期間の迅速化などの方策は取られるものの、現行制度に比べて財政負担の増加が見込まれる州・地方政府が計画通りにインフラ投資を増加させるのか、その実効性に疑問の声も挙がっている。

実際、全米予算担当者協会(NASBO)によれば*2、17年度の歳入実績が当初予算を下回ったのが27州と10年(36州)以来の多さとなっており、州政府に財政拡大余地は乏しい。歳入の下振れは、エネルギー価格低迷に伴うエネルギー税収の減少や、州政府による減税などの影響が大きいようだ。

トランプ政権は、補助金を支給する際に州・地方政府などが不動産税や、インフラ利用料の引き上げなどを通じて歳入を増加させることを求めているが、実際にどの程度の州・地方政府が歳入増加策を採用して、インフラ投資を拡大するのか疑問である。
 
*2 “SUMMARY: FALL 2017 FISCAL SURVEY OF STATES” (17年12月)

4―今後の見通し

今後、議会でインフラ投資に関する議論が本格化する。今回の計画では、全体の規
模に比べて限定的とは言え、連邦政府支出の拡大が要求されている。このため、財政赤
字の拡大が見込まれるインフラ投資計画に与党である議会共和党は消極的である。

また、米国では11月に中間選挙を控えているため、インフラ投資計画の審議に割ける時間は限られる。さらに、インフラ投資計画が議会で承認されても、主に州・地方政府の財政負担を前提にしたインフラ投資計画が想定通り拡大する可能性は低いとみられる。

このため、実業界をはじめインフラ投資に対する要望は強いものの、トランプ政権 が目指すインフラ投資計画がそのままスムーズに実現する可能性は低そうだ。今後 の動向が注目される。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2018年04月06日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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