2018年04月04日

札幌オフィス市場の現況と見通し(2018年)

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

研究員 竹内 一雅

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1. はじめに

札幌オフィス市場は、2017年1月に大規模ビルが満室で竣工するなど、好調に推移している。今後も一定のオフィスビルの新規供給が予定されているものの、堅調な需要に下支えされ、需給の引き締まりは継続することが予想される。本稿では、札幌のオフィス市況を概観した上で、2024年までの賃料予測を行う1
 
1 過去の札幌オフィス市場に関するレポートは、竹内一雅「札幌オフィス市場の現況と見通し(2017年)」(2017.3.1)を参照。
 

2. 札幌オフィス市場の空室率・賃料動向

2. 札幌オフィス市場の空室率・賃料動向

2017年1月に札幌フコク生命越山ビルが満室で竣工し、空室率は低下傾向を維持している。コールセンターなどの新規進出や拡張移転、館内増床などの需要が引き続き旺盛で、札幌オフィス市場は好調に推移している。三幸エステートによると、2017年12月の空室率は4.03%と、前年同月の4.96%から低下した。空室率は過去最低水準を更新し、需給の逼迫が続いている(図表-1)。

成約賃料(オフィスレント・インデックス)は、これまで大幅に上昇したこともあり、2017年下期は前期比▲2.9%、前年同期比+0.4%となった。2017年は足踏みする結果となったが、空室率は依然低下傾向にあり、まだ賃料の上昇トレンドが終息したと結論付ける段階ではない。成約賃料は直近のボトム(2012年下期)から+45.2%上昇し、ファンドバブル期(2006年~2008年頃)のピークまであと一歩の水準に迫っている(図表-2)。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2017年の空室率と成約賃料の変化を主要都市で比較すると、札幌の空室率の改善幅は東京都心5区に次いで小さく、賃料上昇率は最低となっている(図表-3)。

今回の賃料サイクル2は、2013年下期を起点に賃料上昇が始まった。空室率は順調に低下し、賃料は力強く上昇を続けていたが、2017年に入り賃料上昇ペースが鈍化した。(図表-4)。
図表-3 2017年の主要都市のオフィス市況変化/図表-4 札幌オフィス市場の賃料サイクル
オフィスビルの空室率は、全ての規模3で低下した。中でも大規模ビルの空室率は1.51%(2017年12月時点)となり、福岡市(1.45%)に次いで低い水準にある4。大規模ビルでは、すでに空室がほとんどない状態のため、今後の低下幅は限られることとなりそうだ(図表-5)。

三鬼商事によると、2017年末の札幌ビジネス地区5の空室面積は1.2万坪(前年比▲0.6万坪)に減少し、ファンドバブル期のボトムである3.9万坪(2007年末)を大幅に下回っている(図表-6)。
図表-5 札幌オフィスの規模別空室率/図表-6 札幌ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
 
2 賃料サイクルは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図上を、その進展とともに時計回りに動く。賃料サイクルの起点を、賃料下落から上昇に転じる局面とすると、賃料サイクルは、通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、という動きになる。
3 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
4 その他の主要都市の大規模ビル空室率は、東京都心5区(1.57%)、大阪市(2.20%)、名古屋市(3.83%)、仙台市(6.03%)。
5 三鬼商事の定義による。札幌の主要5地区(駅前通・大通公園地区、駅前東西地区、南1条以南地区、創成川東・西11丁目近辺地区、北口地区)からなり、空室率等の調査対象はこの地区に立地する延床面積100坪以上の主要賃貸事務所ビル。
 

3. 札幌オフィス市場の需給動向

3. 札幌オフィス市場の需給動向

三鬼商事のデータによると、札幌ビジネス地区における賃貸可能面積は前年からほぼ横ばいとなった。賃貸面積は2011年から増加を続けており、7年間で計5.7万坪増加した。これは、ファンドバブル期を含む2003年~2007年の5年間の増加(5.4万坪)を上回る水準である(図表-7左図)。月次で見ると、2017年は大規模ビルの供給された時期に需要が大きく伸びており、新規供給に需要が喚起されていることがわかる(図表-7右図)。
図表-7 札幌ビジネス地区の賃貸オフィスの需給面積増加分
札幌の過去5年間の新規供給面積は3.9%(ストック対比)となった。主要都市と比較すると、東京都心5区(12.4%)、名古屋(12.2%)、大阪(7.3%)、札幌(3.9%)、福岡(2.9%)、仙台(1.6%)の順に新規供給が多かった(図表-8)。

この供給量と成約賃料の関係を見ると、新規供給面積が小さい都市ほど賃料上昇率が高い。新規供給の少なさが札幌の高い賃料上昇率の一因であることが窺える6(図表-9)。
図表-8 主要都市の大規模ビルの新規供給面積(2013年~2017年合計・2012年ストック対比)/図表-9 主要都市の新規供給面積と成約賃料上昇率(2013年~2017年)
 
6 仙台は新規供給が少ないにもかかわらず、2013年以降の賃料上昇が限定的である(+1.8%)。これは主要都市と比較して空室率の水準が高いことなどから、新規供給の少なさが材料視されにくかったと考えられる。
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