2018年04月03日

名古屋オフィス市場の現況と見通し(2018年)

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

研究員 竹内 一雅

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1. はじめに

2015年から名古屋駅前で大規模ビルの供給が相次いでいる。2017年もJRゲートタワーとグローバルゲートが竣工したが、需給悪化にはつながらず、市況は堅調に推移している。本稿では、名古屋のオフィス市況を概観した上で、2024年までの賃料予測を行う1
 
1 過去の名古屋オフィス市場に関するレポートは、竹内一雅「名古屋オフィス市場の現況と見通し(2017年)」(2017.2.22)を参照。
 

2. 名古屋オフィス市場の空室率・賃料動向

2. 名古屋オフィス市場の空室率・賃料動向

名古屋のオフィス市場は堅調な需要拡大が続き、空室率は低下傾向を維持している。三幸エステートによると、2017年12月の空室率は5.25%と、前年同月の6.51%からさらに低下した。2015年から2017年にかけての大量供給を結果的に難なく消化する形となった。名古屋駅前の新築ビルへ入居したテナントの多くは市内中心部からの移転であったが、郊外からの地場企業の移転ニーズも旺盛だった。また立地改善や集約などに加え、館内増床ニーズも強く、二次空室や三次空室も概ね解消している(図表-1)。

成約賃料(オフィスレント・インデックス)は、空室率の低下を背景に上昇している。2017年下期の成約賃料変動率は前期比+4.4%、前年同期比+5.3%の上昇となった。成約賃料は直近のボトム(2012年下期)から+38.2%の上昇となり、ファンドバブル期(2006年~2008年頃)のピークまであと一歩の水準に迫っている(図表-2)。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2017年の空室率と成約賃料の変化を主要都市で比較すると、名古屋駅周辺で大量供給が続いたこともあり、名古屋は空室率改善幅と賃料上昇率は双方ともにほぼ中位の水準となっている(図表-3)。

今回の賃料サイクル2は、2013年上期を起点に賃料上昇が始まった。東京や大阪では、オフィスビルの大量供給により賃料上昇局面で空室率が上昇したが3、名古屋は大量供給により需給が悪化することはなく、空室率低下と賃料上昇が着実に進んでいる(図表-4)。
図表-3 2017年の主要都市のオフィス市況変化/図表-4 名古屋オフィス市場の賃料サイクル
オフィスビルの空室率は全ての規模4で低下傾向が続いた。大規模ビルはまとまった空室を確保することが難しくなる中、相対的に規模の小さいビルにもオフィス需要が波及している(図表-5)。

三鬼商事によると、2017年末の名古屋ビジネス地区5の空室面積は4.3万坪(前年比▲1.8万坪)まで減少し、ファンドバブル期のボトムである5.6万坪(2007年末)を下回った(図表-6)。
図表-5 名古屋オフィスの規模別空室率/図表-6 名古屋ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
 
2 賃料サイクルは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図上を、その進展とともに時計回りに動く。賃料サイクルの起点を、賃料下落から上昇に転じる局面とすると、賃料サイクルは、通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、という動きになる。
3 佐久間誠「東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2018年)-2018年~2024年のオフィス賃料・空室率」(2018.2.8)の図表-5、佐久間誠「大阪オフィス市場の現況と見通し(2018年)」(2018.3.6)の図表-4を参照。
4 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
5 三鬼商事の定義による。名古屋の主要4地区(名駅地区、伏見地区、栄地区、丸の内地区)からなり、空室率等の調査対象はこの地区に立地する延床面積500坪以上の主要賃貸事務所ビル。
 

3. 名古屋オフィス市場の需給動向

3. 名古屋オフィス市場の需給動向

三鬼商事のデータによると、名古屋ビジネス地区では2015年以降の3年間で賃貸可能面積が計6.1万坪増加した。賃貸面積は2010年から増加を続けており、8年間で賃貸面積は計14.0万坪増加した。これは、ファンドバブル期を含む2003年~2008年の6年間の増加(14.0万坪)と並ぶ水準である(図表-7左図)。月次で見ると、2015年秋からの大規模ビルの供給された時期に需要が大きく伸びており、新規供給に需要が喚起されていることがわかる(図表-7右図)。
図表-7 名古屋ビジネス地区の賃貸オフィスの需給面積増加分
名古屋の過去5年間の新規供給面積は12.2%(ストック対比)となった。主要都市と比較すると、東京都心5区(12.4%)、名古屋(12.2%)、大阪(7.3%)、札幌(3.9%)、福岡(2.9%)、仙台(1.6%)の順に新規供給が多かった(図表-8)。

この供給量と成約賃料の関係を見ると、新規供給面積が小さい都市ほど賃料上昇率が高い。名古屋は2015年以降の大量供給の影響もあり、賃料上昇が抑制されたことが窺える6(図表-9)。
図表-8 主要都市の大規模ビルの新規供給面積(2013年~2017年合計・2012年ストック対比)/図表-9 主要都市の新規供給面積と成約賃料上昇率(2013年~2017年)
 
6 仙台は新規供給が少ないにもかかわらず、2013年以降の賃料上昇が限定的である(+1.8%)。これは主要都市と比較して空室率の水準が高いことなどから、新規供給の少なさが材料視されにくかったと考えられる。
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