2018年04月02日

福岡オフィス市場の現況と見通し(2018年)

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

研究員 竹内 一雅

文字サイズ

1. はじめに

福岡では好調なオフィス需要に加え、天神ビッグバンに伴う立退き移転により、需給が逼迫した状況が続いている。当面は新規供給も限られるため、需給の引き締まりは継続すると予想される。本稿では、福岡のオフィス市況を概観した上で、2024年までの賃料予測を行う1
 
1 過去の福岡オフィス市場に関するレポートとして、竹内一雅「福岡オフィス市場の現況と見通し(2017年)」(2017.2.27)を参照。
 

2. 福岡オフィス市場の空室率・賃料動向

2. 福岡オフィス市場の空室率・賃料動向

福岡のオフィス市場は堅調な需要拡大が続いている。空室が出ても館内増床で消化される場合が多く、天神ビッグバン2による建替えに伴う移転需要もあるため、新規進出や郊外からの移転などのニーズがあっても、まとまった空室を確保するのが困難な状況となっている。三幸エステートによると、2017年12月の空室率は2.77%と、前年同月の4.41%から大幅に改善した。空室率はファンドバブル期(2006年~2008年頃)のボトムを下回ったが、低下ペースは鈍らず、2015年以降は毎年1%台後半の低下が続いている(図表-1)。

成約賃料(オフィスレント・インデックス)は、空室率の改善を背景に上昇しており、2017年下期は前期比▲2.0%、前年同期比+4.1%となった。ファンドバブル期(2006年~2008年頃)を既に上回っていることもあり、2017年に入ってから賃料上昇ペースはやや鈍化している(図表-2)。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2017年の空室率と成約賃料の変化を主要都市で比較すると、福岡は空室率の改善幅は最大となる一方で、賃料上昇は小幅にとどまった(図表-3)。

今回の賃料サイクル3は、2012年後半を起点に賃料上昇が始まった。オフィスビルの新規供給が低水準にとどまる中、需給改善が順調に進んでいる。賃料は力強い上昇を続けていたが、2017年は上昇ペースがやや鈍化した(図表-4)。
図表-3 2017年の主要都市のオフィス市況変化/図表-4 福岡オフィス市場の賃料サイクル
空室率は全ての規模4で低下した。中でも大規模ビルの空室率は1.45%(2017年12月時点)で、主要都市の中で最低水準となっている。大規模並びに大型ビルの空室はほとんどないため、オフィス需要は中小規模のビルに波及し、中型ビルの空室率は前年から▲3.0%の低下となった(図表-5)。

三鬼商事によると、2017年末の福岡ビジネス地区5の空室面積は、直近のピークである2009年末の10.6万坪から8.5万坪減少し、2.1万坪(前年比▲0.8万坪)となった。ファンドバブル期のボトムである5.1万坪(2007年末)を大幅に下回っている(図表-6)。
図表-5 福岡オフィスの規模別空室率/図表-6 福岡ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
 
2 天神ビッグバンとは、航空法の高さ制限の緩和などの規制緩和に基づく天神地区における築古オフィスビルの建て替えや交通インフラの整備などの街づくりを進め、天神地区における業務・商業機能の集積と、地区の魅力を高めるためのプロジェクトである。2014年から2024年まで民間ビル30棟の建て替えることを目標としている。
3 賃料サイクルは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図上を、その進展とともに時計回りに動く。賃料サイクルの起点を、賃料下落から上昇に転じる局面とすると、賃料サイクルは、通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→④空室率低下・賃料下落、という動きになる。
4 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
5 三鬼商事の定義による。福岡の主要6地区(赤坂・大名地区、天神地区、薬院・渡辺通地区、祇園・呉服町地区、博多駅前地区、博多駅東・駅南地区)からなり、空室率等の調査対象はこの地区に立地する延床面積100坪以上の主要賃貸事務所ビル。
 

3. 福岡オフィス市場の需給動向

3. 福岡オフィス市場の需給動向

三鬼商事のデータによると、福岡ビジネス地区では賃貸可能面積の増加が抑制されている。その要因として、航空法の高さ規制と容積率規制等により中心部での建て替えが進まず、2010年以降、新規供給が限られることが挙げられる。一方、賃貸面積は2010年から増加を続けており、8年間で計9.5万坪増加した。これは、ファンドバブル期を含む2000年~2008年の9年間の増加(7.8万坪)を上回る水準である。月次で見ても、賃貸面積は着実に増加しており、特定の大規模需要に依存することなく、底堅いオフィス需要の窺える(図表-7)。
図表-7 福岡ビジネス地区の賃貸オフィスの需給面積増加分
福岡の過去5年間の新規供給面積は2.9%(ストック対比)となった。主要都市で比較すると、東京都心5区(12.4%)、名古屋(12.2%)、大阪(7.3%)、札幌(3.9%)、福岡(2.9%)、仙台(1.6%)の順に新規供給が多かった(図表-8)。

この供給量と成約賃料の関係を見ると、新規供給面積が小さい都市ほど賃料上昇率が高い。福岡の高い賃料上昇率は、新規供給の少なさが理由の1つであると言える6(図表-9)。
図表-8 主要都市の大規模ビルの新規供給面積(2013年~2017年合計・2012年ストック対比)/図表-9 主要都市の新規供給面積と成約賃料上昇率(2013年~2017年)
 
6 仙台は新規供給が少ないにもかかわらず、2013年以降の賃料上昇が限定的である(+1.8%)。これは主要都市と比較して空室率の水準が高いことなどから、新規供給の少なさが材料視されにくかったと考えられる。
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部

佐久間 誠 (さくま まこと)

竹内 一雅

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【福岡オフィス市場の現況と見通し(2018年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

福岡オフィス市場の現況と見通し(2018年)のレポート Topへ