2018年04月02日

予算編成・執行管理に係わる米政府機関の役割-立法府(議会)と行政府(大統領・官庁)のパワーバランスを支える政府機関

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1――はじめに

米国の会計年度は毎年10月1日から翌年の9月末までである。議会における予算審議は、毎年2月上旬に発表される予算教書(大統領予算)1からスタートする。予算教書は大統領府にある行政管理予算局(OMB)が策定する。一方、予算審議において予算教書はあくまで参考との位置づけとなっており、予算編成作業は議会が主導権を握っている。

もっとも、議会によって策定された予算案が最終的に法律として成立するためには、大統領の署名が必要2となるため、議会は大統領の意向を予算案に一定程度反映させることが必要となっている。その点で、議会と大統領の間で牽制機能が働いており、パワーバランスが保たれている。

一方、このようなパワーバランスを維持するために、予算編成・執行管理には行政府、立法府内の複数の政府機関が関与している。

本稿では予算編成・執行管理に係わる政府機関として、行政府に属する行政管理予算局(OMB)、財務省財政サービス局(Bureau of the Fiscal Service)、立法府に属する議会予算局(CBO)、議会調査局(CRS)、政府説明責任局(GAO、旧会計検査院)の各機関について、それぞれの役割を整理し、解説を行うものである。
 
1 大統領から議会に対する予算要求。
2 大統領が拒否権を発動した場合でも、上下院の3分の2以上の賛成で拒否権を覆すことは可能。
 

2――予算編成プロセスにおける各政府機関の役割

2――予算編成プロセスにおける各政府機関の役割

予算編成プロセスは、大きくは予算教書を作成する”Formulation”フェーズ、予算教書を基に議会が独自の予算案を審議する”Congressional”フェーズ、成立した予算法に基づき予算を執行する”Execution”フェーズ、予算執行後の監査評価を行う”Financial Management”フェーズに分けられる。後掲図表1は、19年度予算(18年10月~19年9月)を例に、法律などが定める予算編成のスケジュールと、本稿で取り上げる5つの政府機関がどのフェーズで予算編成・執行管理に関与するか示したものである。なお、19年度予算の実際の編成作業では図表で提示したものから、既にスケジュールに狂いが生じているものがあるが、本稿では無視する。また、本稿では議会審議における具体的な予算編成プロセスについての説明も割愛する3
(図表1)19年度予算編成スケジュール
 
3 予算編成プロセスの詳細についてはWeeklyエコノミストレター(2015年2月20日)「米国予算審議がキックオフー紆余曲折が予想される予算審議」を参照下さい。http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=42234?site=nli
(Formationフェーズ)
19年度予算作業は、会計年度開始から1年半前となる17年春にスタートする。各省庁は18年度の予算教書提出後から19年度予算編成の準備を開始するものの、正式にはOMBが大統領の予算や政策に対する優先順位を反映したガイダンス(Spring Guidance)を各省庁に提出することで開始される。その後、OMBは各省庁との予算折衝を行い18年2月に発表される予算教書の取り纏めを行なう。
 
(Congressionalフェーズ)
議会は、予算教書の提出を受けて予算審議を開始するが、CBOは予算審議の準備段階として18年1月に経済・財政見通し(economic and budget outlook)を議会に提出するほか、2月には提出された予算教書の内容を独自に分析した結果を議会に提出する。また、CBOは、適宜議会からの要請によって、議論されている政策を実行した場合の財政への影響などについてのコスト推計(cost estimate)を行い、予算編成作業をサポートする。一方、CRSはCBOとは別に、議会のためのシンクタンクとして、予算編成に関連する政策について広範な情報提供を行い、議員による政策立案をサポートする。これら機関のサポートを受けて議会は、10月1日の会計年度開始までに歳出法案を成立させる。
 
(Executionフェーズ)
次に、成立した歳出法に基づきOMBは年度開始前までに予算配分(Apportionment)を行い、18年10月の会計年度開始後は財務省内にある財政サービス局が歳出法案に基づいて予算執行業務を行うほか、米政府の金融報告(Financial Report of the U.S. Government)などの各種報告書の取り纏めも行う。
 
(Financial Managementフェーズ)
最後に、19年9月の会計年度終了後には予算が適切に執行されていたか、GAOは各省庁がまとめた財務諸表をOMBと協力しながら監査するほか、歳出の無駄がないか調査を行う。

以上をまとめると、大統領予算の編成がOMB、議会の予算編成サポートがCBO、CRS、予算執行がOMB、財政サービス局、監査・評価がGAO、OMBとなる。次に、各機関の成り立ちも含めて役割について補足的な説明を行う。
 

3――行政府内の機関

3――行政府内の機関

1行政管理予算局(OMB)
OMBは、1921年に「1921年予算・会計法」(The Budget and Accounting Act of 1921)によって財務省内に予算局(Bureau of the Budget、BOB)として設立され、1939年に大統領府に編入された後、1970年にOMBに改変された。OMBの局長は大統領が指名し、上院の承認が必要である。

OMBの役割は、前述のように予算教書を準備するほかに、各省庁の予算執行を監督することである。また、各行政機関における業務の効率性について評価する役割も担っている。一方、OMBもCBOと同様にコスト推計を行うものの、議会の予算編成では活用されず、もっぱら大統領の意思決定に活用される。

なお、OMBの予算は17 年度実績で9,500万ドル、フルタイムの職員数は467名となっており、大統領行政府(Executive Office of the President)の中では最大の組織となっている。
2財務省財政サービス局
財務省内にある財政サービス局は、国債発行により資金調達を担っていた国債局(Bureau of Public Debt)と、政府支出などの財務管理を担っていた財務管理局(Financial Management Service)が統合して12年10月に設立された。財務サービス局は資金調達と支払いを含めた予算執行を行うほか、各省庁からの財務情報を収集し、日次や月次で財務省収支報告書(Treasury Statement )を公表している。各省庁からの予算執行状況や財務状況はGTAS(Government-wide Treasury Account Symbol Adjusted Trail System)を通じて情報収集されている。なお、同システムの開発は財政サービス局とOMBが協力して行っている。

財務サービス局の予算は17年度実績で5億1,200万ドル、フルタイムの職員数は2,084人である。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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