2018年04月02日

EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(3)

中村 亮一

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4|XIV.CCPsへのエクスポジャーの取扱とEMIRに起因する変更5
EIOPAは、CPにおいて、2つのオプションを提案し、今後ステークホルダーの意見等も踏まえて、保険会社が清算会員又はレポ取引のために特定の規定が必要かどうか等を検討することとしていた。

今回の最終助言では、以下の2つのアプローチが示され、そのいずれかを使用することを提案している。

相対的一貫性アプローチ
保険会社のデリバティブ取引が第305条(2)CRR6に定められた要件を満たす場合、AAA格付エクスポジャーの債務不履行の可能性と、x = 0.18のロス不履行不履行の式を使用すべきである。

第305条(3)CRRの条件が満たされている場合、AA格のエクスポジャーに関する債務不履行の可能性と、x = 0.16のロス不履行債務不履行の式が使用されるべきである。

代替アプローチ
保険会社のデリバティブ取引が第305条(2)CRRに規定された要件を満たす場合、AAA格付エクスポジャーの不履行の可能性と、x = 0.5のロス不履行不履行の式を用いなければならない。

第305条(3)CRRの条件が満たされている場合は、AA格付エクスポジャーの債務不履行の可能性と、x = 0.5のロス不履行債務不履行の式が使用されるべきである。
なお、デリバティブ取引(間接的に一元的に清算されたものと双方で清算されたものの両方)のデフォルト時損失率の算定の変更等についても提案している。

CCPへのエクスポジャー
1576CCP、清算委員又は清算委員の1人又は複数の他の顧客が債務不履行になった場合に、倒産した清算メンバーに担保として資産を掲示する場合、保険会社はこれらの資産を カウンターパーティのデフォルトリスクモジュールの計算において考慮しなくてもよい。

1577EIOPAは、CCPへの間接的エクスポジャーについて、以下の2つのアプローチのいずれかを使用することを提案している。

相対的一貫性アプローチ:
1578.保険会社のデリバティブ取引が第305条(2CRRに定められた要件を満たす場合、AAA格付エクスポジャーの債務不履行の可能性と、x = 0.18のロス不履行不履行の式を使用すべきである。

1579.第305条(3CRRの条件が満たされている場合、AA格のエクスポジャーに関する債務不履行の可能性と、x = 0.16のロス不履行債務不履行の式が使用されるべきである。
代替アプローチ:

1580.保険会社のデリバティブ取引が第305条(2CRRに規定された要件を満たす場合、AAA格付エクスポジャーの不履行の可能性と、x = 0.5のロス不履行不履行の式を用いなければならない。

1581.第305条(3CRRの条件が満たされている場合は、AA格付エクスポジャーの債務不履行の可能性と、x = 0.5のロス不履行債務不履行の式が使用されるべきである。

デリバティブ取引(間接的に一元的に清算されたものと双方で清算されたものの両方)のデフォルト時損失率の算定
1582.委任規則第192条(3)のLGDの公式は、
 𝑚𝑎𝑥(x(𝐷𝑒𝑟𝑖𝑣𝑎𝑡𝑖𝑣𝑒+0.5𝑅𝑀𝑓𝑖𝑛)−𝐹0.5𝑉𝑎𝑙𝑢𝑒;0)に変更されるべきである。
ここで、両側決済の場合はx = 0.9で、xは間接的に一元的に清算された取引について上記で定義されたもの。

1583.取引相手方の破綻が生じた場合、担保を超過した相手方の破産財産の比例持分の決定は、受領した担保を考慮に入れ、要因F 'は、間接的に清算された取引に対して一元的に上に定義したxに設定すべきである。

 
5 CCPs(Central Counterparty Clearing:中央清算機関)、EMIR(European Market Infrastructure Regulation:欧州市場インフラ規則)
6 CRR(Capital Requirements Regulation:資本要件規制)
5|XVルックスルーアプローチの簡素化
CPからは、微修正が行われただけであり、以下の内容が提案されている。

・一定の条件を満たすユニット/インデックスリンク商品を20%限度額から「カーブアウト」する。
・ルックスルーアプローチを適用できない場合、SCRは、原資産が報告された資産配分に従って厳密に管理されている(そして、される)ことを条件に、集団投資会社又はファンドの直近に報告された資産配分に基づいて計算する。
・目標資産配分が全ての関連するサブモジュールと標準式のシナリオに対して必要な細分化のレベルで利用できない場合にも、「グルーピング」が保守的な方法で適用されるという条件で、エクスポジャーの「グルーピング」の使用を認める。
・簡素化されたルックスルーの適用のための追加の定性的条件、すなわち「フル」ルックスルーが適用されない場合のSCRの計算に導入された誤差の(定性的又は定量的な)評価を課す。

1643.SCRに大きく寄与しない(すなわち、重大な保証や保険契約者のオプションを伴わない保険商品)ユニット/インデックスリンク商品を20%限度額から「カーブアウト」することが提案されている。

1644.ルックスルーアプローチを適用できない場合、SCRは、原資産が、報告された資産配分に従って管理され、短期間に亘ってエクスポジャー及びリスクが大幅に変動しないことを条件に、集団投資会社又はファンドの最後に報告された資産配分に従って計算されることが提案される。

1645.委任規則第84条(3)の範囲の下で、目標資産配分が全ての関連するサブモジュールと標準式のシナリオに対して必要な細分化のレベルで利用できない場合にも、「グルーピング」が(保守的なSCRを決定することを許可する)保守的な方法で適用されるという条件で、エクスポジャーの「グルーピング」の使用を認めることが提案される。

例えば、投資ファンドの基礎となるエクスポジャーのいくつかの外部格付けに関する詳細な情報を得ることが実際的でない場合、CQSが保守的であるという条件で、これらのエクスポジャーに対する平均CQSを割り当てることによって、委任規則第84条(3)の「グルーピング」アプローチを適用することを可能とすべきである。

1646.簡素化されたルックスルーの適用のための追加の定性的条件、すなわち「フル」ルックスルーが適用されない場合のSCRの計算に導入された誤差の(定性的又は定量的な)評価を課すことが提案される(委任規則第84条第3項の簡素化されたアプローチと委任規則第168条第3項の残された「株式リスクのタイプ2」の両方に適用される)。

6|XVIグループレベルでのルックスルーアプローチ
CPでは、関連するCIUs、投資関連会社又は市場リスクへの間接的エクスポジャーを伴い、ファンドとしてパッケージ化され、国家市場間のさらなるコンバージェンスがある他の関連会社に対して、よりリスクに敏感な計算をしたい場合に、次の2つのオプションを特定していた。

a)委任規則の現在のヴァージョンを維持し、これらの会社を関連するとみなすべき時期について監督当局に対してより多くの指針を提供する。
b)欧州委員会に対し、委任規則第336条に変更を加えるように勧告し、これらの関連会社は、単独で扱われるのと同じ方法で、グループレベルで扱われる。

また、EIOPAは、ステークホルダーからのフィードバック、特にオプションb)が優先されるべきである場合、委任規則第336条(a)又は委任規則第336条(d)と同様の規定の下で、即ち分散化の利益なしで、そのような関連会社のSCRを計算する論理的根拠についての考え方を歓迎する、としていた。

今回の最終助言では、ステークホルダーのフィードバック等を受けて、オプションb)に特定している。すなわち、単独レベルでのルックスルーがある場合、グループレベルでのルックスルーが必要であり、委任規則第84条(3)の簡素化のために単独レベルのルックスルーが存在しない場合、 グループレベルでのルックスルーもなく、この場合、現在の取扱法が適用され続けることになる。

なお、ルックスルーを適用するということは、これらの関連会社に対するSCRは、関連する各会社の分散効果を考慮して計算されることを意味する。これらの関連する会社が管理されている場合、当グループが投資戦略の中で原資産を完全に統合しているため、他の連結資産との分散化利益を正当化することができる。 これらの関連する会社が支配されていない場合、当グループは原資産を支配しておらず、他の連結資産の分散化利益の認識がより適切であるとは考えていない、としている。

1684.EIOPAは、関連するCIUs、「CIUs及びファンドとしてパッケージ化された投資以外の市場リスクへの間接的エクスポジャーに対応する関連会社」及び関連する投資会社について、ルックスルーアプローチがグループレベルでどのように適用されているかを分析した。

1685.現行のアプローチは、CIUsの関連する特性の異なる評価のために、国家市場間のコンバージェンスを促進する委任規則の明確化を要求する、欧州レベルでの異なるアプローチを導いてきた。

1686.したがって、EIOPAは、欧州委員会に対し、委任規則第336条の変更を提案し、これらの関連する会社は、単独で扱われるのと同じ方法で、グループレベルで扱われるように勧告する。これは、単独レベルでのルックスルーがある場合、グループレベルでのルックスルーが必要であり、委任規則第84条(3)の簡素化のために単独レベルのルックスルーが存在しない場合、 グループレベルでのルックスルーもない。後者の場合、現在の取扱法が適用され続けるであろう。

1687.ルックスルーを適用するということは、これらの関連会社に対するSCRは、関連する各会社の分散効果を考慮して計算されることを意味する。

1688.その後の質問は、これらの関連する会社の原資産と連結貸借対照表に現れるその他の資産との間の分散効果が、グループSCR計算で認識されるべきかどうかである。


1689.これらの関連する会社が管理されている場合、当グループが投資戦略の中で原資産を完全に統合しているため、他の連結資産との分散化利益を正当化することができる。 これらの関連する会社が支配されていない場合、当グループは原資産を支配しておらず、他の連結資産の分散化利益の認識がより適切であるとは考えていない。

 

3―まとめ

3―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAが、2018年2月28日に公表した「ソルベンシーII委任規則の特定項目に関する欧州委員会へのEIOPAの第2の助言セット」の中から、資産運用に関係する項目のうち前回のレポートで報告しなかった項目について、報告してきた。

「非上場株式」の取扱については、上場株式と同様の取扱にすることができる基準等を定めているが、保険業界団体の保険ヨーロッパ(Insurance Europe)は、「提案の高水準の複雑さを懸念しており、資本要件の限られた削減では負担と費用が正当化できない」との意見を述べていた。さらには、タイプ3株式の追加リスクサブモジュールの作成を要望していた。今回の最終の助言では、これらの意見には十分に応えられるものとはなっていない。

「戦略的株式投資」については、保険ヨーロッパは、「戦略的参加の特定化の基準」に関する見直しを提案していたが、EIOPAは情報提供のみで、助言は行っていない。

「カウンターパーティデフォルトリスクの簡素化」については、保険ヨーロッパも基本的には簡素化の推進を支持しているが、一方で簡素化が過度な保守化につながる懸念を表明していたが、最終の助言ではこうした意見を踏まえた修正は行われていない。

「CCPsへのエクスポジャーの取扱とEMIRに起因する変更」については、保険ヨーロッパは基本的にはEIOPAの提案の方向性を支持している。

「ルックスルーアプローチの簡素化」については、保険ヨーロッパからの提案は反映されておらず、基本的にはCPの助言を踏襲している。

「グループレベルでのルックスルーアプローチ」については、CPで提案された2つのオプションから、保険ヨーロッパが支持したオプションが選択されている。

以上、今回の項目については、ステークホルダー等からの意見を踏まえて、修正やオプションの選択が行われているが、引き続き検討すべき課題を残したものとなっている。
次回のレポートでは、これまでに報告した保険引受けリスク及び資産運用関係以外の項目について報告する。 
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年04月02日「基礎研レポート」)

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【EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(3)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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