2018年04月02日

EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(3)

中村 亮一

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(7)その他
「仮説SCRの計算の明確化」、「委任規則第192条(2)の簡素化された計算」、「委任規則第200条のタイプ1エクスポジャーのための簡素化された計算」、「委任規則第201条の明確化」、「再保険契約のリスク軽減効果の計算の簡素化」、「委任規則第107条及び第108条の調整」、「委任規則第110条の明確化」に関する項目についての助言が行われている。

カウンターパーティデフォルトリスクモジュールの相対的重要性
1431.BSCRに対してのカウンターパーティデフォルトリスクモジュールに対する総ソルベンシー資本要件に基づいて、カウンターパーティデフォルトリスクの相対的重要性は、小規模会社の方が高い。中小企業の場合、相対的重要性はそれぞれBSCRの21%と15%である。

1432.差異は、生命保険会社と損害保険会社との間でも観察され、カウンターパーティデフォルトリスクの相対的重要性は、損害保険会社にとってより大きいように見える。

1433.カウンターパーティデフォルトリスクの相対的重要性には大きな差異があることに留意することが重要である。これは全ての規模の会社にあてはまる。全ての会社の14%(全体のTP(技術的準備金)の6%を占める)では、相対的重要性はBSCRの30%以上である。

1434.これらの数値とQIS4(第4回定量的影響調査)報告書の所見及び他の分析とを比較すると、モジュールは以前に観察されたものよりも相対的重要性が高い。QIS4と同様、管轄区域間でかなりの差異がある。

1435.相対的重要性は、平均して、リスクが全ての種類の会社にとって重要であるが、BSCRに比べて主要なリスクとは見なされない、ことを示している。

カウンターパーティデフォルトリスクモジュールの複雑さの評価
1436.全ての会社の14%が、カウンターパーティデフォルトリスクモジュールの1つ以上の簡素化を使用している。QRTs(定量的報告テンプレート)は、6つの簡素化のうちのどれを各会社が使用しているかの詳細な情報を提供していない。

1437.QRTsはまた、会社が、規模に関わらずカウンターパーティデフォルトリスクモジュールの簡素化を使用することを示している。しかし、小規模会社の7%のみが簡素化を使用しているのに対し、中規模及び大規模会社は同じ程度でこれらの簡素化を使用している。この発見は、いくつかの要因によるものかもしれない。おそらく、既存の簡素化は、小規模会社がそれらを使用するのが理にかなっているほど十分に単純ではない。別の説明は、全ての簡素化が報告されているわけではない、ということがある。小規模会社の85%が損害保険会社であることは注目に値する。

1438.小規模会社については、カウンターパーティデフォルトリスクに対する資本要件の相対的重要性が最も高い。しかし、平均して、カウンターパートデフォルトリスクモジュールのリスクは大きなリスクではなく、多くの場合、小規模会社が委任規則第88条の要件を満たし、簡素化された計算を使用することが可能になる。

1439.簡素化の使用は、管轄区域によって大きく異なる。

1440.NSAsからの情報に基づいて、6つの簡素化の各々は、少なくとも10の異なる加盟国における会社によって使用されており、6つの簡素化の各々は、少なくとも45の会社によって使用されている。いくつかの簡素化はかなりのより多くの企業によって使用されている。

1441.NSAsからの情報はまた、カウンターパーティデフォルトリスクモジュールの簡素化が最も使用されている簡素化の中にあることを示している。

1442.簡素化はこのように幅広く使用されているので、これは新しい簡素化が同様に使用されることを示している。さらに、結果はモジュールの複雑さを強調している。

カウンターパーティデフォルトリスクモジュールにおけるデリバティブの取扱
1443.EIOPAは、全てのデリバティブがタイプ1のエクスポジャーとして定義されており、LGDが、デリバティブがリスク軽減的であるかどうかに関わらず、委任規則第192(3)に従って計算される、ことを勧告する。

1444.これにより、カウンターパーティデフォルトリスクの計算に、契約上の相殺合意の経済効果を完全に反映させることができる。

金融リスク軽減手法の定義
1445.年間のQRTsから、会社がリスクをヘッジしているときに、長期及び短期の両方のポジションを使用していることは明らかである。しかし、委任規則では、金融リスク軽減手法という用語が、個々の商品に限定されているのか、あるいはそれが明確に定義されたヘッジ戦略もカバーしているのかどうかは明らかでない。

1446.これらのヘッジ戦略の経済効果を把握するために、EIOPAは、全体のヘッジ戦略が満たしている限りにおいて、個々のデリバティブ契約がリスク軽減手法の全ての要件を満たす必要がない場合のヘッジ戦略として、金融リスク軽減手法を定義することを勧告する。本質的な部分は、デリバティブが、委任規則第210条(リスクの効果的な移転)を個別に遵守する必要がない、ということである。

1447.上記の定義において、リスク軽減手法のための要件の全てを遵守する個々のデリバティブは、依然としてリスク軽減手法として定義される。

1448.EIOPAは、リスク軽減手法がヘッジ戦略である場合、リスク軽減手法は明確に定義されるべきであると提案する。委任規制第209条(3)(a)のリスク軽減手法の置換えに関する書面による方針上の既存の要件は、手法が、全てのデリバティブがリスク軽減手法の要件を満たすわけではないにせよ、デリバティブによって構成されている時に、リスク軽減手法の定義を含むように拡張することができる。

1449.EIOPAは、リスク軽減手法の定義が、デリバティブは、それが明確に定義されたリスク軽減手法の一部であれば、リスク軽減的であるという意味でのリスク軽減手法の定義に従うことを勧告する。

デリバティブのリスク軽減効果の計算
1450.以下の助言は、カウンターパーティデフォルトリスクモジュールにおけるデリバティブの取扱及びリスク軽減手法に関する助言に基づいている。

1451.EIOPAは、委任規則第196条のリスク軽減効果の計算は、契約上の合意が委任規則第214条に準拠していることを条件として、契約上の相殺合意を認識することを助言する。

1452.これは、リスク軽減効果が、契約上の相殺合意が締結されたカウンターパーティとの契約が締結した全てのデリバティブに基づいて計算されるべきであることを意味する。

1453.明確に定義されたリスク軽減手法の一環であるデリバティブは、それぞれリスク軽減効果にプラス又はマイナスの影響を与えるため、結果としてのリスク軽減効果は、仮説上カウンターパーティレベルでマイナスとなる。EIOPAは、カウンターパーティレベルでのリスク軽減効果がゼロをフロアにすることを勧告している。

1454.委任規則第196条を明確にするため、リスク軽減効果は、リスク軽減手法の要件を満たさないデリバティブについてはゼロである、ことを条項に言及することができる。

デリバティブに係るLGDの計算
1455.以下の助言は、リスク軽減手法の定義及びデリバティブのリスク軽減効果の算定に関する助言に基づいている。

1456.委任規則の第192条(1)は、契約上の相殺合意の経済効果が認識されるように修正されるべきである。

1457.委任規則第192条(3)は、契約上の相殺合意の経済効果が認識されるように修正されるべきである。それゆえ、契約上の相殺合意が成立している場合には、LGDの計算は、各デリバティブに対してではなく、カウンターパーティレベルで行われるべきである。したがって、デリバティブの価値、デリバティブのリスク軽減効果及びデリバティブに関連する担保は、全てカウンターパーティレベルで考慮されるべきである。

仮説SCRの計算の明確化
1458.委任規則第196条及び委任規則第111条の簡素化された計算の両方で、仮説SCRをどのように計算するかについては、不確実性が多いようである。したがって、EIOPAは、仮説SCRがSCRを計算するための通常の要件の後に計算されるかどうか、又は例えば、他の相関係数のような他の要件が適用されるかどうかについて、それぞれの条項に明確に記載されていることを勧告する。

1459EIOPAは仮説SCRの支配的シナリオが金利リスクと異なる場合であっても、市場リスクの仮想SCRの計算は委任規則の関連条項に従って行うべきであると勧告する。

委任規則第192条(2)の簡素化された計算
1460. EIOPAは、委任規則第192条第2項の再保険契約のためのLGD計算のための追加のオプションの簡素化を提案する。この場合、会社はLGDを
 𝐿𝐺𝐷=max{90%(𝑅𝑒𝑐𝑜𝑣𝑒𝑟𝑎𝑏𝑙𝑒𝑠+50% 𝑅𝑀𝑅𝐸)−𝐹 𝐶𝑜𝑙𝑙𝑎𝑡𝑒𝑟𝑎𝑙,0}
として直接計算することができる。

1461.簡素化は保守的であり、委任規則第192条(2)の60%の条件を評価するための負担を軽減する。

委任規則第200条のタイプ1エクスポジャーのための簡素化された計算
1462.EIOPAは、委任規制第200条のためのオプションの簡素化を提案する。:
タイプ1エクスポジャー

1463.委任規則第88条が遵守されている場合、保険又は再保険会社は、委任規則第200条の目的のために、以下の簡素化された計算を用いることができる。

 a.タイプ1エクスポジャーの損失分布の標準偏差が、全てのタイプ1エクスポジャーに関するLGDの20%以下である場合、タイプ1エクスポジャーに対するカウンターパーティデフォルトリスクの資本要件は、以下と等しくなる。
  𝑆𝐶𝑅𝑑𝑒𝑓,1 = 5・σ
 ここでσはタイプ1エクスポジャーの損失分布の標準偏差を表す。

b.タイプ1エクスポジャーの損失分布の標準偏差が、全てのタイプ1エクスポジャーに関するデフォルト時損失の20%を超える場合、タイプ1エクスポジャーに対するカウンターパーティデフォルトリスクの資本要件は、全てのタイプ1エクスポジャーの合計LGDに等しい。

1464.この簡素化は、タイプ1エクスポジャーの損失分布の標準偏差が約7%であり、SCRdef,1が結果的に3Sから5Sに又はその逆にシフトする会社に対してのSCRdef,1におけるボラティリティを減少させる。

1465.この提案は保守的であり、リスク管理の観点からのステップ変更の欠点を回避する。

委任規制第201条の明確化
1466.「違う(different)」という言葉は、Vinterにおける合計がj = kを含む可能性のある全ての組み合わせ(j、k)をカバーすべきであることを反映するために、委任規則第201条(2)(a)から削除されるべきである。

1467.委任規則の第201条(2)(a)は、次のように読む。
総額は、第199条に従った単名エクスポジャーにおけるデフォルト確率の可能な全ての組み合わせ(j、k)をカバーする。

再保険契約のリスク軽減効果の計算の簡素化
1468.EIOPAは、再保険契約のリスク軽減効果の計算のための追加のオプションの簡素化を提案する。簡素化は、再保険契約が1つの事業ラインのみに影響を及ぼす場合にのみ適用される。この場合、リスク軽減効果は次のように計算できる。


は、対応する事業ラインの委任規則第117条(2)に定義されている損害保険料及び準備金リスクの標準偏差である。
はCAT損失のカウンターパーティーシェア
は、影響を受ける事業ラインのカウンターパーティの再保険料
は、影響を受ける事業ラインのカウンターパーティに関連する未収再保険金

委任規則第107条及び第108条の調整
1469.EIOPAは、未収再保険金がマイナスでない場合にのみ、オプションの簡素化を適用できるように、委任規則第107条及び第108条を調整するように勧告する。

委任規制第110条の明確化
1470.単名エクスポジャーのグルーピングのLGDの計算のための簡素化された計算の記述は非常に簡潔である。誤解を避けるために、LGDを単名エクスポジャーのグループについて計算する時に、これがまたリスク軽減効果及び担保のリスク調整額がこの単名エクスポジャーのグループに基づいて計算されることを明確にすることは有益である。

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中村 亮一

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