2018年04月02日

EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(3)

中村 亮一

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1―はじめに

ソルベンシーIIのレビューに関して、EIOPA(欧州保険年金監督局)は、2018年2月28日に、「ソルベンシーII委任規則の特定項目に関する欧州委員会へのEIOPAの第2の助言セット」(以下、「第2の助言セット」という)をまとめて、欧州委員会に提出した1、と公表した。

前回の基礎研レポート「EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットを欧州委員会に提出(2)」(2018.3.28)では、この第2の助言セットについて、そのEIOPAによる助言のうちの資産運用に関係する項目の一部について報告した。

今回のレポートでは、資産運用に関係する残りの項目について報告する。  

2―今回のEIOPAによる第2の助言セットの具体的内容-資産運用関係(その2)-

2―今回のEIOPAによる第2の助言セットの具体的内容-資産運用関係(その2)-

この章では、EIOPAによる欧州委員会への助言内容のうち、資産運用に関係する項目のうちの前回のレポートで報告しなかった残りの項目(前々回の基礎研レポートの2―2|の24項目のうちのXI からXVI )について報告する。なお、これまでのレポートで述べているように、これらの項目に関する欧州委員会からの助言要求内容及びEIOPAが2017年11月6日に公表した「ソルベンシーII委任規則の特定項目に関する欧州委員会へのEIOPAの第2の助言セットに関するコンサルテーション・ペーパー」(以下、「CP」と言う)2での助言内容については、基礎研レポート「EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第2の助言セットについてのCPを公表(2)-欧州委員会に対する助言内容-」(2017.12.18)で報告しているので、このレポートも参照していただくことにして、今回の一連のレポートでは詳しくは説明していない。

前回のレポートで述べたように、今回のEIOPAの最終の第2の助言セットの助言内容については、いくつかの点でCPからの変更がなされ、また新たな助言の追加も行われている。

報告書の助言に関する記載内容の変更点については、基本的には「新規追加は下線付き、削除は元のCPの記述を括弧〔 〕書き、変更は変更後に下線を付けて変更前のCPを括弧( )書き」としている。ただし、「記載内容の変更点をこれらで示すことが容易でない場合には、項番号に下線」等して、適宜対応することとしている。
1|XI.非上場株式
この項目では、非上場株式が上場株式と同様の取扱にすることができる基準等を定めている。

最終の助言における記載内容は、CPに比べてより詳しいものとなっているが、これによれば、以下の通りとなっている。

「基本的な株式投資に関する基準」、「自己のリスク管理に関する基準」及び「類似性の基準」のセクションに記載されている適用条件が満たされている企業の株式への直接投資は、タイプ1の株式リスクサブモジュールでカバーされるべきである。

EIOPAは、ESMA3が、第6条(4)に定義された借入契約のみを使用するプライベート・エクイティ・ファンド又は委員会委任規則(EU)No 231/2013第8条(7)に定義される為替リスクを回避するデリバティブが、AIFMD4の下でレバレッジされているとみなされる(したがって、委任規則第168条第6項の規定に該当しない)ことを確認した場合にのみ、一定のプライベート・エクイティ投資に対する規定を提案している。

プライベート・エクイティ・ファンド又はプライベート・エクイティ・ファンド・オブ・ファンドのファンド株式に対する株式リスクチャージは、以下の適用条件が満たされている場合、非上場のポートフォリオ企業のタイプ1の株式リスク費用を適用する委任規則第84条に規定されているルックスルー手法に基づいて計算する必要がある(これらの具体的な基準についても提案されている)。

i. 「基本的な株式投資に関する基準」
ii.「ビークルに関する基準」
iii.「自己のリスク管理に関する基準」
iv.「類似性の基準」

ただし、これには、以下の合計が全ての投資の5%を超えないという制約が付されている。

i.内部査定アプローチを用いてリスク費用が決定される債務項目
ii.リスクチャージが承認された内部モデルの結果に基づいて決定される負債項目
iii.類似のアプローチが適用される非上場株式投資
 
3 ESMA(European Securities and Markets Authority:欧州証券市場監督局)
4 AIFMD(Alternative Investment Fund Manager Directive :オルタナティブ投資ファンド運用会社規制)

1248.「基本的な株式投資に関する基準」、「自己のリスク管理に関する基準」及び「類似性の基準」のセクションに記載されている適用条件が満たされている企業の株式への直接投資は、タイプ1の株式リスクサブモジュールでカバーされるべきである。

1249EIOPAは、ESMAが、第6条(4)に定義された借入契約のみを使用するプライベート・エクイティ・ファンド又は委員会委任規則(EUNo 231/20138条(7)に定義される為替リスクを回避するデリバティブが、AIFMDの下でレバレッジされているとみなされる(したがって、委任規則第168条第6項の規定に該当しない)ことを確認した場合にのみ、一定のプライベート・エクイティ投資に対する以下の規定を提案する。

1250.プライベート・エクイティ・ファンド又はプライベート・エクイティ・ファンド・オブ・ファンドのファンド株式に対する株式リスクチャージは、セクションで規定されている以下の適用条件、
 i. 「基本的な株式投資に関する基準」
 ii.「ビークルに関する基準」
 iii.「自己のリスク管理に関する基準」
 iv.「類似性の基準」
が満たされている場合、非上場のポートフォリオ企業のタイプ1の株式リスク費用を適用する委任規則第84条に規定されているルックスルー手法に基づいて計算する必要がある。

これは、以下の合計が全ての投資の5%を超えないという制約がある。
 i.内部査定アプローチを用いてリスク費用が決定される債務項目
 ii.リスクチャージが承認された内部モデルの結果に基づいて決定される負債項目
 iii.類似のアプローチが適用される非上場株式投資

基本的な株式投資に関する基準
1252.非上場企業の普通株式への投資

1253.企業はEEA又はOECD諸国からの収入が大部分を占めており、EU又はEEAに設立されている。

1254.会社は、過去3年間に欧州委員会勧告(2003/361 / EC)で定義された小規模企業よりも大きい。

1255.会社が採用しているスタッフの大部分は、EU / EEAに所在している。

1256.類似性の基準に含まれていない業種の会社については、タイプ2の株式リスク費用を適用すべきである。

ビークル基準(プライベート・エクイティ投資のみ)
1257.欧州議会及び理事会の指令2011/61 / EU(「AIFM指令」)に定義されているAIFalternative investments funds オルタナティブ投資ファンド)。

1258AIFはクローズエンド

1259.ファンドは委任規則(EU)第231/2013号の第6条(4)及び第8条(7)に定義されているように、レバレッジのみを使用する。

1260.AIFは次の要件を満たしている。
 i.ファンドは、非上場企業、投資を終了する一時的な結果としてファンド又は上場会社によって行われた投資の結果として上場されない上場企業に投資する。
 ii.投資戦略には、何年もの間、潜在的な企業に投資を継続する意思が含まれている。
 iii.ファンドのマネージャーは、基盤企業の取締役を取締役に任命する権限を有し、重要な開発又は変革をもたらすことを目的として、会社のガバナンスにおいて積極的な役割を果たしている。

分散化
1261.保険会社は少なくとも5人の独立したファンドマネージャーに投資する。
透明性
(これらの要件は、代替投資ファンド又はソルベンシーⅡの既存の要件によってすでにカバーされている場合がある)

1262.保険会社は、投資前に適切なデューデリジェンスを行うだけでなく、ファンドマネージャーの業績を評価するために必要な全ての情報(例えば、PL、ポートフォリオ会社のキャッシュフロー及び利益を意味のある集計レベルで評価する)を有している。

自己のリスク管理の基準
プライベート・エクイティ投資
1263.他の関連する条項に加えて、以下の要件が満たされるべきである(既存の要件と部分的又は完全に重複する可能性がある)。
  i.保険会社は、SCR(ソルベンシー資本要件)が計算されるたびにポートフォリオベータを計算する。
 ii.保険会社は、ファンドへの投資に先立って、デュー・ディリジェンス・プロセスに従う。これには、以下が含まれるが、これに限定されない。
 i.マネージャーが以前のファンドに投資した会社の定性的及び定量的分析
 ii.ファンドの管理方法と投資前のプロセスに関する情報を入手する。
 iii.保険会社は、継続的にファンドマネージャーの適性を評価する。
 iv.保険会社は、同等のファンドに対するファンドのパフォーマンスをベンチマークする。
 v.保険会社は、ファンドマネージャーと会社の間に定期的かつ信頼できる報告ラインがあることを確認する。
 vi.保険会社は、ファンドマネージャーによる投資判断に挑戦することができる(これは、ファンドマネージャーが、基礎資産についての十分な情報を提供することを意味する)。
vii.保険会社は、ファンドの管理者が、ファンドが投資する会社の経営陣と定期的に対話することを確認する。

直接投資
1264.要件iは、直接投資にも適用される。

類似性基準
1265.このアプローチは、各株式投資がポートフォリオ価値の10%を超えないポートフォリオに対してのみ適用することができる。

1266.非上場株式ポートフォリオのベータ版は、以下のステップで決定される。
 i. リストされていない個々の株式投資の仮想ベータは、下記の関数を使用して計算される。
 ii.ポートフォリオベータは、持分株式の簿価で加重された個々のベータの平均として計算される。

1267.ポートフォリオのベータが0.39 / 0.49のカットオフ値を超えない場合、類似基準が満たされる。

1268.非上場株式投資のベータ版は、0.9478 - 0.0034 * AvgGrossMargin + 0.0139 * TotalDebt / AvgCFO - 0.0015 * Avg Return on Common Equityを使用して計算される。

1269.この式において、「平均」とは過去5年間の年間数値の平均を意味する。それ以外の場合は、前会計年度末の値を使用する必要がある。

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中村 亮一

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