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4――「スキルマトリックス」の活用
実務上は、現任取締役の退任に際して、単発の補充として考えるのではなく、また外部招聘か内部昇格かを問わず、取締役会全体の将来像をイメージして組み立てることが重要となる。「全体と将来」を見据えたスキルマトリックスを準備しておけば、現任者の退任時期をにらんで周到に準備ができる。併せて(任意の)委員会がある場合は、その委員長にふさわしいスキルや経験も考慮しておくことが望ましい。
実際に、米国の小売大手ウォルマートの取締役会を見てみよう(図表2)。取締役会は11名の取締役からなる。CEO(Dug McMillon氏)以外にグループの会長(Greg Penner氏)や創業者Walton一族が入っているため、独立取締役は7名にとどまる。スキルマトリックスの構成を見ると、スキルや経験のカテゴリーとして「戦略(strategy)」に重きを置いているのがわかる。小売(retail)業界や海外向けビジネスの経験とともに、小売でも現在は事業展開に必須のITやe-コマースの資格や経験を有する取締役が半数近くを占めている。「規模の経済」を追求する当社のエブリデイ・ロープライス戦略(コスト戦略)はITあればこそであり、まさに戦略が取締役会構成に反映されている。
また、ウォルマート社は、このマトリックスを見れば、取締役会が経営陣に対する実効的な監督と戦略上のアドバイスに適した構成だとわかると説明する。実際に、上から4名はガバナンス要素を、それ以外の7名は戦略要素を主に取締役会にもたらしている。注目すべきは、ウォルマート社がこのスキルと経験のマトリックス軸を、取締役会のサクセションプランの一部でもあると主張している点である。取締役会構成を「全体と将来」の視点で考える姿勢が明確だ。CEOのサクセションプランをようやく真剣に検討し始めた日本で、取締役会のサクセションプランという発想を持っている会社が果たしてどれほどあるだろうか。
19 GEが米国でも突出して詳細な開示を行う理由を日本人OBに尋ねたところ、「世界一の会社は、開示も世界一になるという考え方なのだ」という回答であった。
5――日本の取締役会への示唆
コードに対する経営層の思いは別にして、少なくとも2名の社外取締役を入れて報酬を支払うのであれば、規範遵守や権威付けのためだけではなく、実利の観点から、事業戦略上の貢献を人選の要素として更に考慮すべきではないか。そうすることによって、取締役会が自然と「真剣に議論をする場」に変わっていき、結果として、本当の意味で取締役会の実効性を高めることができると思われる。日本企業もそろそろ取締役会の全体と将来を見渡し、競争優位の観点から取締役会の組織デザインに着手する時期ではないだろうか。
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江木 聡
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(2018年03月30日「基礎研レポート」)
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