2018年03月29日

雇用の不安定化が続く日韓-非正規職の問題をどう解決すればいいだろうか-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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(2) 非正規職保護法の施行以降の変化
では、非正規職保護法の施行により状況はどのように変わっただろうか。まず、雇用者に占める非正規労働者の割合の変化からみて見よう。2004年8月に37.0%であった非正規労働者の割合は、非正規職保護法の施行直後である2007年8月には35.8%まで減少した。しかしながら、2004年8月以降非正規労働者の割合は減少傾向にあったので、非正規職保護法の施行により非正規労働者の割合が減少したとは断言できない。非正規労働者の割合は2007年8月以降も減少し続け2015年3月には31.9%で、本格的に調査を始めた2004年以降最も低い水準となった。しかしながら、その後は再び増加し、2017年8月には32.9%で、2012年8月の33.2%以降5年ぶりに高い水準になった(図表8)。

 
図表8韓国における非正規労働者の割合の動向
非正規職保護法の施行前後の非正規労働者の割合の変化を男女別に見ると、男性は2006年8月と2017年8月の間に4.0ポイント非正規労働者の割合が減少していることに比べて、女性は1.4ポイントしか減少しておらず、この期間の非正規労働者の割合は主に男性を中心として減少していることがうかがえる。

また、同期間における年齢階層別の非正規労働者の割合の変化を見ると、30~39歳が9.1ポイント減少し、減少幅が最も大きく、その次は50~59歳(8.2ポイント減少)、40~49歳(7.9ポイント減少)、60歳以上(1.7ポイント減少)の順であった。一方、15~19歳と20~29歳の場合は同期間にそれぞれ2.3%と1.9%、非正規労働者の割合が増加した。最近韓国における若者の就職難が影響を与えた可能性が高い(図表9)。
図表9韓国における年齢階層別の非正規労働者の割合の動向
非正規職保護法の施行は非正規労働者の割合に影響を与えただろうか?図表10と図表11は、男女別に、そして年齢階層別に平均値の差の検定をした結果である。まず、男女別の検定結果を見ると、Levene(ルビーン)検定の結果、2つの母集団の分散が等しいことが分かる。そこで、その結果に基づいて平均の差の検定をしたところ、男女合計と男性の方で制度施行前後の非正規労働者の割合に差があり、統計的に有意である結果となった。

一方、年齢階層別の分析の結果からは、30~39歳、40~49歳、15~19歳の方で、制度施行前後の非正規労働者の割合に差があり、統計的に有意であった(50~59歳と20~29歳はLevene(ルビーン)検定の結果、等分散性がなかったので、等分散を仮定しない結果を示している)。
図表10平均値の差の検定(性別)
図表11平均値の差の検定(年齢階層別)
図表12は、雇用形態別勤続年数の推移を示しており、正規労働者の勤続年数が2006年の70カ月から2017年には90カ月まで増加していることが分かる。一方、非正規労働者の勤続年数も同期間に24カ月から30カ月に増加した。「期間制・短時間労働者法」の施行により、同じ職場で2年以上働くと、無期契約労働者として見なされるのに、なぜ非正規労働者の勤続年数が増加しているだろうか?その理由として考えられるのが「期間制・短時間労働者法」の例外条項の存在である。つまり、「期間制・短時間労働者法」の第4条では、使用者は2年を越えない範囲で期間制労働者6を使用することができると定めているものの、次の項目に該当する場合には2年を超えて期間制労働者を使用することができるようにしている7
 
  • 事業の完了あるいは特定業務の完成に必要な期間を定めた場合。
  • 休職・派遣などにより欠員が発生し、当該年に労働者が復帰するまで代わってその業務を担当する必要がある場合。
  • 労働者が学業、職業訓練などを履修しており、その履修に必要な期間を定めた場合。
  • 「高齢者雇用促進法」第2条1号による高齢者と労働契約を締結した場合。
  • 専門的知識・技術の活用が必要な場合と政府の福祉政策・失業対策などによる仕事を提供する場合で大統領令により定めた場合。
  • その他に合理的な理由がある場合で大統領令により定めた場合。
図表12 雇用形態別勤続年数の推移
図表12を見ると、限時的労働者の中で、期間制労働者(限時的①期間制)より、非期間制労働者(限時的②非期間制)の勤続年数が長く、変動が大きいことが確認できる。例えば、2017年時点における非期間制労働者(限時的②非期間制)の勤続年数は41ヶ月で期間制労働者(限時的①期間制)の29ヶ月より12ヶ月も長い。また、期間制労働者(限時的①期間制)の勤続年数は景気変動の影響を受けず小幅に増加していることに比べて、非期間制労働者(限時的②非期間制)の勤続年数は変動幅が大きい。例えば、リーマン・ショックの直後である2009年の勤続年数は23ヶ月まで低下している。ここで、「非期間制労働者」とは、契約を繰り返して継続的に働けるあるいは非自発的な理由により継続勤務が期待できない労働者である。つまり、上記例外条項に該当する労働者の多くが非期間制労働者(限時的②非期間制)に含まれている可能性が高く、企業としては2年を超えても無期契約をする必要がない、彼らを優先的に雇用したのが非正規労働者の勤続年数を高めたと考えられる
 
 
6 期間制労働者とは、期間の定めがある労働契約を締結した労働者として定義される。
7 韓国では、非正規雇用労働者を大きく「限時的労働者」、「時間制労働者」、「非典型労働者」の3つに分類している。「限時的労働者」とは、雇用期間が限定されている非正規職で、その中でも労働契約期間を定めている「期間制労働者」と労働契約期間を定めていないものの、契約を繰り返して継続的に働ける(一定の契約期間があってそれの更新を繰り返す)あるいは非自発的な理由により継続勤務が期待できない「非期間制労働者」に区分している。また、「時間制労働者」とは、労働時間を基準に分類した非正規職で、労働時間が短い労働者がこの基準が適用される(日本のパート・アルバイト)。最後に「非典型労働者」とは労働の供給方式を基準に分類した非正規職で、派遣労働者、用役労働者、特殊職労働者、日雇労働者、家庭内労働者に分けられる」金明中(2015)「日韓比較(6):非正規雇用-その2 非正規雇用労働者の内訳―短時間労働者の待遇のあり方や子育てをしている女性の働き方の改善を進めるべき!―」ニッセイ基礎研究所、研究員の眼、2015年8月11日から引用。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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