コラム
2018年03月28日

自動運転の普及とその時期-完全自動運転が普及した社会とまちづくり。その4

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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2013年8月のニュースに当時筆者は非常に驚いた。日産自動車が2020年までに複数車種において自動運転を実用化すると発表した1からだ。当時の感覚では、あと7年で本当に実用化できるの?というものだったが、2020年まで2年となった現在では、多くの人が実用化は当然といった感覚で受け止めているのではないだろうか。

日産自動車だけでなく、世界の主要各社が2020年を一つのターゲットに自動運転の実用化をめざすと発表しており2、中には、2021年までに完全自動運転の量産を始める3と表明するメーカーもあり、実用化に向けた競争が激化していることを感じる。

日本政府も、2020年に特定地域における無人自動走行による移動サービスの実現、自動運転トラック隊列走行の商業化などを官民共通の目標に掲げて4、技術開発を後押ししようとしている。

そこで次なる関心は普及のスピードである。2020年頃に完全自動運転が実用化したとして、社会に広く普及するのはいつ頃になるだろうか?普及には、自動運転車両だけでなく、MaaS(マース)5やそれを前提にした交通管制システム、車両を動かすエネルギー供給システムなどが必要になる。

これに関して興味深い調査結果がある。文部科学省が2015年に公表した、「第10回科学技術予測調査 分野別科学技術予測」である。この調査は先進的な科学技術の研究に携わる研究者に対し、現在の科学技術課題(トピック)について技術的実現時期と社会実装6時期を予測してもらうものだ。

自動運転に関しては、例えば、「公共交通が仮想化され、ユーザは行き先を指示するだけで最適の乗り物が使えるようになる」、「信号等の道路インフラおよび走行車両から得られるビッグデータを動的に活用した交通管制サービスシステム」、「環境負荷低減に寄与する、多数の移動体からの情報を一元的に管理するネットワーク制御」といったトピックが、2025年に社会実装すると予測7している。

その他、「高速道路において、電気自動車、ハイブリッド自動車の走行時に給電可能なインフラ技術」は2026年に、「自動車の走行中非接触充電技術8」は2028年に社会実装するとの予測である。これ以外にも関連するトピックの多くは2025年で、それ以外のほとんどが2030年までに収まっている。実用化と社会実装がほぼ同じ意味とすれば、実用化後5年程度、すなわち2030年頃には広く普及するのではないだろうか。

2030年は、今から12年後である。2007年に米アップル社がiPhoneを発売してから11年が経過し、その間スマートフォンの世帯普及率は7割を超えた9。これを考えるとあながち筆者の予測は、的外れではないと思うのだが、どうだろうか。
 
1 2013年8月28日 日産自動車ニュースリリース
2 例えば、トヨタは「2020年 自動車専用道路における自動運転を実現」、ホンダは「2020年頃に高速道路での自動運転実用化を目指す」としている。各社のウェブサイトより。
3 米フォード社が2016年8月16日発表。
4 「未来投資会議(第10回)配布資料」2017年6月9日 日本経済再生本部 首相官邸
5 Mobility as a Serviceの略。移動に関するモノやサービスがMaaSのシステムにつながることで、需要に対して最適な移動サービスが提供される。
6 ここでの定義は、日本社会での適用、あるいは日本が主体となって行う国際社会での適用時期としている。また、社会実装予測時を、「実現された技術が製品やサービスなどとして、利用可能な状況となる時期を指す。課題によっては、普及の時期を指す場合もある。また、科学技術以外の内容であれば、制度が確立する、倫理規範が確立する、価値観が形成される、社会的合意が形成されるなどの時期を指す」としている。
7 回答を時期の早い順に並べてその両端の1/4ずつを除いた中間の1/2の値を用いて、中間1/2の両端を回答の幅とし、中央値を実現・実装予測時期の代表値としている。
8 電源に接触せずに充電できる技術。走行中に充電できる
9 平成29年版情報通信白書(総務省)より。世帯普及率は2010年の9.7%から、5年後の2015年に72.0%になっている。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

(2018年03月28日「研究員の眼」)

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【自動運転の普及とその時期-完全自動運転が普及した社会とまちづくり。その4】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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