2018年03月28日

2020年。全国で文化の祭典を

東京2020文化オリンピアードを巡って(3)

吉本 光宏

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2――東京2020文化オリンピアード及び文化プログラムの実施状況

東京2020大会の競技は一部のものを除いてほとんどが東京圏で開催される。文化オリンピアードや文化プログラムは、地域に関係なく、誰もが文化を通してオリンピック・パラリンピックに参加できる機会を提供することが大きなねらいだ。しかも、観客や聴衆としてだけではなく、文化事業の主催者として東京2020大会に主体的に参加できる可能性もある。

では、現在の開催状況はどのようになっているのだろうか。
1|東京2020文化オリンピアードとbeyond2020文化プログラムの実施状況
まず、東京2020文化オリンピアードとbeyond 2020プログラムの実施状況について、地域別の認証件数を図表5に整理した。現状では開催都市の東京から離れるにつれて、関心が低い傾向がうかがえる。

組織委員会の集計によれば、これまでに実施済みの文化オリンピアードでは、参加人数の把握できる約500件の事業に632万人が参加している。また、beyond 2020の分野別の開催件数は図表6のとおりで、音楽や伝統芸能・まつりの件数が多い。
図表5 東京2020文化オリンピアード、beyond 2020 プログラムの地域別認証件数/図表6 beyond 2020の分野別認証件数
2|各地の実施状況
全国の実施状況を網羅的に調査するのは困難であるが、筆者が把握している範囲内で、文化オリンピアードや文化プログラムを積極的に展開している地域の例をいくつか紹介しておきたい12

まず京都では、「京都文化力プロジェクト」として様々な文化事業が実施されている13。これは、2014年8月に日本を代表する文化的リーダーからの呼びかけに基づいて立ち上げられたもので、2016年3月に「京都文化力プロジェクト2016-20基本構想」がまとめられ、同年5月に実行委員会(事務局は京都府、京都市、京都商工会議所)が設置され、同年10月に実施計画が策定された。

東京2020大会を契機に、日本の文化首都・京都を舞台に行われる文化と芸術の祭典として、「創造する文化 京都から世界へ」というコンセプトメッセージを設定、実行委員会事業、共催・連携事業、認証事業(東京2020文化オリンピアードやbeyond 2020プログラムの認証手続きの支援)の3つの枠組みで実施されている。実行委員会事業では、2017年に「東アジア文化都市2017」や「大政奉還150周年記念プロジェクト」などが実施され、18年にはアーツ アンド クラフツに着目した事業、19年にはICOM(国際博物館会議)京都大会2019などが開催される予定である。

静岡県では「地域とアートが共鳴する」というテーマを掲げて、「静岡県文化プログラム」を実施している14。基本方針は図表7に示したとおりで、地域的・社会的課題への対応や一過性のイベントではない取組を目指しているのが特徴だ。将来の地域アーツカウンシルの設立を視野に、プログラム・コーディネーターが起用されていること、独自のロゴマークを制作し県がプログラム認証する計画であることも注目できる。
図表7 静岡県文化プログラムの基本方針とロゴマーク
2016年度には11の文化・芸術分野と観光、ものづくり、産業、福祉、教育、ソーシャル・インクルージョン、地域振興など12分野の地域的・社会的課題を組み合わせたモデルプログラムが募集され、80件の応募から10件が採択、実施された。これらの事業については、成果と振り返りをまとめた詳細な報告書が発行されている。

2017年度には「文化・芸術振興プログラム」、「文化・芸術による地域・社会課題対応プログラム」という二つの区分で、2020年度までの事業計画及び21年度以降に向けたビジョンを持つプログラムを対象に公募が行われ、73件の応募の中から13件が採択、実施されている。採択された事業は、事業費の一部を静岡県文化プログラム推進委員会が負担するとともに、プログラム・コーディネーターが伴走しつつ支援を行う仕組みである。

採択事業には、アートによって障害福祉と地域、社会をつなげていく試みや東日本大震災等に関連するアートの表現に学び、静岡県の防災アートプログラムの実現を目指すもの、家庭の経済状況に関わらず子どもが多様な文化・芸術体験を積むことができるようにする取組などが含まれている。

ともすると、大がかりな文化イベントを指向しがちな中にあって、静岡県の文化プログラムは、2021年度以降のレガシーも視野に入れ、地域のNPO等などと連携しながら、文化を通して地域的・社会的課題と向き合う事業を推進する戦略的な取組と言える。

新潟市では、2017年に「新潟インターナショナルダンスフェスティバル2017(NIDAF2017)」(東京2020公認文化オリンピアード)や「第23回 BeSeTo演劇祭新潟」(東京2020応援文化オリンピアード)などを、五輪文化プログラムとして実施している15。2016年9月には、文化プログラムに全市一体で取り組み、市民の文化芸術活動の活性化を図るとともに、国際観光の振興や経済活動の推進につなげ、大会終了後もその成果を継承し、持続的な文化創造都市の推進体制を構築することを目的に「アーツカウンシル新潟」を設立した16

アーツカウンシル新潟では、文化プログラムを含む事業への助成や情報提供、水と土の芸術祭や新潟インターナショナルダンスフェスティバルなど新潟市をはじめとする市内の主催・共催事業を支援する他、新潟市が認証組織を務めるbeyond2020プログラムの申請窓口も担っている。東京2020大会の文化プログラムを契機に、市民の文化芸術活動の支援や調査・研究、情報発信、企画・立案などの機能を有するアーツカウンシルを立ち上げ、オリンピック終了後もその成果を継承し、持続的な文化創造都市の推進体制を構築しようというのが、新潟市の文化プログラムに対する取組姿勢である。

武蔵野市では、2016年3月に「東京オリンピック・パラリンピック等国際大会に向けた武蔵野市の取組方針」を、同年7月にはそれに基づいた行動計画を策定し、市内の文化団体を含めた実行委員会を組織して、まちづくりや国際交流、スポーツやオリパラ教育などと並行して文化プログラムを進めている17

武蔵野市は東京2020大会におけるルーマニアのホストタウンに決定しており、ルーマニアとの交流が文化プログラムの柱のひとつになっている。2017年には、同国のブラショフ市に本拠を置く国立交響楽団(指揮者の曽我大介氏は武蔵野市出身)のコンサートや武蔵野アール・ブリュット2017などを開催したほか、今後、ルーマニアのシビウ国際演劇祭との交流事業も検討されている。今年2月には、「文化オリンピアードで地域の活力創出を~武蔵野市で私たちができること~」と題し、実行委員会の文化・交流分科会のシンポジウムが開催され、コマネチの招聘などユニークなアイディアも出された。

東京2020大会に向けた取組方針や総合的な行動計画の中に文化プログラムを位置づけ、政府の推進するホストタウンとも連携させようというのが、武蔵野市の文化プログラムの特徴である。
写真提供:徳島県 そして、中国・四国地方で文化オリンピアードやbeyond 2020プログラムに最も積極的に取り組んでいる都道府県のひとつが徳島県である18。文化オリンピアード事業のほとんどは徳島県の主催で、創意工夫あふれる様々なイベントが開催されている。2016、17年度と連続開催されたベートーベンの第九や阿波藍は、阿波踊り、阿波人形浄瑠璃と並んで「あわ文化四大モチーフ」となっており、それらを文化オリンピアードの事業として強化、発信しようというという狙いが見て取れる19

他にもアール・ブリュットや邦楽にも力を入れており、県内の若手邦楽奏者9名で結成した「ほう楽★ガールズ徳島」が、カラフルな着物でオリジナル曲も披露するファーストライブも開催された(写真)。また、東京2020大会公式スポンサーのトヨタ自動車のトヨタコミュニティコンサートは、美馬郡つるぎ町で公認文化オリンピアードとして開催された。

beyond 2020の事業内容はさらに多彩で、主催団体に県内の市町村や商工会議所、美術館や文学館、劇場やホール、NPO、芸術団体、茶道協会、華道連盟、文化協会、高等学校文化連盟、観光協会などが並んでおり、認証をとおして県内の文化活動を活性化させようとしていることがわかる。リオ2016大会のジャパン・ハウスに展示された「阿波勝浦ビッグひな祭り」も地元NPOの主催で開催された20
 
12 本項の各地域の文化プログラムの内容については、当該事業や自治体のHPに掲載されている情報に基づいて整理した。それぞれ参照したHPは脚注のとおりである。
13 京都文化力プロジェクト(閲覧日:2018年3月22日):http://culture-project.kyoto/
14 静岡県文化プログラム(閲覧日:2018年3月22日):https://shizuoka-ac.org/ 及びhttp://www.pref.shizuoka.jp/bunka/bk-110/bunpro.html
15 新潟市五輪文化プログラム(閲覧日2018年3月22日):https://www.city.niigata.lg.jp/kanko/bunka/shinko/bunka_program/index.html
16 アーツカウンシル新潟(閲覧日2018年3月22日):https://artscouncil-niigata.jp/
17 東京オリパラ等に向けた武蔵野市の取組方針(閲覧日2018年3月22日):http://www.city.musashino.lg.jp/kurashi_guide/sports/olympic_etc/1015321.html
18 文化オリンピアード23件(公認1、応援22)、beyond 2020 プログラム127件(2018年3月16日時点の認証数)。
19 ベートーベンの第九は徳島県鳴門市のドイツ兵捕虜収容所で日本初演(アジア初演)が行われ、2018年2月のコンサートはその100年目の記念として開催された。
20 徳島県の記述については、東京2020組織委員会の東京2020参画プログラム特設サイトの掲載情報(2018年3月16日閲覧)https://participation.tokyo2020.jp/jp/、及び内閣官房オリパラ推進本部事務局提供情報に基づく。
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