2018年03月28日

2020年。全国で文化の祭典を

東京2020文化オリンピアードを巡って(3)

吉本 光宏

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1――東京2020文化オリンピアード及び文化プログラムの概要

1|オリンピックにおける文化プログラムとは
まず、オリンピックの文化プログラムについておさらいをしておきたい。オリンピック憲章では、根本原則第1に「オリンピズムはスポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求する」、また第5章では「少なくともオリンピック村の開村から閉村までの期間、文化イベントのプログラムを催すものとする」と記されている2

実際、今から100年以上前、日本が初めて選手団を派遣した1912年のストックホルム大会から様々な形で文化プログラムが行われてきた。当時は、絵画、彫刻、建築、音楽、文学の5分野の「芸術競技」として実施され、スポーツ同様、優秀作品にメダルが授与されていた。52年のヘルシンキ大会から「芸術展示」という形式に変わり3、64年の東京大会でも「日本最高の芸術品を展示する」という基本方針の下、美術や芸能の分野で多彩な展覧会や公演が行われた。

その後、92年のバルセロナ大会で4年間の「文化オリンピアード」の仕組みが導入された4。そして、2012年のロンドン大会では4年間の文化オリンピアードと大会開催年の芸術フェスティバルを組み合わせて、五輪史上かつてない規模と内容の文化プログラムが実施され、大きな成果をあげた5

2016年のリオ大会でも、ロンドン大会と同様の枠組みでの実施が検討されていたが、経済情勢の急激な悪化、大統領の弾劾問題などの影響もあって、残念ながら文化プログラムは低調なものに終わった5。これまでの五輪文化プログラムの変遷は、図表1のとおりであり、東京2020大会ではどんな文化プログラムが実施されるか、国際的な注目が高まりつつある。
図表1 文化オリンピアードの変遷
 
2(公財)日本オリンピック委員会「オリンピック憲章(2017年版)」
3 実際には文化プログラムの名称は大会ごとに様々で、Arts Exhibition以外にもArts Festival、Cultural Program、Olympic Arts Festivalなどがあった。
4 バルセロナ大会では、1988年のソウル大会終了後から「オリンピックへの道」と題して4年間の文化プログラムを展開した。また2008年の北京大会の場合は、2003年から6年間、毎年Olympic Cultural Festivalが開催された。
5 詳細は拙稿「文化の祭典、ロンドンオリンピック―東京オリンピック2020に向けて」NLI Research Institute REPORT October 2012 http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=40193?site=nli 及び 「ロンドン2012大会―文化プログラムの全国展開はどのように行われたのか」(一財)地域創造『雑誌 地域創造』2016 Spring vol.39 を参照
6 詳細は拙稿「リオ2016報告-文化プログラムを中心に」NLI Research Institute REPORT October 2016を参照
http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=54039?site=nli
2|東京2020大会の文化オリンピアード及び文化プログラムの現状
では、東京2020大会では、文化オリンピアードや文化プログラムはどのような枠組みで開催されるのだろうか。まず、東京2020組織委員会は、現在、東京2020参画プログラムの一環として「公認文化オリンピアード」と「応援文化オリンピアード」という二つの枠組みを設けて、文化オリンピアードを推進している7。その認証要件は図表2に示したとおりで、大会ビジョンの「全員が自己ベスト」「多様性と調和」「未来への継承」に加え、4つの文化オリンピアードのコンセプトを実現する事業内容であることが総合的に審査される。

この「公式の」文化オリンピアードに加え、東京2020大会を契機に様々な文化プログラムが企画・実施されつつある、というのが現状である。

周知のとおり、オリンピック・パラリンピック競技大会はスポンサーの資金提供によって実施されることから、オリンピック、パラリンピックの名称及びブランドの使用については、厳密なルールが定められている。大会スポンサー以外の民間企業等が、オリンピックやパラリンピックの文言、エンブレム等を用いることはブランドの「ただ乗り」(アンブッシュマーケティング)と見なされ、禁止されている。したがって、東京2020組織委員会が主催もしくは認証した事業以外のものついては、オリンピック・パラリンピック競技大会との関連性を明示することはできない。

しかし、各地の地方公共団体や文化施設、芸術団体などでは、公式の文化オリンピアードでなくとも、東京2020大会を契機に文化事業を新たに企画したり、既存の活動を強化したりする動きは少なくない。それらの中には、東京2020大会のスポンサー以外の民間企業や地元企業から支援を得て実施されるものも含まれている。さらに、大会スポンサー以外の民間企業の中にも、東京2020大会を機に文化事業を企画・実施するケースもあると思われる。

ある意味でそれらの受け皿となっているのが、内閣官房や文化庁が推進する「beyond 2020プログラム」である。これは、政府の「オリパラ基本方針」(2015年11月閣議決定)に基づいて実施されているもので、「2020年以降を見据え、日本の強みである地域性豊かで多様性に富んだ文化を活かし、成熟社会にふさわしい次世代に誇れるレガシーの創出に資する文化プログラムを『beyond2020プログラム』として認証し、ロゴマークを付与することで、オールジャパンで統一感を持って日本全国へ展開」8することを狙いとしている。

図表2に示したように、日本文化の魅力を発信することに加え、障がい者にとってのバリア、又は外国人にとっての言語の壁を取り除く取組であることが認証の要件である。2017年12月に開催された関係府省庁等連絡・連携会議9では、「今後、政府としては、文化プログラムの件数ではなく、国際化や共生社会への対応といったレガシーの創出に資する文化プログラムを、大会開催地にとどまらず全国に浸透させることを目標とする」という方針が示された。
 
7 東京2020参画プログラムには、文化以外に、スポーツ・健康、街づくり、持続可能性、教育、経済・テクノロジー、復興、オールジャパン・世界への発信を含め、8つの分野が設定されている。
8 beyond 2020 プログラムHP https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/beyond2020/index.htmlより
9 正確には「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた文化を通じた機運醸成策に関する関係府省庁等連絡・連携会議」で、内閣官房東京オリパラ推進本部事務局長を議長、内閣府知的財産戦略推進事務局長と文化庁長官を副議長に、各省庁や東京都、組織委員会などの構成員と全国知事会や関係独立行政法人などのオブザーバーで構成されている。
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