コラム
2018年03月27日

自動運転の普及と都市の形-完全自動運転が普及した社会とまちづくり。その2

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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自動車が誕生した当時は、インフラも一緒に造る必要があった。T型フォードが生産され、自家用車の普及にあわせて、全米にハイウェイが張り巡らされていった。自家用車での移動を前提に、郊外に住宅地が開発され、巨大なショッピングモールが整備された。

日本では、高度経済成長期以降、幹線道路網、高速道路網が整備されていき、郊外に向かってスプロール開発が進行し、あるいは住宅団地が整備されていった。このように、自家用車での移動を前提にしたまちづくりによって道路が延伸され、市街地を拡大させて、都市の形は大きく変化した。

自動運転の登場が自動車の誕生と異なるのは、既にインフラ(道路網)は整備されているという点である。前回述べたように自動運転は既存のインフラで成立するため、現在の都市にそのまま導入できる。したがって自動運転が普及しても、都市の形は変わらない。自動運転の方が都市の形に合わせるのであって、都市が自動運転というモビリティに形状を合わせる必要はない。

これは一見、当然のように思えるのだが、自家用車での移動を前提にしたまちづくりの負の側面を捉えると興味深いものがある。つまり、これまでは円滑な自動車交通を図るために道路を拡幅し、それによってまちが分断され、歩行者が脇へと追いやられていった。幹線道路網を整備しても、ショッピングセンターの売り出し日には渋滞になる。普段の3倍時間をかけて着いても、駐車場が空くのを待つのがまた一苦労だ。

自家用車という移動手段とそれを実現する道路網というインフラは、人々の移動に対する制約を大幅に解消し、日常生活になくてはならないものとなった。しかし、それによって生じる不経済や機会損失も大きかった。簡単に言うと非常に無駄が多かったのである。

これに対し、完全自動運転が普及した社会というのは、自動運転車だけでなく、通信・AIの飛躍的進化も伴いながら、人の動きを大きく変えることになる。例えば、需要に応じて必要とする以上の台数がまちを走行することはない。渋滞は未然に回避され、別の選択肢を利用者に提案する。しかも都市の環境や移動目的に合わせて最適な形態のモビリティが提供される。路地が多い旧市街地では、歩行感覚で移動できる小型のモビリティ、夜間、高速道路を使って都市間を移動する場合は、カプセルホテルのような車両がたくさん連結されたモビリティという具合だ。都市はその形を変えずに、無駄のない最適な移動手段が人々に提供されるのである。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

(2018年03月27日「研究員の眼」)

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