2018年03月16日

ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(1)-2016年結果-

中村 亮一

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3―民間医療保険の普及状況(2)-収入保険料及び給付額-

この章では、民間医療保険の普及のうちの収入保険料及び給付額の状況について報告する。
1|収入保険料
収入保険料は37,258百万ユーロ、うち代替医療保険が28,281百万ユーロ(完全医療保険が26,116百万ユーロ、長期介護保険が2,165百万ユーロ)、付加医療保険が8,158百万ユーロとなっている。このように、代替医療保険からの保険料が全体の3/4以上を占めている。

また、この民間医療保険の収入保険料水準は、公的医療保険の収入保険料の2割弱に相当している。
民間医療保険の収入保険料(商品別内訳)
ドイツ保険協会(GDV)の資料に基づくと、2016年の収入保険料は、対前年1.2%増加している。この増加率は、2012年から、過去において批判が増加していた導入的タリフ(Einsteigertarifen:Starter tariffs)6の販売推進を止めたこともあり、2014年までの5年間毎年低下してきていた。2015年は増加率を若干反転させたが、2016年は再び低下している。完全医療保険の被保険者数が新契約の低迷により、減少していることによる。
民間医療保険の収入保険料の推移
商品別では、公的医療保険に対する付加的な給付を提供する公的医療付加保険や長期介護付加保険が他の商品に比べて、相対的に高い進展率を示している。
民間医療保険-収入保険料の商品別内訳の推移-
なお、医療保険の収入保険料は、生命保険・損害保険を含めた保険会社全体の収入保険料194,309百万ユーロの2割弱に相当しているが、医療保険に対するニーズの高まりを反映して、ここ四半世紀で、この比率は徐々に増加してきている。
民間保険会社における医療保険の位置付け(医療保険会社の収入保険料シェア)
 
6 限定された給付水準で、低い保険料水準からスタートして、その後保険料が増加していく商品
2|給付額
総給付額(老齢化積立金(生命保険の責任準備金に相当)への繰入額や保険料返還を含む)の推移は、以下の通りとなっている。これまでは、老齢化積立金への繰入額の増加率が高かったが、ここ数年間は、高齢化の影響等もあり、老齢化積立金への繰入額は横ばいで、代わって保険料返還準備金(RfB)への繰入額の増加率が高くなっていた。2015年はRfB繰入額が2014年に比べて約10億ユーロ減少したが、21016年は再び約3億ユーロ増加している。
民間医療保険-給付額の内訳-
保険種類別では、医療費用保険(完全医療保険等)が全体の9割程度を占めているが、近年は長期介護保険の給付額の増加率が高い。
民間医療保険-給付額の内訳(保険商品別) -
長期介護保険以外の医療保険の給付タイプ別のシェアでは、通院給付が5割弱で最も高く、入院給付が3割弱で続いている。歯科治療給付は16.1%であるが、近年の増加率が高く、そのシェアが高くなってきている。
民間医療保険-給付額の内訳(給付タイプ別) -
なお、2016年給付額の男性・女性・子供別のシェアは以下の通りとなっている。
民間医療保険-2016年給付額のシェア(給付タイプ別・男性・女性・子供別) -
また、長期介護保険の給付額1,050百万ユーロの内訳は、通院給付が608.2百万ユーロ、入院給付が441.4百万ユーロとなっている。

2015年ベースの医療保険の給付額(老齢積立金繰入を含む)44,134百万ユーロは、生命保険・損害保険を含めた保険会社全体の給付額208,746百万ユーロの約2割に相当し、損害保険と並ぶシェアを占める形になっている。
民間保険会社における医療保険の位置付け(医療保険会社の給付額シェア)
(参考1)公的医療と民間医療の給付額(被保険者当たり)比較
公的医療(GKV)と民間医療(PKV)の給付額(被保険者当たり)を、給付別に2006年数値を100とした場合の推移は、以下の図表の通りである。

医療(Medical treatment)については、GKVの伸びが高いが、それ以外は、基本的にPKVの伸びが高くなっている。特に、歯科治療等での伸びの格差が最も大きくなっている。
公的医療と民間医療の給付額(被保険者当たり)比較
(参考2)医療保険普及率の国際比較
一人当たりの保険料及び対GDP保険料比率で見た医療保険の普及率(2016年)でみると、(1)保険密度を示す1人当たりの保険料は450ユーロで、欧州の中で、オランダの2,528ユーロがトップで、スイス、アイルランドに次いで、第4位、(2)普及率を示す対GDP保険料比率も1.19%で、オランダの6.11%、スイス、スロベニアに次いで、第4位となっている。

医療保険の普及率等は、公的医療保険制度との役割分担が大きく影響しており、民間医療保険に大きく依存しているオランダやスイスが高いものとなっているが、ドイツもこれらに次ぐ国となっている。
民間医療保険-普及率の推移-

4―まとめ

4―まとめ

以上、2016年数値に基づいて、ドイツにおける民間医療保険の普及状況について報告してきた。

ドイツの民間医療保険は、公的医療保険制度の代替をその主たる機能としつつ、高まる医療保障ニーズに対応する観点から、補完及び補足的な機能を充実させることで、着実に保険料を増加させ、その位置付けを高めてきている。

次回のレポートでは、民間医療保険会社の市場シェア、経営効率及び財務面の状況について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年03月16日「保険・年金フォーカス」)

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