2018年03月12日

共働き・子育て世帯の消費実態(3)~利便性重視志向の食生活、高い教育熱、クルマやスマホ所有が多く買い替え頻度も高い?時短・代行ニ ーズの理解が鍵。

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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4|「交通・通信」の内訳の比較~共働きでクルマやスマホの保有台数が多く、買い替え頻度も高い?
図表3 子育て世帯の「交通・通信」内訳(月平均:円) 子育て世帯の「交通・通信」支出は、共働きで多いが(月+7千円)、その内訳は、共働き世帯でも専業主婦世帯でも、「自動車関係費」が5割弱を占めて圧倒的に多く、次いで「通信」が4割弱、残りの1割強が「交通」である(図表3)。共働き世帯では専業主婦世帯と比べて、いずれの支出額も多いが、特に「自動車関係費」のうち「自動車等購入」(+2千円)や「自動車等維持」(+3千円)で差が大きい。

自動車などの高額で購入頻度の低い商品については、念のため、総務省「家計消費状況調査」(高額商品・サービスの消費やICT関連消費の実態を調査)の値もおさえたい。同調査によると、核家族世帯全体(ここでは夫婦のみと夫婦と在学者のいる勤労者世帯)と比べて、このうち共働き世帯では新車や中古車購入、各種保険料が多い。同様に、スマートフォンやパソコン購入も共働き世帯で多い。

また、総務省「平成26年全国消費実態調査」では、自動車などの耐久消費財の所有数量を見ており、二人以上勤労者世帯のうち4人世帯全体と、4人世帯のうち有業人員1人の世帯(つまり主に専業主婦世帯)の自動車所有数量を比べると、前者は千世帯当たり1533台だが、後者は1262台と少ない。このほか、オートバイ・スクーター(同様に189台、140台)やカーナビ(1007台、877台)、スマートフォン(1869台、1661台)、携帯電話(1005台、895台)でも後者の方が少ない。一方で電動アシスト自転車は後者の方が多い(114台、152台)。これらの差は、4人世帯全体ではなく、このうち共働き世帯と専業主婦世帯を比べた場合、より広がることが予想される。

つまり、共働き世帯では自動車やスマートフォンの所有台数が多いために、自動車や通信の支出がかさみ、買い替えの頻度が高い(あるいは高額なものを買っている)可能性もある。共働き世帯では、地方部など通勤手段としての自動車が複数必要な世帯も多いことや、在宅率が低いためにスマートフォンなどの通信手段の必要性が高いこと、そして、世帯収入が比較的多く消費にやや余裕があることなどがあげられる。今後、共働き世帯が増えると、これらの状況に拍車がかかる可能性もあるが、自動車については、他者と共用するカーシェアリングや相乗りをするライドシェアリングなどの登場によって、消費者全体として自動車との付き合い方に変化があらわれていることを考慮する必要がある。
5|「その他の消費支出」の内訳の比較~共働きで雑費がかさみ、個計化で使途不明金も多い傾向
図表4 子育て世帯の「その他の消費支出」内訳(月平均:円) 最後に「その他の消費支出」についても見ると、子育て世帯の「その他の消費支出」は共働き世帯で多いが(月+1.1万円)、その内訳は、共働き世帯でも専業主婦世帯でも、「諸雑費」が4割超で最も多く、次いで共働き世帯では「こづかい(使途不明金)」、僅差で「交際費」がそれぞれ2割台で続く(図表4)。専業主婦世帯では「こづかい(使途不明金)」より「交際費」の方がやや多い。

共働き世帯では専業主婦世帯と比べて、全体的に支出額が多いが、特に「諸雑費(主に他の諸雑費3)」(+4千円)や「こづかい(使途不明金)」(+3千円)、「仕送り金」(+3千円)で多い。つまり、共働き世帯では全体的に雑費がかさんでおり、使途不明金も比較的多い。使途不明金の多さは、各所で指摘されている通り、有業者が複数いることによる家計の個別化(個計化)の影響だろう。個計化に対する「家計調査」の調査手法の改善については、以前より総務省主催の研究会で議題に上がっており、2017年の「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」報告などにもあるように、オンライン家計簿が順次導入される予定だ。
 
3 信仰・祭祀費や祭具・墓石、婚礼関係費、葬儀関係費、他の冠婚葬祭費、医療保険料、他の非貯蓄型保険料、寄付金、保育費用(3歳未満の保育料や延長保育料、学童クラブ費など)、介護サービスなどが含まれる。
 

3――おわりに~共働き・フルタイム女性増で、多方面で期待できる時短・代行ニーズの広がり

3――おわりに~共働き・フルタイム女性増で、多方面で期待できる時短・代行ニーズの広がり

今後、子育て世帯では、ますます共働きが増えていく。消費力のあるパワーカップルも増えるだろう。フルタイムで働く女性が増えると、多方面に渡って、利便性重視志向による時間短縮ニーズや代行ニーズが広がるだろう。「女性の活躍促進」政策が始まって約5年経つが、仕事と育児の両立環境の整備はまだまだ過渡期だ。共働き・子育て世帯が何に困り、何を必要としているのか、そこに個人消費活性化の鍵が眠っている。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2018年03月12日「基礎研レター」)

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【共働き・子育て世帯の消費実態(3)~利便性重視志向の食生活、高い教育熱、クルマやスマホ所有が多く買い替え頻度も高い?時短・代行ニ ーズの理解が鍵。】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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