2018年03月09日

米国経済の見通し-足元の経済は好調も、18年に入り、資本市場不安定化、保護主義政策などの不安要素が浮上

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)10‐12月期の成長率は前期から伸びが鈍化も、米経済の基調は強い
米国の10-12月期実質GDP成長率(以下、成長率)は、改定値が前期比年率+2.5%(前期:+3.2%)と前期から伸びが鈍化した(図表1、図表6)。需要項目別では、外需の成長率寄与度が▲1.13%ポイント(前期:+0.36%ポイント)となったほか、在庫投資の成長率寄与度も▲0.70%ポイント(前期:+0.79%ポイント)と、いずれも前期から大幅なマイナス寄与に転じ、合計で成長率を▲1.8%ポイント程度押下げた。

一方、これら以外では住宅投資が前期比年率+13.0%(前期:▲4.7%)と3期ぶりに大幅なプラスに転じたほか、個人消費が+3.8%(前期:+2.2%)、民間設備投資が+6.6%(前期:+4.7%)、政府支出が+2.9%(前期:+0.7%)と、いずれも前期から伸びが加速した。この結果、外需と在庫投資を除いた国内最終需要は前期比年率+4.3%(前期:+1.9%)と、14年7-9月期(同+4.4%)以来の伸びに加速した。このため、成長率の伸びは鈍化も、米経済の基調は強いと判断できる。

とくに、個人消費は10-12月期の成長率を+2.6%ポイント押上げており、消費主導の景気回復持続を示した。個人消費を仔細にみると、ガソリン・エネルギー消費こそ前期比年率▲3.8%(前期:▲2.3%)のマイナスとなったものの、財消費全体では+7.5%(前期:+4.5%)、サービス消費も+2.1%(前期:+1.1%)と前期から伸びが加速したことが分かる(図表2)。

実際、個人消費にとって重要な年末商戦は、17年の売上高1が前年比+5.5%と、05年(同+6.2%)以来の高い伸びとなった(図表3)。これは、労働市場の回復が持続し雇用不安が後退する中で、消費マインドが堅調であるほか、18年から実施が決まった減税政策への期待も大きかったとみられる。
(図表2)個人消費支出(主要項目別)および可処分所得/(図表3)年末商戦売上高および前年比増加率
一方、17年末にかけて米経済は好調であったものの、18年入り後は資本市場が不安定化するなど、実体経済に対する不安要素も浮上している。2月上旬に発表された雇用統計で賃金上昇率が予想を上回ったことをきっかけに、インフレ加速から政策金利の引き上げペースが速まるとの観測などから、米長期金利(10年)は1月末の2.7%近辺から2月下旬には一時3%近くまで上昇した(図表4)。さらに、長期金利の上昇を嫌気して株価が大幅に下落した結果、投資家の先行き不安を示すVIX指数も2月上旬に一時37台前半と、中国株の下落をきっかけに世界的な株価下落となった15年夏場の40台後半に迫る水準に急上昇した。

もっとも、2月下旬以降は長期金利の上昇が一服する中でVIX指数も16台半ば(3月8日現在)まで低下しており、資本市場は安定化する動きもみられる。これまでは堅調な株価などを背景に消費者および企業センチメントが高い水準を維持していた(図表5)。しかしながら、資本市場の不安定な動きが長期化する場合には、これらのマインド悪化を通じて消費や設備投資に影響する可能性がある。
(図表4)米10年金利およびVIX指数/(図表5)消費者および企業センチメント
一方、トランプ大統領は3月8日に鉄鋼およびアルミ製品に対して通商拡大法232条(国防条項)に基づき、メキシコ及びカナダ以外から輸入する鉄鋼製品に25%、アルミ製品に10%の追加的な関税を賦課することを決定した。輸入関税は輸入品価格の上昇を通じて国内物価を押上げるほか、これらの輸入品を使って製造している製品価格の上昇や、製品を輸出する企業の国際競争力の低下が懸念されている。

また、このような関税を賦課する輸入品の対象が今後も拡大するのか注目される。これまで保護主義的な政策に対して批判的であった米国家経済会議(NEC)議長のゲイリー・コーン氏が、7日に辞任表明したことで、更なる保護主義的な政策が採用される可能性が高まっていると言えよう。

一方、今回の輸入制限措置を受けて、EUや中国などは制裁措置の発動に言及しており、世界的に輸入制限措置が拡大する場合には、世界的な貿易戦争に発展し、米経済に限らず世界経済に甚大な影響がでることが懸念される。
 
 
1 11月および12月の自動車ディーラー、ガソリン・スタンド、食品サービスを除く小売売上高の合計
(経済見通し)成長率は18年+2.7%、19年+2.5%を予想
資本市場や通商政策に関する不安要素はでているものの、これらの影響を除けば18年から19年にかけて、労働市場の回復持続が見込まれるほか、個人向け減税の恩恵もあり、消費は引き続き経済の牽引役として機能しそうだ。また、法人税制改革によって民間設備投資の拡大が見込まれるほか、2月上旬に成立した超党派予算法によって18~19年度の連邦政府予算における裁量的経費の歳出上限が引き上げられたことも、政府支出の拡大を通じて経済を下支えしよう。一方、住宅投資も根強い住宅需要を背景に回復が見込まれるものの、住宅ローン金利の上昇などもあって19年にかけては伸び鈍化が見込まれる。外需は通商政策の動向が不透明になっているものの、現段階では国内需要の堅調から成長率のマイナス寄与が持続すると予想する。

これらの結果、当研究所では資本市場が安定し、保護主義的な通商政策の採用が限定的に留まる前提で、成長率(前年比)を18年が+2.7%、19年が+2.5%と予想する(図表6)。

物価は、労働需給のタイト化に伴う賃金上昇などからコアインフレ率の底打ちが見込まれることに加え、原油価格も19年末の66ドルにかけて緩やかに上昇し、物価を押上げる状況が持続することが予想される。このため、当研究所では、消費者物価(前年比)は18年が+2.4%、19年が+2.3%と17年の+2.1%から加速すると予想する。

もっとも、通商政策において輸入品に高い関税率を賦課する動きが強まる場合には、輸入物価の上昇を通じて物価を全般的に押上げるため、物価の上振れリスクとなろう。
 
金融政策は、税制改革や拡張的な財政政策が経済成長を加速させる中、労働市場の回復持続に加えて、物価上昇が明確となることから、FRBは19年にかけて政策金利の引き上げを継続するとみられる。

当研究所では、パウエル新議長の下で18年は年4回の政策金利の引き上げを予想している。一方、輸入品に対する関税によって物価上昇率が想定以上に上振れする場合には、政策金利の引き上げペースが引き上げられるほか、資本市場の不安定な動きが長期化しマインドの悪化を通じて米実体経済への影響が懸念される場合には、引き上げペースが引き下げられよう。
 
長期金利は、物価上昇や政策金利の引き上げ方針継続に加え、減税や拡張的な財政政策に伴う債務残高の増加、FRBによるバランスシート縮小に伴う国債需給の引き締りなどから、19年にかけて3%台前半まで緩やかに上昇すると予想する。

一方、長期金利についても物価上昇率が上振れする場合や、インフラ投資拡大などの債務残高の増加懸念が顕在化する場合には長期金利に対する上昇圧力となろう。
(図表6)米国経済の見通し
上記見通しに対するリスクとしては、資本市場の不安定な状況が長期化することや、北朝鮮問題の深刻化などに伴う地政学リスクの高まりに加え、米国内政治の混乱が挙げられる。

とくに、米国内政治リスクでは、ソーシャルメディアを通じて大統領選挙に干渉したとしてロシア人13人が起訴されるなど、ロシアゲート疑惑に絡んだ捜査に進展がみられるほか、大統領に対する聴取の可能性もあり、トランプ大統領の発言によっては同大統領の弾劾リスクが浮上する可能性がある。

また、3月の保護主義的な通商政策に関する一連の発言をはじめ、トランプ大統領が唐突に政策方針を示すことや、その後発言や政策方針が二転三転するなど、政策の予見可能性が低下することは米経済に悪影響を及ぼそう。

さらに、今年11月には中間選挙を控えているが、大統領の低支持率や、共和党が民主党に対して支持率で劣後していることを踏まえると共和党が議席数を減らす可能性が高くなっている。仮に、民主党が議会で過半数を得る場合には、トランプ大統領が目指す政策を進めることが益々困難となろう。いずれにせよ、好調な米経済に対する一番のリスクはトランプ大統領自身だ。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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