2018年03月09日

人手不足に起因する物流コスト上昇が喚起する物流施設への需要(2)~コスト削減の取組みが喚起する需要とその方向性

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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2) 拠点再編の可能性が高いエリアは、「東京区部内陸」と「横浜市」
それでは、「卸売業」の物流拠点再編は、どのエリアで進むだろうか。以下では、「卸売業」の物流拠点が集積しているエリア(注)について、確認したい。

図表-6は、東京都市圏交通計画協議会「第5回東京都市圏物資流動調査」のデータに基づき、東京都市圏における物流拠点数を示したものである。業種別拠点数(図表-5・左グラフ)にみると、「卸売業」の物流拠点数(6,587拠点)は、運送業(7,474拠点)に次いで多い。また、「卸売業」に関してエリア別にみると(図表-6・右グラフ)、「東京区部内陸」(935拠点)が最も多く、「埼玉南部」(847拠点)、「東京区部臨海」(604拠点)、「千葉西北部」(547拠点)、「群馬南部」(507拠点)、「横浜市」(456拠点)にも多くの物流拠点が立地している。

また、物流業務の高度化が進む中で、(築年数が経過した)旧仕様の物流拠点も見直しの対象になりやすいと考えられる。
図表-6  東京都市圏における物流拠点数 
図表-7は、東京都市圏交通計画協議会が実施した「第5回東京都市圏物資流動調査」の「物資流動データ」に基づき、1979年以前に開設した拠点の占める割合を示したものである。1979年以前に開設した施設の占める割合は、東京都市圏全体で26%となっている。(図表-7・左グラフ)。業種別割合にみると、「卸売業」の割合は、32%と最も高い。「卸売業」は他業種と比較して、築年数の経過した物流拠点を多く保有していることが分かる。

更に、「卸売業」(エリア別)にみると(図表-7・右グラフ)、「東京区部内陸」、「横浜市」、「千葉市」、「茨城中部」では、1979年以前に開設した物流拠点が占める割合は40%以上を占めている。

上記で示したエリア別物流拠点数と合わせて考えると、「東京区部内陸」と「横浜市」には、「卸売業」が保有する築年数が経過した多くの物流拠点が現存していると推察される。これらのエリアでは、今後、物流拠点再編が進む可能性が特に高いと思われる。
図表-7 1979年以前に開設した物流拠点の占める割合
3) 立地選好では、「消費地近郊」、「配送業者の拠点との近接性」、「通勤利便性」を重視
人手不足に起因する輸送コストの上昇は、物流拠点の(同一エリア内での)立地選好にも影響を及ぼす。一五不動産情報サービスのアンケート調査によれば、約6割の企業が輸送コストを抑えるため、消費地近郊での立地とともに、ラストワンマイル2 を担う配送(宅配)業者の拠点との近接性が重視されると回答している(図表-8)。

また、パート従業員確保も物流施設の立地選定に影響を与えている。国土交通省「平成29年度土地白書」では、「近年は物流施設内の従業員の確保が重要な問題となっており、これを念頭に郊外住宅地の近くや通勤利便性の高い駅に近いこと等も重要な要因となっている」と指摘している。近年、増加している流通型の物流施設では施設内で働くパート従業員を多く確保する必要があるため、通勤利便性に優れていることが重視されている。
図表-8 輸送コストの上昇による物流施設への影響 
 
2 最寄りの配送センターから個人宅までの輸送。
 

3.物流拠点再編が喚起する大規模賃貸施設への需要

3.物流拠点再編が喚起する大規模賃貸施設への需要

(1) 拠点再編を志向する企業は、大規模賃貸施設の有望なテナントに
人手不足に起因する物流コスト上昇に伴い、前回のレポートに示した最新技術を活用した人手解消の取組み(トラック運転の自動化や物流施設の自動化・機械化、等)は更に進展するだろう。

それに伴い、物流拠点再編の受け皿となる物流施設には、複数のマテハン機器3や無人搬送機等を導入可能な一定以上の床荷重・天井高・面積を有していることが求められる。また、自動運転中のトラックや、自動化した仕分け・梱包システム等を一括管理・運営するために、事務所スペースも必要となる。自動運転トラックがスムーズに運行できる一定規模以上の接車バースも重要視されると考えられる。

上記のような設備条件と合致する物流施設は、大手不動産事業者等が開発した大規模賃貸施設に多いと思われる。前述の通り、既に大手不動産事業者が開発した大規模賃貸施設に物流拠点を集約する動きも進んでいる。
 
3 荷役作業の省力化や省人化を図る設備で、フォークリフトやベルトコンベヤ、パレット等がある。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

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