2018年03月06日

年金改革ウォッチ 2018年3月号~ポイント解説:厚生年金の加入促進

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

先月の年金事業管理部会では、日本年金機構の平成30年度計画の最終案が了承されました。また、会計検査院の指摘を受け、文書管理の電子化を検討することが報告されました。
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
2月26日(第35回)  日本年金機構の平成30年度計画の策定、その他
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000195339.html (配布資料)
 

2 ―― ポイント解説:厚生年金の加入促進

2 ―― ポイント解説:厚生年金の加入促進

先月の年金事業管理部会で了承された日本年金機構の年度計画には、国民年金保険料の徴収や年金記録の管理、サービス向上など、多方面にわたる内容が盛り込まれています。本稿では、その中から厚生年金の加入促進を取り上げます。
図表1 厚生年金の加入対象となる事業所 1|制度の再確認:法人は業種や規模に関係なく対象

厚生年金の加入(適用)と言えば、2016年10月から始まったパート労働者への適用拡大が近年の大きな話題でした。しかし、厚生年金に加入できるかは、働いている人の労働時間などだけではなく、職場が厚生年金に加入しているかも影響します。

現在の仕組みでは、法人の事業所は、業種や規模に関係なく厚生年金の強制加入の対象です。個人事業所は、法律で決められた16業種かつ従業員が5人以上の場合に、強制加入の対象となります。それ以外の個人事業所は、従業員の半数以上の同意を得れば、任意で加入できます。
図表2 加入促進にむけた関係機関との連携/図表3 年金機構の指導で加入した事業所 2|加入促進の経緯:関係機関と連携して推進

厚生年金への加入は、原則、事業主が自主的に行います。そのため、中には厚生年金の加入を逃れる事業所もあります。このような事業所を減らす取り組みが、加入促進です。

近年の加入促進は、関係機関と連携して行われています。その1つは、関係機関が持っている企業の情報と、厚生年金に加入している企業の情報との突き合わせです。2002年度に雇用保険の加入事業所の情報、2012年度に法人登記簿の情報、さらに2015年度からは国税庁がもっている給与を支払っている法人事業所の情報、と突き合わせられています。法人登記簿は休眠会社が含まれるため非効率的でしたが、国税庁の情報は効果的で、加入促進が進んでいます。
もう1つは、国土交通省による取り組みです。運輸業者や建設業者の届出などの際に厚生年金を含む社会保険の加入状況を確認するほか、社会保険に加入していない建設作業員の現場入場を認めないガイドラインを制定したり、その徹底に取り組んでいます*1。これをうけて、社会保険に未加入の建設業者を入札に参加させない自治体もあります。

また2016年10月からは、日本年金機構のホームページで、厚生年金に加入している事業所を誰でも検索できるようになっています*2




 
図表4 年金機構の加入促進取り組み計画 3|今後の取り組み:年金機構に加え、社会全体の関心も

未加入事業所を加入させるには、事業所の実態を調査したり、事業主を説得するなどの労力が必要です。しかし、日本年金機構は国民年金保険料の徴集強化やサービスの向上など多岐にわたる課題を抱えており、この問題だけに人材を集中投入する訳にはいきません。そこで、突き合わせた情報をもとに調査すべき事業所を抽出し、従業員数が多い事業所から優先して、加入促進が進められています。

前述した国土交通省の取り組みは、社会保険の加入が義務であるという観点だけでなく、人材確保や公正な競争環境の整備を目的としており、これらの目的は他業種にも共通します。日本年金機構による取り組みのほか、企業が取引する際や就職する際に加入状況を確認するなど社会全体で関心を高め、未加入事業所の解消を進めるべきでしょう。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2018年03月06日「保険・年金フォーカス」)

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