2018年03月05日

ブラジルの2017年GDPは3年ぶりのプラス成長~先行きは大統領選挙の結果次第~

神戸 雄堂

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3月1日、ブラジル地理統計院(IBGE)は、2017年10-12月期と2017年通年のGDP統計を公表した。10-12月期の実質GDP成長率は前期比0.1%増(季節調整系列)と、前期の同0.2%増からは減速したものの、これで4四半期連続のプラス成長となった。また2017年通年の成長率は前年比1.0%増(原系列)と、2014年以来3年ぶりのプラス成長となった。

1.四半期GDP概況(需要側):民間消費は大きく失速

需要項目別に見ると、輸出が減少し、輸入が増加した結果、外需寄与度が成長率を押し下げた。一方、内需では総固定資本形成の伸びが成長率を押し上げたものの、民間消費の伸びは大きく鈍化した (図表1)。
(図表1)【需要項目別】実質GDP成長率(季節調整済系列)の推移 GDPの約3分の2を占める民間消費は、前期比0.1%増と前期の同1.1%増から大きく鈍化した。低インフレによって、消費者信頼感指数は8月以降上昇が続き、10-12月平均では89.0という高水準に達するなど消費マインドは依然堅調であったものの、FGTS(勤続期間補償基金)の引き出し要件緩和1による消費の押上げ効果が剥落したと見られる。

政府消費は、同0.2%増と前期の同0.3%減から改善し、6期ぶりのプラス成長となったものの、これまでのマイナス成長の反動によるものと見られる。

総固定資本形成は、同2.0%増と前期の同1.8%増から加速し、3期連続のプラス成長となった。企業部門において、17年半ばから資本財輸入の増加傾向が続いている他、製造業PMIも50を上回り続けており、企業の投資意欲が改善していることが寄与していると見られる。

純輸出は、輸出が同0.9%減、輸入が同1.6%増となった結果、成長率寄与度が▲0.4%ポイント(前期:▲0.4%ポイント)と前期に引き続き成長率を押し下げた。

通関ベースで見ると、10-12月期の輸出は、マンガン鉱石の価格急落に伴い、輸出が前期から減速した結果、減少した。輸入については、内需の回復が継続しており、前期からほぼ横ばいとなった。結果として、貿易収支黒字は前期から縮小している。ただし、2017年通年の貿易収支黒字は1989年の統計開始以来最大の水準に達している。
 

1 労働者を不当な解雇から保護する制度であり、労働者が正当な理由なく解雇された場合等に積立金の引き出しが可能となる。17年3月から7月末まで自己都合退職者に対して、引き出し要件の緩和が認められた。

2.四半期GDP概況(供給側):サービス業は4期連続プラス成長も伸びは鈍化

(図表2)【供給項目別】実質GDP成長率(季節調整済系列)の推移 供給項目別に見ると、前期に引き続き、鉱工業とサービス業がプラス成長となったが、伸びは鈍化した (図表2)。
 
農牧業は、前期比0.0%減と前期の同2.0%減から改善した。

鉱工業は、前期比0.5%増と前期の同1.0%増から鈍化した。その内訳は、電気・ガス・水道業が同0.3%増(前期:同0.1%増)と改善したのを除いて、鉱業が同1.2%減(前期:同0.2%減)、製造業が同1.5%増(前期:同1.7%増)、建設業が同0.0%減(前期:同0.2%増)と悪化した。

GDPの約6割を占めるサービス業は、前期比0.2%増と前期の同0.6%増から鈍化した。その内訳は、運輸・倉庫・郵便業が同0.9%増(前期:同0.1%増)、情報通信業が同0.5%増(前期:同0.0%増)、不動産業が同0.9%増(前期:同0.6%増)、保健衛生・教育業が同0.4%増(前期:同0.3%増) と改善した一方で、小売業が同0.3%増(前期:同1.7%増)、金融・保険業が同0.3%減(前期:同0.2%増)、その他サービス業が同0.7%減(前期:同0.0%減)と悪化した。

3.先行きのポイント

2018年のブラジルの実質GDP成長率は、2年連続のプラス成長となることが見込まれるが、10月の大統領選挙の結果によっては、ブラジル経済の先行きは大きく左右されるだろう。
(図表3)インフレ率と政策金利・為替レートの推移 GDPの約3分の2を占める民間消費は、2017年に続き、緩やかなインフレと緩和的な金融環境によって堅調に推移していく見込みである。2017年のインフレ率は3.5%と、2016年の8.8%から大きく鈍化し、消費マインドの改善につながった。16年以前の高インフレはレアル安による輸入物価の上昇が主因であったが、レアル高の進行によって高インフレが徐々に解消されたうえ、穀物生産の記録的豊作によって食品価格が大きく低下した結果、2017年のインフレ率は大きく鈍化した(図表3)。2018年は、食品価格下落の一巡や米国の政策金利引上げに伴うレアル安の進行などのインフレリスクが潜在するものの、その影響は限定的で緩やかなインフレが継続するだろう。また、金融政策についても、中央銀行は、2月のCopom(通貨政策委員会)で金融緩和の打ち止めを示唆したが、政策金利は過去最低水準である現行の6.75%を維持するものと見られており、金融緩和の効果は持続するだろう。さらに、2017年半ばから回復の兆しを見せている総固定資本形成は、企業部門の景況感の堅調な推移とコンセッション(PPP)方式のインフラ投資プログラムの進展によって、2018年にプラス成長に転じることが予想され、景気の押上げ要因となるだろう。

一方で、懸念材料として、米国のトランプ大統領が3月1日に表明した鉄鋼とアルミニウムの関税引上げが挙げられる。ブラジルは米国の鉄鋼輸入量の13%のシェアを誇っており、外需への影響も懸念されるため、今後の動向を注視したい。

また、政治情勢が景気に水を差す懸念が高まっている。テメル政権下では、構造改革及び財政状況の改善に不可欠となる年金改革法案の採決が困難となったためである。連邦政府は、リオデジャネイロ州の治安悪化を受けて、18年2月に同州の治安権限を全面的に軍に移管し、18年12月末まで同州の治安部門を軍の指揮下に置くこととなった。憲法の規定上、この間の憲法改正はできないため、憲法改正が必要となる年金改革法案の採決は18年12月に任期が切れるテメル政権から次期政権に先送りされる見通しとなった。

したがって、今後は次期大統領がテメル政権の改革路線を引継ぐかが重要なポイントとなる。支持率の観点から大統領選挙における最有力候補として見られていたルーラ元大統領は、大統領在任中の汚職容疑について、第一審に続き、第二審でも有罪判決が下り、大統領選挙への出馬が極めて難しくなった。同氏の復権はポピュリズム政治への回帰が予想されただけに、今回の有罪判決はブラジル経済にとって朗報と言えるだろう。しかし、現在のところ、同氏の他に有力な候補がおらず、また改革路線のテメル政権の支持率が極めて低いことを踏まえると、次期大統領が改革路線を引継ぐことは簡単ではないだろう。仮に、年金改革法案の採決が困難となった場合には、財政状況の改善に向けた一層の緊縮策が求められる。もしくは、財政悪化によって再び大幅にレアル安が進行し、インフレ率の上昇や金融引き締めといった展開も予想される。いずれにせよ、年金改革法案の否決は景気の押し下げ要因となるだろう。このように、10月の大統領選挙は、次期大統領が改革路線を引継ぐか否かという点で、今後のブラジル経済の先行きを大きく左右するだろう。
 
 

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(2018年03月05日「経済・金融フラッシュ」)

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