コラム
2018年03月05日

ブロックランダム化の効用-人間の心理が及ぼす影響をコントロールするには?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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医薬品の開発においては、候補薬を、実際に患者に投与する臨床試験が行われる。臨床試験の際は、候補薬の効き目や副作用などを確認するために、試験対象の患者を、候補薬を投与する患者と、効用や副作用が何もない対照薬(プラセボ)を投与する患者の2つの集団に分けて、それぞれの効用を比較する。これは、試験結果から、薬を投与されたということの心理面の医療効果を排除するためのものである。
 
どの患者に候補薬を投与し、どの患者にプラセボを投与するかは、無作為に決める必要がある。無作為な決定方法として、例えば、患者を一人ひとり呼び出して、コインを投げて、表が出たら候補薬、裏が出たらプラセボを投与するといったやり方が考えられる。通常、患者の数が多い場合には、候補薬を投与される患者と、プラセボを投与される患者の数は、ほぼ同数となる。
 
問題は、患者の数が12人などと、少ない場合だ。コインを投げる方式では、例えば、表が4回しか出ず、候補薬を投与する患者が4人になってしまうようなことが起こりかねない。何とかして、候補薬も、プラセボも6人ずつ同数の患者に投与するようにしたい。
 
そこで、考えられる方法が「ブロックランダム化」と呼ばれる方法だ。これは、患者2人を順番に呼び出して、そのペア(ブロック)に対して、コインを投げる。表が出たら、最初に入ってきた人が候補薬、後から入ってきた人がプラセボ。逆に、裏が出たら、最初に入ってきた人がプラセボ、後から入ってきた人が候補薬とする。こうすれば、無作為な決定をしながら、候補薬とプラセボは同数とすることができる。
 
これで、万事めでたしめでたしと思われたが、1つ問題が起こりかねない。ペアの患者のうち、何かの拍子に、片方が候補薬を投与されたことがわかると、もう片方にはプラセボが投与されたことが自動的にわかってしまう。これは、何とか避けたい。

そこで、1つのブロックの人数を2人ではなく、4人に増やすことが考えられる。つまり、患者4人を順番に呼び出して、この4人に対して、候補薬かプラセボかを決めていくのである。
 
決定方法として、例えば、サイコロを振ることが考えられる。1の目が出たら、一番目と二番目に入ってきた患者に候補薬、その他にプラセボとする。2の目が出たら、一番目と三番目に入ってきた患者に候補薬。3の目が出たら、一番目と四番目。4の目が出たら、二番目と三番目。5の目が出たら、二番目と四番目。6の目が出たら、三番目と四番目の患者に候補薬、その他にプラセボとする。
 
こうすることで、1ブロック中、2人を候補薬、2人をプラセボとした上で、もし、ある患者に投与された内容がわかっても、残り3人は自分への投与内容がわからない、という状態を作り出せる。
 
1ブロックの人数を6人、8人…と増やすことで、ある患者が候補薬か、プラセボかがわかった場合の、他の患者のわからなさは、更に高まる。ただし、6人の場合は、20通り。8人の場合は、70通りの結果が、均等に出るよう、コイン、サイコロ、トランプのカードなどを、上手に用いる必要がある。
 
患者の数が、ちょうどブロックの倍数の場合はうまくいくが、実際には、必ずしもそうとは限らない。例えば、患者が全部で14人いる場合、1ブロックを4人とすると、3つのブロックの患者に対して決めた後に、2人余ってしまう。そこで、この場合は、4人のブロックを2つと、6人のブロックを1つとするなど、人数の異なるブロックを組み合わせることが考えられる。
 
また、ブロックの大きさそのものを、患者にわからないようにすることも考えられる。患者をブロックの人数だけまとめて呼び出すのではなく、一人ひとり順番に呼ぶ。候補薬か、プラセボかを決める際に、併せて(患者には知らせずに)ブロックも設定するのである。患者は、自分が何人のブロックに入っているのかがわからない。このため、仮に、他の患者に投与されたものが候補薬やプラセボであることがわかっても、自分に投与されたものがどうなのかはわからない。
 
この他にも、患者全体をいくつかの層に分けて、各層ごとにランダム化をすることで層の違いによる結果の偏りを取り除く、層別ランダム化。患者全体をいくつかのグループ(クラスターと呼ばれる)に分けて、そのグループごとに候補薬もしくはプラセボに割り付ける、クラスターランダム化など、様々な方法が用いられている。このように見ていくと、そもそも臨床試験の無作為設定のために、そこまで力を入れる必要があるのか、という気がしてくるかもしれない。
 
けれども、患者にとっては、臨床試験で候補薬が投与されたのかどうかは、重大な関心事となる。特に、重篤な患者ほど、候補薬への期待は大きい。自分が服用したものが、候補薬なのか、プラセボなのかを知ることによる、心理的な医療効果は大きいであろう。医薬品の臨床試験に限らず、人を対象に何らかの実証実験を行う場合は、人間の心理が及ぼす影響をコントロールするために、無作為性を上手に取り入れることが有効と考えられるが、いかがだろうか。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2018年03月05日「研究員の眼」)

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