2018年03月05日

「妻の就業」×「家事・育児分担」男性の意識47都道府県マトリクス分析-未婚少子化データ考-男性の本音にみるエリア特性

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

文字サイズ

2――男性の「家事や子育ては女性が行ったほうがよい」価値観エリア比較

1|「女性に働いて欲しい」+「家事や子育ても女性で」という発想について
恋愛や結婚の議論で非常に誤解(混同)されがちと思われるのが、
「兼業主婦理想の男性」= イクメン・家庭に協力的な男性、という誤解である。
 
なぜならば、パートナー女性に働いてほしいという希望の男性が必ずしも「僕も家事や育児を担います」というつもりがあるかというと、それは定かではないからである。
女性の立場から見ると「働いて欲しい、家事も子育てもお願いします」などという男性はあまりに都合がいい考えなのではないか、と一般的には思うかもしれないが、それでは、次のケースはどうであろうか。
 
専業主婦が理想です、という女性が、男性は家事や育児をしないでよい、と必ず思っているだろうか。そうではないケースも存在する。
勿論、自分は専業主婦であるから、家事や育児を男性にやらせるつもりはない、という完全役割分担思考の女性もいるにはいるだろうが、それは全員ではない。
 
そう考えると、「兼業主婦理想の男性」= イクメン・家庭に協力的な男性でない男性がいても、おかしくはないだろう、ということである。
 
ここで確認しておきたいことは、「どういった夫婦間の役割分担の組み合わせがいいか・ダメか」という議論ではなく、
 
◇世帯収入を男性1馬力で得ることが理想かどうか、という議論と、
◇家事育児を男女がどう分担することがいいと思っているかどうか、
 
という議論は、100%イコールの議論ではない、ということは理解しておきたい、という話である。
 
では家事や子育てに関して、どういった分担が望ましいと男性が考えているのか、知るすべはあるのだろうか。
2|「家事や子育ては女性が行った方がよい」と考える男性の多いエリアデータ
恋愛はまだしも、結婚ともなると家事や子育てといった家庭での役割分担について、互いの価値観を知っておくことは非常に重要になってくる。
 
結婚後のすれ違いや不満を予防するには非常に大切な確認行動であり、近年増加する離婚率をみても、前向きな予防策のひとつであるといえるだろう1
また、パートナー(候補)男性の住む土地の男性の価値観がわかることで、義理の父親・親戚男性の候補たちに関しても「こんなはずではなかった」「なぜこのようなことをいわれないといけないのか」となることへのある程度の「心の予防」が可能になるかもしれない情報はあったほうがいいかもしれない。
 
では、家事や育児に関して、どういった分担が望ましいと男女がそれぞれ考えているのか、知るすべはあるのだろうか。男性が家事や子育てに対する考え方ついて、「家事や子育てへの適性は性差がある」と感じているかどうかを知ることができる興味深い意識調査がある。
筆者が過去に発表したショートレポート2に用いた内閣府の調査の結果から、本稿では子育てや家事への適性に関する男性の性差価値観をうかがい知る事が可能な設問の回答結果を分析した。
 
先に挙げた育児休業取得率のデータでは、いまだ男性の取得率はわずか5%にも満たないため(100人に5人もいないという状態)、日本という国は「1億総女性育児社会」なのだろうかとも見える。
 
しかし、内閣府の意識調査3の大規模データを集計してみると、全国の平均では意識上は、男性の51%、女性の47%が「家事や子育ては、女性が行った方がいいと思うか」との質問に「ややそう思う」「そう思う」の肯定的回答を出している状況である。
つまり、日本においては女性が子育てや家事を行った方がよい、と思っている人とそうでない人がほぼ半々であるようだ。育児休業取得率から考えられるほどには、意識上では「1億総女性育児社会」ではないことがみてとれる。
 
全国平均の次に、今度は47都道府県別に男性について「家事や子育ては、女性が行った方がいい」と思っている男性割合が、全国平均以上に多いエリアの状況(イクメン消極派エリア)をみてみることとする(図表2)。
【図表2】 「家事や子育ては、女性が行った方がよい」と思う男性の割合(多い順) 
「女性が子育てや家事を行ったほうがよい」にそう思うと回答する男性は、中国地方の広島県、山口県がナンバー1・2入りを果たした。
しかし、中国地方全体が「家事育児は女性が向いている」(イクメン消極派)と考える男性が多いかというと、全国平均よりも割合が多い21エリアに他の3県(島根・鳥取・岡山)は入ってはいないので中国地方の男性がイクメン消極派である、とはいえないようである。
 
筆者の 「夫は仕事、妻は家庭」が理想の男性比率 47都道府県価値観ランキング(1)-未婚化データ検証「理想の彼はどこにいる?」 で示した、「夫は仕事、妻は家庭が理想」とする男性割合でベスト5入りした奈良県が「イクメン消極派」でも2位に登場しているが、近畿全体で見ると7エリアのうち奈良・三重・京都であるので、近畿全体が「イクメン消極派」男性エリアということもいえないようである。
 
夫は仕事、妻は家庭」エリア支持率 47都道府県価値観ランキング(2)-未婚社会データ検証「ふたりの居場所はどこにある?」で、「夫は仕事、妻は家庭であるべき」と考える男女割合が、九州エリアは高いと紹介した。九州について「イクメン消極派」男性エリアかどうかで見てみると、意外ではあるが全国平均以上では福岡県しかランクインしていない。
つまり、九州の男性は「イクメン消極派」だとはいえないということになる。九州エリアの男女でみると、女性が働くことを好まないエリアに見えるが、だからといって男性が育児・家事に向いていないとまでは思っていないエリア、と読めそうである。
 
 
1 最高裁判所事務総局による司法統計からは離婚の理由として1番多いのは男女とも「性格の不一致」となっている
2 「夫は仕事、妻は家庭」が理想の男性比率 47都道府県価値観ランキング(1)-未婚化データ検証「理想の彼はどこにいる?ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2017年12月11日号
「夫は仕事、妻は家庭」エリア支持率 47都道府県価値観ランキング(2)-未婚社会データ検証「ふたりの居場所はどこにある?」ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2017年12月25日号
3 調査実施方法•インターネットモニター調査、 調査実施期間・平成27年2月12日(木)~2月26日(木)、 調査実施機関•楽天リサーチ株式会社、 調査対象・全国23,500人(都道府県別に各500人)、備考・都道府県別に性、年代(10歳刻み、「20歳代」~「60歳代」の5区分)を国勢調査(平成22年)の分布に準拠して抽出
3|「家事や子育ては女性が行った方がよい」と考える男性の少ないエリアデータ
次に、反対に「イクメン消極派」男性が全国平均より少ない(イクメン積極派)エリアを見てみよう(図表3)。
 
夫は仕事、妻は家庭」が理想の男性比率 47都道府県価値観ランキング(1)で紹介した理想割合が低かったエリアの状況と同じく、東北6県のうち4県が全国平均より「家事育児は女性が行った方がよいと思わない派」にランクインしていることがわかる。
 
同様に「夫は仕事、妻は家庭」が理想の男性割合が低い沖縄県も、今回の「イクメン消極派」が少ない5エリアにランクインしている。
東北エリアと沖縄県における男性の意識は、「妻の就業」と「家事や子育ての役割分担」の双方において、全国平均よりも女性が社会に出ることにポジティブである、ということは間違いないようである。
【図表3】 「家事や子育ては、女性が行った方がよい」と思う男性の割合(少ない順)
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【「妻の就業」×「家事・育児分担」男性の意識47都道府県マトリクス分析-未婚少子化データ考-男性の本音にみるエリア特性】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

「妻の就業」×「家事・育児分担」男性の意識47都道府県マトリクス分析-未婚少子化データ考-男性の本音にみるエリア特性のレポート Topへ