2018年03月02日

2期目の黒田日銀で想定される4つのシナリオ~次の5年も険しい道のり

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
  1. 政府から提示された黒田日銀総裁を再任する国会同意人事案は承認されることがほぼ確実な情勢にある。2期目の黒田日銀で想定される物価・金融政策のシナリオを考えた場合、大きく4つのシナリオが考えられる。まず、日銀が目指すシナリオは、「2%の物価安定の目標を早期に達成し、金融緩和の出口戦略に移行する」というものだが、2%の物価上昇を維持するというシナリオの実現可能性は極めて低い。また、仮に目標を達成しても、出口戦略の円滑な実行という課題が残る。市場が混乱や日銀の財務悪化が懸念されるほか、利払費が増加することになる政治からの反発も起こり得る。二つ目のシナリオは、「(厳密には)物価安定目標を達成していない状況で日銀が出口戦略に移行する」というもので、実現可能性が最も高い。好条件が揃うことで一時的に2%を達成し、日銀がその機会に出口戦略へと舵を切ることは十分有り得る。また、副作用が許容できないほど顕在化した場合なども、達成前に出口に向かう可能性がある。その際の課題は、上記のほか、日銀の信認低下が挙げられる。三つ目のシナリオは、「物価安定目標未達の状況が続き、日銀が出口に至らない」というもの、そして最後のシナリオは、出口に至らないばかりか、「物価の下振れリスクが高まり、日銀が緩和を拡大する」というものだ。ただし、現実的な緩和余地は乏しいと考えられるため、後者の可能性は高くはないだろう。仮にこれらのシナリオとなった場合の課題は副作用の増大と出口の難易度上昇になるが、後者では緩和を拡大するだけに、抱える問題も大きくなる。
     
  2. つまり、黒田日銀の次の5年で想定されるシナリオは、程度に差はあるものの、いずれも険しい道のりになる。また、それぞれのシナリオに至る前段階でも、副作用を抑制するため政策の調整や出口戦略の説明が必要になる可能性が高い。市場の混乱をいかに防ぎながら実施するか、これまで以上に、日銀の市場との対話力が問われることになる。
黒田日銀(2期目)の想定シナリオ
■目次

1.トピック:2期目の黒田日銀で想定される4つのシナリオ
  ・1期目の評価:効果は認められるが目標は遠く、副作用も目立ってきた
  ・2期目で想定される4つのシナリオ
2.日銀金融政策(2月):政府が次期日銀正副総裁人事を提示
  ・(日銀)現状維持
3.金融市場(2月)の振り返りと当面の予想
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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