2018年03月01日

法人企業統計17年10-12月期-原材料高の影響から企業収益の改善基調に陰り

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 利益率の悪化から増益率が鈍化

経常利益の推移 財務省が3月1日に公表した法人企業統計によると、17年10-12月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比0.9%と6四半期連続の増加となったが、17年7-9月期の前年比5.5%から伸びが鈍化した。製造業が前年比2.5%(7-9月期:同44.0%)と前期から伸びが大きく鈍化したことに加え、非製造業が前年比▲0.0%(7-9月期:同▲9.5%)と小幅ながら2四半期連続の減益となった。
売上高経常利益率の要因分解(製造業)/売上高経常利益率の要因分解(非製造業)
製造業は、世界経済の回復を背景とした輸出の増加を主因として売上高が前年比4.7%(7-9月期:同3.9%)と前期から伸びを高めたが、売上高経常利益率が16年10-12月期の7.6%から7.4%へと若干悪化したことが増益率の鈍化につながった。売上高経常利益率を要因分解すると、人件費は前年比3.8%の増加となったが、売上高の伸びを下回ったため、人件費要因は利益率の改善要因となった。一方、原油価格上昇に伴う原材料費の増加から変動費が前年比5.6%の高い伸びとなり、変動費要因が利益率を大きく押し下げた。

非製造業は、個人消費を中心とした国内需要の持ち直しを反映し、売上高が前年比6.4%(7-9月期:5.2%)と前期から伸びを高めたが、売上高経常利益率が16年10-12月期の5.5%から5.2%へと悪化した。製造業と同様に売上高人件費率は改善したが、変動費の大幅増加が利益率を大きく押し下げた。

2.経常利益(季節調整値)は2四半期連続で減少

経常利益の内訳を業種別に見ると、製造業は、はん用機械(前年比45.3%)、生産用機械(同50.5%)、電気機械(同35.0%)は好調を維持したが、業務用機械(同▲12.6%)、情報通信機械(同▲10.2%)、金属製品(同▲11.7%)は前年比で二桁の減益となった。

非製造業は、不動産業(前年比6.6%)、情報通信業(同24.2%)、サービス業(同12.3%)は増益に転じたが、建設業(同▲29.7%)、卸・小売業(同▲12.1%)が大きく落ち込んだことが響いた。

季節調整済の経常利益は前期比▲1.7%(7-9月期:同▲2.0%)と2四半期連続で減少した。非製造業は前期比1.9%(7-9月期:同▲2.7%)と2四半期ぶりに増加したが、製造業が前期比▲7.6%と2四半期連続で減少し、7-9月期の同▲0.9%から減少幅が拡大した。
経常利益(季節調整値)の推移 経常利益(季節調整値)は17年4-6月期に過去最高を更新した後、2四半期連続で水準が低下した。低下幅は小さく企業収益が引き続き高水準にあることは変わらないが、人件費や原材料費などのコストが増加しており、利益率の大幅な改善によって収益が急拡大する局面は過ぎたと考えられる。年明け以降は円高が進んでいることもあり、製造業を中心に収益環境はより厳しくなっている。

先行きについては、海外経済の回復や国内需要の持ち直しを背景に企業収益の改善基調は維持されるものの、人件費や原材料費の増加が続くことが見込まれるため、増益のペースは緩やかにとどまることが予想される。

3.投資スタンスの積極化はみられず

設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比4.3%と5四半期連続で増加し、7-9月期の同4.2%と同程度の伸びとなった。製造業が前年比6.5%(7-9月期:同1.4%)と前期から伸びを高めたが、非製造業は前年比3.0%(7-9月期:同5.9%)と伸びが鈍化した。
設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 季節調整済の設備投資(ソフトウェアを除く)は前期比3.1%と7-9月期の同2.1%から伸びを高めた。非製造業は前期比0.6%(7-9月期:同1.2%)の低い伸びにとどまったが、製造業(7-9月期:前期比3.8%→10-12月期:同7.7%)の伸びが加速した。

17年10-12月期の設備投資は経常利益の伸びを上回ったが、引き続き前年比で一桁前半の伸びにとどまっている。16年後半から17年前半にかけて経常利益が二桁の伸びを続けてきたことを踏まえれば、企業の投資スタンスが積極化しているとは言えない。企業の設備投資意欲を反映する「設備投資/キャッシュフロー比率」は2010年頃から50%台の低水準での推移が続いている。
設備投資/キャッシュフロー比率と期待成長率の関係 企業の投資意欲が高まり、キャッシュフローに対する設備投資の水準を引き上げるためには、期待成長率の高まりが不可欠と考えられる。その意味で、明日(3/2)内閣府から公表される「企業行動アンケート調査(17年度)」が注目される。16年度調査では、企業の期待成長率(今後3年間、5年間の実質成長率の見通し)はそれぞれ1.0%、1.1%の低水準にとどまったが、実質GDPが高めの伸びを続けていることを受けて、17年度調査では期待成長率が明確に高まる可能性があるだろう。

4.10-12月期・GDP2次速報は小幅上方修正を予想

本日の法人企業統計の結果等を受けて、3/8公表予定の17年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.2%(前期比年率0.8%)となり、1次速報の前期比0.1%(前期比年率0.5%)から若干上方修正されると予測する。設備投資は下方修正されるが、民間消費、民間在庫変動、公的固定資本形成の上方修正がその影響を上回るだろう。

設備投資は前期比0.7%から同0.4%へ下方修正されると予想する。設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比4.7%となり、7-9月期の同4.3%から伸びが高まった。また、金融保険業の設備投資は前年比12.5%(7-9月期:同19.3%)と2四半期連続で二桁の伸びとなった。
2017年10-12月期GDP2次速報の予測 ただし、法人企業統計ではサンプル替えに伴う断層が生じるため、当研究所でこの影響を調整したところ、設備投資は前年比2%程度の伸びとなり、公表値の伸びを下回った。GDP1次速報の設備投資は名目・前年比3.9%となっており、本日の法人企業統計の結果は設備投資の下方修正要因と考えられる。

また、民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映され、1次速報の前期比・寄与度▲0.1%から同▲0.0%へと若干上方修正されると予想する。その他の需要項目では、民間消費は12月のサービス産業動向調査の結果などが反映され、前期比0.5%から同0.6%へ、公的固定資本形成は12月の建設総合統計の結果が反映され、前期比▲0.5%から同▲0.3%へと上方修正されるだろう。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2018年03月01日「経済・金融フラッシュ」)

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