医療・ヘルスケア
2018年07月09日

運動したら、健康になれるの?

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――「運動不足」が最大の健康課題である

2014年にニッセイ基礎研究所が行った調査で、20~69歳の男女を対象に、日ごろの体調や生活習慣に関する課題を18項目あげて複数回答で尋ねたところ「運動不足」がいずれの層でも最大の課題として認識されていた(図表1)。
図表1 日ごろの体調や生活習慣に関して課題と感じていること
特に、40歳以上の男性と20~50歳代の女性では半数以上が「運動不足」であると回答している。18項目の選択肢には、食生活に関する項目、睡眠に関する項目、忙しさやストレスに関する項目も入れており、人々の運動への期待の高さが覗える。
 

2――運動によってBMIが改善する可能性

2――運動によってBMIが改善する可能性

運動の効果の1事例として、BMIが25~30(肥満度1)の40~50歳代男性の、運動実施によるBMIの改善可能性を紹介する1
 
1 詳細は、拙稿「まずは3年間運動をしてみる~中高年男性の運動実施率とBMIの5年観察」をご参照ください。
「健康に関する調査」2014 年9月実施。対象は、20~69 歳の男女個人(学生を除く)を対象としたインターネット調査。有効回答数 3000 サンプル。
1|40歳以上男性の3割程度が「肥満」
BMIとは、(体重[kg]/身長[m]の二乗)で計算する指標で、18.5~25が普通体重、25~30が肥満1度、30~40が肥満2度、40以上が肥満3度とされている。

厚生労働省の「2016年国民健康・栄養調査」によると、性・年齢別の「肥満」の割合は、男性は20歳以降年齢とともに高くなり、50歳代をピークとして以降は低下する(図表2)。40~60歳代男性全体の3割弱が肥満である。一方、女性は、60歳代でもっとも多いが2割である。

肥満の程度別にみると、男女ともBMIが30以上の「肥満2度以上」の割合は1割未満にとどまり、肥満の多くがBMIが25以上30未満の「肥満1度」である。この「肥満1度」は、中高年男性に多いことが特徴的だ。
図表2 性・年齢別のBMIの状況
2|BMI改善者は、5年間で運動実施率が上昇
分析に使用したデータは、(株)日本医療データセンターによる健康診断データベースである。2010~2014年の5年間にわたって、1つの健康保険組合に在籍し、かつ年1回以上健康診断を受けている40~50歳代の男性27,434人のうち、1年目に肥満1度だった7,081人(全体の25.8%)の1~5年目の健康診断と問診票を使った。
図表3 BMI 改善状況別 運動実施率 1年目に「肥満1度」だった対象者の5年後のBMIは、76.5%が「肥満1度」で変化なし、18.1%が「普通体重」に改善、5.3%が「肥満2度」に悪化していた。そこで、「改善(普通体重)」「変化なし(肥満1度)」「悪化(肥満2度)」の3つのグループに分けて、5年間の運動実施状況をみた。運動を実施しているかどうかは、健康診断の問診票の「1日30分以上の汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施している」で判定した。
図4 5年間(5回)の健康診断を通じた運動実施回数別5年後のBMI まず、1年目に運動を実施していた割合は、肥満1度全体で16.3%だった。普通体重者は16.2%(図表略)であり、肥満者が普通体重者と比べて特に運動をしていない訳ではない。

続いて、「改善(普通体重)」「変化なし(肥満1度)」「悪化(肥満2度)」の5年間の運動実施率の推移をみると、2010 年時点での運動実施率は、順に15.6%、15.8%、18.7%と大きな差はない(図表3)。ところが、「改善(普通体重)」の運動実施率は年々上昇し、5年後には 27.3%と10ポイント以上あがっていたのに対し、「変化なし(肥満1度)」は横ばい、「悪化(肥満2度)」は低下していた。BMI改善者は、変化なしや悪化とは異なり、運動実施率が高くなる傾向があった。

5年の健康診断のうち運動を実施していたと回答した回数別の改善状況を図表4に示す。運動実施回数が多いほど、普通体重に改善する割合が高い傾向があった。今回の結果では、3回(5年間のうち、6割程度の期間)以上実施していれば、4分の1程度が普通体重に改善した。ただし、運動実施回数がなくても16.8%が5年後に普通体重に改善しており、運動だけでなく、食生活の改善などの影響もあると考えられる。また、測定が不安定であること等により、1年目は肥満1度に分類されでも、翌年以降は標準に近づくケースも一般的に観察されている(平均への回帰)。
 

3――実際の運動習慣

3――実際の運動習慣

厚生労働省では、「1回 30 分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者」を「運動習慣がある者」と定義し、毎年その割合を調査している(図表5)。また、健康増進法に基づき作成された「健康日本21(第2次)」では「運動習慣がある者」の割合に対して性年代ごとに目標値を定め、運動習慣のある者の割合が増えるよう運動しやすいまちづくり・環境整備を推進している。現役世代は、家庭や仕事で重要な役割を担っていることから十分な時間を割くことが難しいことが運動を実施できていないことの大きな要因と考えられているため、目標値は 65 歳以上と比べて低く設定されている。

しかし、性年代別に時系列でみると、運動習慣がある者の割合は男女とも 60 歳以上で増加傾向があるものの 60 歳未満ではどちらかと言えば低下傾向である。
図表5 「運動習慣のある者」の割合の推移
60歳未満では、特に男性で肥満予防のための運動への関心が高いと思われる。本稿で紹介したとおり、BMI改善者は、5年間で運動実施率が高くなっており、運動によってBMIが改善する可能性がある。

文部科学省の「体力・スポーツに関する世論調査」によると、運動をしない最も大きな理由として「時間がない」があがっている。今回扱った 40~50 歳代男性も、時間が多くは取れない年代かもしれない。例えば、週末に1回、平日少し早めに帰れる日にもう1回、時間を作ってみてはどうだろうか。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

(2018年07月09日「基礎研レター」)

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