医療・ヘルスケア
2018年08月07日

健康保険での出産育児一時金、埋葬料ってなに?

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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2――埋葬料とは

1|制度の目的
埋葬料とは、健康保険法に基づく保険給付として、加入者本人(被保険者)やその家族(被扶養者)が亡くなったとき、埋葬料を助成する制度です。

2|制度の詳細
(1) 支給対象者
亡くなった被保険者に生計を維持されていた方で、埋葬を行う人に「埋葬料」が支給されます。「生計を維持されていた方」とは、被保険者によって生計の全部又は一部を維持されていた方で、民法上の親族や遺族であるかは問われません。また、被保険者と同一世帯であるかも問われません。埋葬料を受けられる方がいない場合は、実際に埋葬を行った方を対象に、「埋葬費」が支給されます。また、被扶養者が亡くなったときは、被保険者に「家族埋葬料」が支給されます。

(2) 支給条件
・埋葬料:被保険者が業務外の事由により亡くなった場合(埋葬の事実は不要)
・家族埋葬料:被扶養者が亡くなった場合(埋葬の事実は不要)
・埋葬費:被保険者が業務外の事由により亡くなった場合で、埋葬料の支給を受けられる方がいない場合(埋葬の事実が必要)

(3) 支給金額
・埋葬料・家族埋葬料:5万円
・埋葬費:5万円以内で実際に埋葬に要した費用

(4) 受取・申請方法
死亡から2年以内に、被保険者の勤務先を管轄する社会保険事務所または勤務先の健康保険組合に申請すると、指定した口座に振り込まれます。

3|支給金額の変遷
埋葬料は、出産育児一時金と同様に、1927年に施行された健康保険法に基づいて支給されています。1927年の健康保険法の施行時点の支給金額は報酬日額20日分で、最低保障金額は出産育児一時金の当初の設定金額と同じで20円でした。その後1948年から2006年の医療制度改正まで、埋葬料は標準報酬月額に設定されてきました。標準報酬月額の半額の設定であった出産育児一時金よりも、比較的手厚い保障だったことが分かります。しかし、2006年の医療制度改正によって、定額の5万円に減額されたことで、現在では出産育児一時金と比べると小さい金額になりました。

4|国民健康保険や後期高齢者医療制度の場合
国民健康保険や後期高齢者医療制度の被保険者が死亡した場合は、埋葬料に代わって、葬儀を行った方(喪主)に葬祭費が給付されます。この場合、受け取ることのできる金額は保険者である自治体によって異なります(1万円~7万円程度)。
5|実際にかかる葬儀費用とその負担者
(1) 葬儀費用の平均
埋葬料や葬祭費として受け取れる金額は5万円ほどですが、実際の葬儀費用はいくらぐらいかかるのでしょうか。日本消費者協会の「第11回『葬儀についてのアンケート調査』報告書」(2017)では、葬儀の平均費用は、約196万円とされています。実際には、数十万円程度から数百万円まで、葬儀方法や会社によって葬儀費用は大きく異なりますが、どういった葬儀を行うにしても、健康保険からの支給でカバーできる範囲は限られている、と言えるでしょう。

(2) 葬儀費用の負担者
では、そもそも、葬儀費用は一体誰が負担するべきものなのでしょうか。これは法律で定められていません。過去の判例によると、「亡くなった方が予め自らの葬儀に関する契約を締結しておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合」には、喪主が支払う必要があるようです。しかし、約196万円という平均額からも分かるように、葬儀費用は支払者の大きな負担になるため、誰がどう負担するのかが親族内での紛争の原因になることもあるようです。出産にかかる費用は出産育児一時金でほとんどカバーされるのに対して、死亡したときの葬儀費用は健康保険ではほとんどカバーされません。残された人々の負担を減らさせるよう自分で準備して自分の意向を予め知らせておくのも一案でしょう。
6|死亡に伴うさまざまな支給
家族が死亡した場合の遺族への給付には、健康保険の埋葬料や葬祭費のほかに、以下のような制度があります。ご自身や家族の死は想像したくも無いことですが、万が一の備えとして頭の片隅に入れておいて損は無いでしょう。
表3. 死亡に伴うさまざまな支給
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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

(2018年08月07日「基礎研レター」)

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【健康保険での出産育児一時金、埋葬料ってなに?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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