医療・ヘルスケア
2018年04月23日

医療保険制度にはどんな種類があるの?

中村 亮一

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2―医療保険制度はなぜこんなに多くの種類があるの?

日本の医療保険制度は、なぜこのように多くの制度に分かれているのでしょうか。これは、国民皆保険制度を実現していくまでの歴史的な経緯に関係しています。ここでは、現行の医療保険制度が形成される過程について、概略を説明します5
 
5 平成23年版「厚生労働白書」等を参照しました。
1|健康保険法の制定
健康保険法は、第一次世界大戦後の不況によって、工場の閉鎖や企業の倒産等が相次ぐ中で、労働運動が高まっていたことを背景に、労使関係の改善を図り、労働者を保護するために、1922年に制定されました。

健康保険法の当初の適用対象は、工場法、鉱業法の適用を受ける10人以上の従業員を有する事業所で、被保険者もその従業員で報酬が一定額未満の肉体労働者(ブルーカラー)に限定されていました。また、健康保険の保険者については、常時300人以上の被保険者を使用する事業所は健康保険組合を設立できるとしましたが、このような組合の設立ができない場合には政府管掌健康保険を適用することとなりました。その後、常時10人以上を使用する会社や銀行、商店等で働く「職員」(ホワイトカラー)を被保険者とする職員健康保険法が1939年に制定され、1942年の健康保険法改正で同法と統合されました。

また、戦時体制下で、国防上の観点で物資の海上輸送を担う船員の確保が急務であったこと等から、船員を対象とする「船員保険制度」が1939年に創設されました。

公務員等に対する共済組合の起源は、明治末期から大正期にかけて創設された官業労働者の共済組合でした。第二次世界大戦後には、健康保険制度とは別に、(1) 国家公務員共済組合、(2) 地方公務員共済組合、(3) 私立学校教職員共済制度、等の共済組合が創設され、公務員等の職域における医療(短期給付)・年金(長期給付)・福祉の三事業を担っていました。

現在は、例えば、国家公務員共済組合については、1958年に制定された国家公務員共済法によって、原則として各省庁単位で共済組合が設けられています。また、地方公務員共済組合については、1962年に制定された地方公務員等共済組合法によって、都道府県や指定都市等の単位で設けられています。さらに、私立学校教職員共済制度については、1953年に私立学校教職員共済法が制定されています。
2|国民健康保険法の制定 
国民健康保険法(旧法)は、大正時代末期の戦後恐慌に引き続く、昭和恐慌等の相次ぐ発生により、また東北地方を中心とした大凶作等の発生を背景に、農村における貧困と疾病の連鎖を切断し、併せて医療の確保や医療費軽減を図るために、1938年に制定されました。

当時の保険者は国民健康保険組合であり、任意加入の制度であったため、医療保険に加入しない国民が多く残りました。
3|国民皆保険の実現 
戦後の経済成長が始まる1955年頃においても、国民の約3分の1が健康保険にも国民健康保険にも加入していませんでした。これらは、主として、被用者5人未満の事業所の被用者及びその家族と、国民健康保険を実施していない市町村に居住していた被用者保険の対象となっていない人々でした。

1958年に新たな国民健康法が制定され、全ての市区町村に国民健康保険事業の実施が義務付けられて、健康保険等の被保険者とその被扶養者を除き、市区町村の区域内に住所を有する者は全てが国民健康保険の被保険者になりました。この結果、1961年までに、全市区町村において、国民健康保険が実施され、国民皆保険が達成されました。

このように、公的な医療保険制度は、一定の規模を有する事業所における相互扶助的な共済組合を源流としており、それ以外の中小事業者の労働者を政府管掌健康保険でカバーするという形で、被用者保険からスタートしました。一方で、農村を基礎とした国民健康保険を、全市区町村をカバーする地域保険とし、被用者保険ではカバーされない被用者や自営業者、無職者等に適用することで、国民皆保険制度を達成しました。

こうした歴史的な経緯から、現在も複数の制度が存在する形となっています。
 

3―自分はどの医療保険制度に加入することになるの?

3―自分はどの医療保険制度に加入することになるの?

それでは、国民はどの医療保険制度に加入したらよいのか、ということになります。これについては、基礎研レター「医療保険制度には全ての国民が加入しなければならないの?」(2018.3.1)においても説明しましたが、概略、以下の通りとなっています。

1.75歳未満の被用者及びその扶養者は、その使用される事業者に適用される被用者保険に加入する。

2.被用者保険の中で、大企業等の健康保険組合がある適用事業所に使用される者は当該健康保険組合に加入し、公務員、私立学校教職員、船員はそれぞれに適用される共済組合又は船員保険に加入し、それ以外の被用者は協会けんぽに加入する。

3.75歳以上の者は、居住している都道府県広域連合の後期高齢者医療制度に加入する6

4.以上の各制度の対象にならない者は居住している市区町村の国民健康保険又は国民健康保険組合の国民健康保険に加入する。
 
6 後期高齢者医療広域連合が認定した65歳以上の障害者も対象となります。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年04月23日「基礎研レター」)

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【医療保険制度にはどんな種類があるの?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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