医療・ヘルスケア
2018年04月23日

医療保険制度にはどんな種類があるの?

中村 亮一

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1―医療保険制度にはどんな種類があるの?

日本の医療保険制度は、大きくは被用者保険と地域保険という2本立てで構成された「国民皆保険」制度となっています。 ただし、2本立てとはいっても、10の保険制度、3000を超える保険者から構成され、多数の制度や保険者が存在する複雑な制度となっています。さらには、2008年4月1日からは、基本的に75歳以上の者を対象とする後期高齢者医療制度がスタートしています。
1|被用者保険(職域保険) 
被用者保険」とは、その名が示す通り、「被用者」を対象とする保険のことです。ここで、「被用者」とは、企業や個人事業主等に雇われた人々で、いわゆるサラリーマン等の会社員や公務員、さらには船員が含まれます。「職域保険」ともいいます。

被用者保険の場合、雇用に伴う給料支払等を通じて、被用者の所得等が把握されるため、雇用主からの拠出や被用者からの保険料徴収が相対的に容易に行えるというメリットがあります。

被用者保険は、大きくは、(1)健康保険(一般被用者保険)、(2)特定被用者保険、の2つに分かれます。

(1)健康保険(一般被用者保険)
健康保険はいわゆるサラリーマンとして民間企業に勤めている人とその家族が加入する医療保険制度です。これには、1) 組合管掌健康保険(組合健保)2) 全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)、があります。

1) 組合管掌健康保険(組合健保)
主として、大企業(やそのグループ企業)の会社員及びその家族が加入する健康保険です。
組合管掌健康保険は、健康保険組合によって運営され、健康保険組合が保険者となっています。

組合管掌健康保険には、「単一型(企業が単独で設立)」、「総合型(同業種の複数の企業が共同で設立)、「地域型(同一都道府県内に展開する健保組合が合併した場合)」があります。

2) 全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)
主として、中小企業の会社員及びその家族が加入する健康保険です。

全国健康保険協会管掌健康保険は、以前は国(社会保険庁)が保険者として政府管掌健康保険と呼ばれていましたが、2008年10月1日から、全国健康保険協会によって運営され、全国健康保険協会が保険者となっています。

なお、近年では大企業であっても、健康保険組合を持たず、あるいは健康保険組合を解散して、全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)に移行する例が増えています。
(2)特定被用者保険
特定被用者保険とは、公務員、私立学校の教職員、船員を対象とした医療保険です。制度の歴史や海上での保障という特殊性等を考慮して、一般被用者保険とは異なる制度となっています。

これには、1) 国家公務員共済組合2) 地方公務員共済組合3) 私立学校教職員共済制度4) 船員保険、があります。

1) 国家公務員共済組合
国家公務員共済組合は、公務員のうち、国家公務員が加入する共済組合です。

財務省や外務省等の省庁に加えて、衆議院や参議院の共済組合等の20団体が、国家公務員共済組合の連合組織である国家公務員共済組合連合会に加入しています。

2) 地方公務員共済組合
地方公務員共済組合は、公務員のうち、地方公務員が加入する共済組合です。

東京都職員、地方職員1、指定都市職員2、市町村職員、都市職員3の共済組合に加えて、都道府県警察職員と警察庁職員等が加入する警察共済組合や、公立学校職員や都道府県教育委員会とその教育機関の職員が加入する公立学校共済、という64団体が、地方公務員共済組合の連合組織である地方公務員共済組合連合会に加入しています。
 
1 地方職員共済組合は、道府県職員・地方団体関係団体職員を組合員として構成されます。
2 指定都市職員共済組合は、政令指定都市職員を組合員として構成される共済組合です。ただし、仙台市以降に政令指定都市になった市は該当せず、仙台市以降に政令指定都市になった市については、仙台市については都市職員共済組合に、その他は市町村職員共済組合に加入しています。
3 都市職員共済組合は、特定の市の職員を組合員として構成される共済組合です。市町村職員共済組合に加盟していない一部の市に1組合置かれています。仙台市、愛知県都市、北海道都市、札幌市、名古屋市職員共済組合があります。


3) 私立学校教職員共済制度
私立学校教職員共済制度は、私立学校の教職員が加入する制度です。

私立学校教職員共済制度は、日本私立学校振興・共済事業団によって運営されています。

結局、以上の1) から3) の共済組合は、現在85団体あります。

4) 船員保険
船員保険は、船員として船舶所有者に使用される者を対象としている制度です。

船員保険については、1940年の創設以来、国が保険者となっていましたが、2010年からは、全国健康保険協会が保険者となっています。
2|地域保険 
地域保険は、自営業者、農林水産業者、無職者等被用者保険に加入していない人を対象としています。

これには、(1) 国民健康保険(市町村国保)(2) 国民健康保険組合(国保組合)、があります。

(1) 国民健康保険(市町村国保)
国民健康保険は、自営業者、年金生活者、非正規雇用者やその家族など、被用者保険に加入していない国民を対象とする保険制度であり、市区町村が保険者となっています。

国民健康保険(市町村国保)には、被扶養者という概念はなく、家族も被保険者となります。かつては自営業者が加入者の中心でしたが、現在は、退職者等の無職者が加入者の約4割を超えております。

(2) 国民健康保険組合(国保組合)
国民健康保険組合は、自営業であっても同種同業の者が連合して、作ることが法律上認められている健康保険組合です。同じ事業や業務に従事している300人以上の人で構成されています。

国民健康保険(市町村国保)が、住んでいる場所で加入資格が得られるのに対し、国民健康保険組合(国保組合)は、職種や業務によって加入資格が得られる点が異なります。ただし、国民健康保険組合の大半は加入できる地域も限定しています。

歴史的な経緯もあって、国民健康保険組合がある業種は限られています。すなわち、市町村国保を原則とする立場から、1959年(昭和34年)以降、原則として新規設立は認められていませんが、特例として認可されることもあります。

2018年4月1日時点では、「建設」32組合、「三師(医師、歯科医師、薬剤師)」92組合、「一般」39組合、「全国土木」1組合で、合計164組合が存在しています。「一般」業種に属する国民健康保険組合には、弁護士・美容師・大工・芸能に従事する人などが、知事の許可を得て同業者間で都道府県ごとに設立した健康保険組合が含まれています。

なお、国民健康保険(市町村国保)の被保険者が3,300万人程度いるのに対して、国民健康保険組合(国保組合)の被保険者は約300万人程度です。
3|後期高齢者医療制度
後期高齢者医療制度は、75歳以上の者と後期高齢者医療広域連合が認定した65歳以上の障害者を対象とする医療保険制度(ただし、生活保護受給者を除く)であり、2008年(平成20年)4月1日からスタートしています。

保険者は各都道府県の全市区町村で構成される後期高齢者医療広域連合であり、財源は被保険者の払う保険料、健康組合等が拠出する後期高齢者交付金、国、都道府県、市区町村の補助や負担金により担われます。

75歳の誕生日を迎えると、それまで加入していた国民健康保険(市町村国保)や被用者保険(健康保険や共済組合等)等から後期高齢者医療制度に移ります。 このとき、特別な手続きをする必要はなく、誕生日と同時に自動的に後期高齢者医療制度に加入することとなります。

なお、地域単位で運営される国民健康保険(市町村国保)と後期高齢者医療制度は、全く別の制度です。75歳に到達して、それまで国民健康保険(市町村国保)に加入していた人でも、後期高齢者制度に移行することで、例えば以下のように制度の内容や取扱が変更になります。

・保険料について、国民健康保険(市町村国保)では、運営する市区町村毎に設定されるのに対して、後期高齢者医療制度では、後期高齢者医療保険広域連合毎に設定されます。そのため、同一広域連合内(都道府県内)であれば、後期高齢者の保険料は原則同一になります。

・保険料について、国民健康保険(市町村国保)は世帯主が世帯の分をまとめて払いますが、後期高齢者は被保険者一人ひとりが払います。

以上で述べてきた各制度のうち主要なものの概要と加入数は、以下の図表の通りです。
各保険者の比較
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中村 亮一

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