2018年03月05日

「働き方改革」と企業年金

慶應義塾大学 法科大学院   森戸 英幸

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退職金は正社員だけ、契約社員やパートタイマーなど非正社員には何年勤めても一切支給しない、という企業も少なくない。かつてはこのような取扱いに法的な問題はなかった。それは契約自由の原則の範囲内である――かみ砕いて言えば、正社員とは異なる労働条件であると納得した上で労働契約を締結したのだからしょうがない、と考えられていた。

そして現行の企業年金法制も、非正社員を企業年金制度の対象としないことを許容している。「課長通知」と呼ばれる厚生労働省の解釈例規までたどり着かなければわからないのだが、労働協約や就業規則において、正社員と非正社員の労働条件が著しく異なっているのであれば、確定給付企業年金(DB)や企業型確定拠出年金(DC)の加入者を正社員のみに限定してもよい、というのが実務上の取扱いである(図表1参照)。要するに、労働契約上の待遇の差異に応じた扱いであればそれが尊重されるということである。
図表1:現行企業年金法制における加入資格制限の法的根拠
しかし実は、現在の労働法制は、すでに労働契約上の待遇の差異を全面的には許容しない立場を取っている。非正社員(有期契約労働者、パートタイム労働者)と正社員(無期契約労働者、フルタイム労働者)との間の不合理な労働条件格差は違法であり(均衡待遇。労働契約法20条、パートタイム労働法8条)、さらにフルタイム労働者と同視しうるパートタイム労働者については差別的取扱いが禁止されている(均等待遇。パートタイム労働法9条)。さらに現在国会で審議中のいわゆる働き方改革推進法案では、有期契約労働者についても均等待遇の規制を導入するという規制強化の方向が打ち出されている。

では退職金・企業年金における正社員・非正社員間の待遇格差が、違法とされる可能性はあるのか。企業年金に関する裁判例はまだ存在しないが、正社員のみを適用対象とする退職金制度につき、労働契約法20条に違反するものではないとしたものがすでにある(図表2参照)。
図表2:正社員のみ対象の退職金制度は「不合理」か
しかし、この「有為な人材の確保」「正社員は長期雇用だが、契約社員は短期雇用前提」という(実質的に中身のない)一般論で今後裁判所が常に納得してくれるとは限らない。結果的に長期雇用となった契約社員にはなぜ退職金という形で全く報いないのか、と考える裁判官がいても不思議ではない。とくに今後は、前述のように、有期契約社員にも均等待遇原則が適用となる可能性が高い。職務の内容や配置の変更の範囲が正社員と同一である非正社員については、退職金や企業年金についても正社員との間に格差があることは許容されないこととなる。

働き方改革推進法案は、これに加え、有期契約労働者及びパートタイム労働者の雇入れ時等において、正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明を義務化するという内容も含んでいる。結局経営者としては、仮に訴訟になる可能性が高くないとしても、自社において、正社員と非正社員の間で退職金・企業年金制度に関しどのような差異があり、それがいかなる理由によるものなのかを、それぞれの職務内容や配置の変更の範囲における差異と関連づけて合理的に説明する義務を負うことになる。そのための「理論武装」は急務である。

もちろん、これと同時に法政策側からの対応も必要である。労働法制の変化に合わせ現行法下での規約認可・承認基準を見直す必要があるのはもちろんだが、厚生年金保険の被保険者資格の有無によってDB・DC制度の適用範囲を画するという現行企業年金法制の基本的枠組みの妥当性についても検討の必要があろう1
 
1 言うまでもなく、この検討は厚生年金保険の適用範囲拡大の動きを睨みつつ行う必要がある。
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慶應義塾大学 法科大学院

森戸 英幸

研究・専門分野

(2018年03月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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