2018年02月13日

米国:大手ドラッグストアチェーンと大手医療保険会社の経営統合-CVSヘルスとエトナの垂直統合は医療勢力図を変えるか-

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   松岡 博司

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3|エトナの概要
 (1)全米第3位の医療保険会社
米国には公的な医療保険制度が高齢者向け(メディケア)と低所得者向け(メディケイド)しかなく、一般の人々は、民間医療保険会社が提供する民間保険に加入して医療保障を受けるしかない。
そのような民間医療保険会社の中にあって、エトナは第3 位に位置する会社である。
 
(2)商品・サービス・顧客基盤
エトナの取扱う商品は、伝統的な医療保険、団体生命保険、就業不能プランから、医療管理能力、メディケイドヘルスケアマネジメントサービス、労働者災害保険管理サービス、健康情報サービスまで、幅広い。対象マーケットとしては、雇用者を通じた従業員市場、個人、学生、パートタイマー、ヘルスプラン、ヘルスケアプロバイダー、政府機関、政府主導プラン、労働者団体等がある。

政府が提供する公的保険メディケア、メディケイドの管理・運営を請け負う事業などが成長分野である。エトナの保険契約者数は2,220万人。保険契約以外のサービス提供先を含めると、4460万の人々を顧客としている。
 
(3)デジタル化対応
エトナは米国の大手医療保険会社の中では進取の気性に富んだ会社である。テクノロジーの進歩に伴うデジタル化等への対応にも積極的で、近年は、スマホアプリの提供、ビッグデータを活用した保険詐欺の防止、最新医療への対応等で目立った展開を見せている。

昨夏には、契約者にアップル・ウォッチを配布する計画を有しているとの報道も行われた。
 

4――統合の目的

4――統合の目的

統合の目的については、公式、非公式に、以下のようなことが言われている。
  • 短期的に得られる統合効果
  • 対製薬会社の交渉力の強化
  • 顧客基盤の拡大
  • 競争政策当局のスタンスとアマゾンの脅威への対応
 
1|短期的に得られる統合効果
重複の排除等、「短期的なシナジー効果」は7億5,000万ドル(825億円)と見込まれている。これを含め、取引完了後2年目に、1桁台前半から半ばの成長が見込まれる。取引完了1年目には大きな変化は出ないとしている。

大規模な経営統合のわりに短期的な収益貢献は大きくない。それは、この統合は、統合によって保険料が増える訳でもドラッグストア店舗が増える訳でもない垂直統合だからである。この統合は、長い目で見た成長を目指したものと言える。
 
2|対製薬会社交渉力の強化
今回の統合の直接的な効果は、PBM事業における製薬会社への発言力が増すことである。先述の通り、エトナを上回る規模のユニバーサル・ヘルスケアは傘下にPBM事業のオプタムRxを持ち、保険会社とPBMを一体化することで、価格交渉力を増し、医薬品のコスト管理を徹底して好業績を続けている。医療保険会社の立場からは、薬価が抑えられれば、エトナは支払う保険給付金額が少なくすむこととなり、保険料の引き下げも見込めることになる。
 
3|顧客基盤の拡大
CVSヘルスの9,000万に及ぶ処方箋薬顧客、ドラッグストアやミニット・クリニックの利用者、エトナの4,450万顧客など、両社の顧客基盤は幅広い。これが統合することにより、より厚みを増した顧客基盤となる。
 
4|競争政策当局のスタンスとアマゾンの脅威への対応
高級食品スーパーを買収するなど、インターネットの世界から飛び出したアマゾンは、参入する業界で、既存の企業を苦境に追い込む存在として脅威の目で見られるようになっている。

2017年に入るとアマゾンの矛先が薬局業務に向いていることが明らかになり、秋にはアマゾンが10を超える州で医薬品の卸売許可を取得したと報道された。また2018年1月30日には、アマゾン、バークシャー・ハザウェイ、JPモルガン・チェースという、超有名企業3社が、合わせて100万人に及ぶ自分たちの従業員を対象にヘルスケアサービスを手掛ける新会社を共同設立すると発表した。医療保険などのコスト削減を目指して、「簡素で、透明性の高いヘルスケアを手ごろな価格で提供する」ことが新会社設立の目的であるとしている。

このような形で、アマゾンは、CVSヘルス、エトナにとって、共通の直接的な脅威となった。

両社はさらなる経営基盤の強化を指向したが、先述の通り、エトナには同業のヒューマナとの経営統合を連邦司法省の反対にあって断念せざるを得なかった経緯があった。一方、ドラッグストア業界では、CVSヘルスのライバル、ウォルグリーンが同業のライト・エードを買収しようとしたが、連邦取引委員会(FTC)の反対にあって、ライト・エード全体の買収からその半分の買収に変更せざるを得なくなった。このような状況の中、CVSヘルスとエトナは、規制当局による干渉が入りやすい同業社間での水平統合を諦め、業務の重なりの少ない垂直統合を選択したと見られている。
 

5――統合後の事業展開等

5――統合後の事業展開等

統合後の経営については、以下の展開が見込まれる。
  • より消費者サイドのヘルスケアサービスの充実
  • データと分析力の強化
  • ヘルスケアコスト削減への貢献
 
1|より消費者サイドに立つヘルスケアサービスの充実
両社は、「CVSヘルスのローカルプレゼンスと臨床能力、エトナのヘルスケア給付・サービスを組み合わせ」、「より高度に統合されたヘルスケアを提供し、よりよく情報に基づいた意思決定を行えるよう、消費者およびその医療プロフェッショナルに権限を与える」ことを統合後のビジネスとして考えている。そのため、「現在のヘルスケアシステムでは満たされていないニーズを満たし、コミュニティ、家庭、デジタルツール、そのいずれかを問わず、より低コストで高品質なケアへのアクセスを再定義する」としている。全米9,700の薬局、1,100のミニ診療所、双方が持つ雇用主(を通じた従業員)市場ルート、エトナが持つ病院、医師ネットワーク等が結びつくことにより、「製薬会社」と「病院」を除く、より消費者に近いヘルスケアサービスを取り揃えたビジネスモデルができあがることとなる。末端の消費者である患者や医療費の支払い者との接点(タッチポイント)も多くなる。

考えられている一つの方向は、ドラッグストアを、顧客に身近で医療を受けられる場として利用することである。ミニット・クリニックを活用し、ドラッグストアにウェルネススペースを設置し、薬剤師、看護師、療法士、栄養士等、専門スタッフを配置する。この手頃な医療提供にエトナは保険の側面から貢献することになる。
 
2|データ分析能力の強化
エトナは、不正防止と医療分野におけるコンプライアンス、長期的な症状の管理を目的に、アナリティクス(分析)、ML(機械学習)、AI(人口知能)を使いこなすデジタル部門を抱えているという。CVS

ヘルスも処方箋薬業務、小売店業務でさまざまなデータを持っている。

統合会社は今後、これらの巨大なデータの分析、活用に取り組み、今後の進化したパーソナライズドメディスン(個別化医療)や患者フォローアップの推進に役立てることを所期している。
 
3|そして、ヘルスケアコスト削減への貢献
以上見てきたように、統合会社は、医療費コストを抑えることが利益に結び付く事業特性を持っている。CVSヘルスとエトナは、サービスを充実させるとともにパーソナライゼーションを推進し、例えば以下のような対応を行うことで、医療費コストの削減に貢献することができるとしている。

基本的には、ミニット・クリニックを充実し、ミニット・クリニックでの対応で病状が管理でき、患者が病院に行かないですむようにできれば、医療費コストの縮減に貢献できることになる。
 
【貢献例1 慢性糖尿病患者の管理を通じた貢献】
米国の糖尿病患者は3000万人で、ヘルスケアシステムに年間2,450億ドルの負担となっている。

統合会社は、店舗に設けたヘルスハブでの対面カウンセリングと血糖値など重要な指標の遠隔モニタリングを通じて、慢性糖尿病患者にケアを提供するとしている。患者は、血糖値が正常範囲から逸脱した場合、それを知らせる通知メッセージを受け取る。また患者は投薬に関するカウンセリングを受け、糖尿病関連の消耗品を買い、減量に関するカウンセリングや栄養学に基づくプログラムなどの付随サービスを受けることができる。これらを通じ、患者は血糖値をより良くコントロールすることができ、健康状態を改善することができる。
 
【貢献例2 不必要な再入院の抑止によるコスト削減】
メディケア患者の20%は、退院した直後に再入院し、これがかなりの年間コストとなっている。

しかし、退院した患者が、必要に応じて、身近なドラッグストアのヘルスハブで、投薬評価、在宅モニタリング、耐久医療機器の使用などのサービスにアクセスできれば、喪失感や混乱を感じることもなくなる。また退院した後の投薬状況の完全なレビューを作成し患者が自宅でケアを管理することを助ける。さらに、家庭用デバイスで、活動レベル、脈拍、呼吸数をモニターし、異常があれば即対応することにより再入院を防止する。
 

さいごに

さいごに

今回の統合はヘルスケア業界の再編をさらに促す可能性があると見られている。2017年12月19日には、訪問医療・ホスピス運営で米最大手企業のキンドレッド・ヘルスケアが医療保険会社ヒューマナ等からの買収を受け入れることで合意したと発表した。医療保険会社、PBMサイドの拡大に対抗するように、病院、製薬会社サイドでも、統合の動きはあるようだ。

CVSヘルスとエトナの統合に対して、規制当局がどのような判断を下すかはまだ不明瞭である。今後とも米国ヘルスケア市場の動向を注視していきたい。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

松岡 博司 (まつおか ひろし)

研究・専門分野
生保経営・生保制度(生保販売チャネル・バンカシュランス等、主に日本生命委託事項を中心とする研究)

(2018年02月13日「保険・年金フォーカス」)

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