2018年02月09日

貸出・マネタリー統計(18年1月)~アパート・カードローンの減速が鮮明に

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

文字サイズ

3.マネタリーベース: 黒田日銀体制で初の減少に

2月2日に発表された1月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は9.7%と、前月(同11.2%)から低下した。伸び率が1桁台に落ち込んだのは2012年11月以来となる。内訳のうち、日銀当座預金の伸び率が前年比11.4%と前月(13.5%)から低下したことが原因である(図表9・10)。
(図表9) マネタリーベース伸び率(平残)/(図表10) 日銀当座預金残高(平残)と伸び率
なお、1月末のマネタリーベース残高は477兆円となり、前月末比では3.3兆円減と2ヵ月ぶりに減少した。また、季節要因を取り除いた季節調整済みのマネタリーベース(平残)でも、前月比1.7兆円減となった(図表11)。これは、2012年11月以来、すなわち黒田日銀体制後初めてのことだ。日銀が長期国債の買入れペースを次第に落としているほか、短期国債の残高を圧縮していることを背景として、マネタリーベースの増勢が弱まってきている(図表12)。

今後も、日銀の国債買入れによって市中に残存する国債残高が減少に向かうため、日銀の国債買入れペースは中期的に縮小に向かうとみられ、マネタリーベースの増勢も鈍化していくと考えられる。
(図表11)マネタリーベース残高と前月比の推移/(図表12)日銀国債保有残高の前年比増減

4.マネーストック: 通貨供給量の伸びがさらに鈍化

2月9日に発表された1月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.4%(前月は3.6%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.9%(前月は3.1%)とともに低下した(図表13)。伸び率の低下はともに3ヵ月連続となる(小数点第2位まで考慮)。貸出の増加ペースが秋に鈍化したことが響いているとみられる。
(図表13) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表14) 現金・預金の伸び率
(図表15)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 M3の内訳を見ると、最大の項目であり、全体の約半分を占める預金通貨(普通預金など)の伸び率が前年比6.9%(前月改定値は7.1%)と低下し(図表14)、M3全体の伸び率低下の主因となった。預金通貨の伸び率低下は4ヵ月連続となる。また、準通貨(定期預金など、前月改定値▲1.3%→当月▲1.4%)、CD(前月▲0.2%→当月▲1.4%)の伸び率がマイナス幅を拡大したことも、押し下げ要因となった(図表15)。
M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率も前年比3.2%(前月改定値は3.4%)と同様に低下した(図表13)。伸び率の低下は3ヵ月連続となる。

M3に加えて、残高規模が大きい金銭の信託(前月6.9%→当月5.6%)の伸びが低下したうえ、家計が大半を保有し注目度の高い投資信託(元本ベース)の伸び(前月▲1.0%→当月▲1.4%)がマイナス幅を拡大したことも広義流動性の伸び率押し下げに繋がった(図表15)。

投資信託(元本ベース)は前年比横ばい圏での推移が続いており、2015年に見られたような積極的な残高積み増しは確認できない。金融庁の批判を受けて、かつての大ヒット商品であった毎月分配型投信の販売が自粛されていることなどの影響もあるが、基本的に未だ慎重な家計の投資マインドを反映したものと考えられる。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2018年02月09日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【貸出・マネタリー統計(18年1月)~アパート・カードローンの減速が鮮明に】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

貸出・マネタリー統計(18年1月)~アパート・カードローンの減速が鮮明にのレポート Topへ