2018年02月08日

東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2018年)-2018年~2024年のオフィス賃料・空室率

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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1. はじめに

東京都心部Aクラスビル1の需給改善が続いている。空室率は、好調な企業収益を背景とした底堅いオフィス需要により低下し、2008年以来の低水準となった。しかし、賃料は高値圏で足踏みしており、2018年以降に予定される大規模ビルの大量供給への懸念は依然根強い。本稿では、東京都心部のAクラスビルのオフィス市況を概観した上で、2024年までの賃料と空室率の予測を行う2
 
1 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2018」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。
2 過去の市況見通しは竹内一雅「東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2017年8月)-2017年Q3期~2021年Q3期のオフィス賃料・空室率」(2017.8.21)、竹内一雅「東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2017年)-2017年~2023年のオフィス賃料・空室率」(2017.2.8)などを参照のこと。
 

2. 東京都心部Aクラスビルの空室率・賃料の推移

2. 東京都心部Aクラスビルの空室率・賃料の推移

東京都心部のAクラスビルの空室率は、大規模ビルの新規供給に伴い、2016年2Qの2.6%から2017年1Qの3.9%まで上昇(悪化)したが、2017年に竣工した大規模ビルの成約が順調に進んだことで、2017年4Qには1.8%まで低下(改善)した。一方、成約賃料(オフィスレント・インデックス3)は、2015年3Qの35,652円/坪をピークに頭打ちの状況が続き、2017年4Qは34,599円/坪(前期比+0.6%、前年同期比+2.4%)となっている(図表-1)。
図表-1 都心部Aクラスビルの空室率とオフィスレント・インデックス
東京都心部の空室率をクラス別に見ると、Aクラスビルは2016年後半から一時上昇したが、B・Cクラスは2010年~2011年をピークに一貫して低下し、好調な需給を維持している(図表-2)。成約賃料も、Aクラスビルは伸び悩んでいるが、出遅れていたB・Cクラスは引き続き緩やかな上昇基調を維持している。リーマンショック後の底値からの上昇率はAクラスビルで75.6%、Bクラスビルで57.4%、Cクラスビルで54.2%となった(図表-3)。成約賃料の前年同期比変化率を見ると、上昇率は2013年から縮小傾向にあり、賃料水準が踊り場にあることを示している(図表-4)。

今回の賃料サイクル4は、2012年を起点に賃料上昇が始まったが、その動きは通常のサイクルとやや異なっている。まず、賃料上昇の序盤において、「2012年問題」とされた大量供給により需給バランスが悪化したため、空室率が上昇するなか、賃料が上昇に転じた。次に、賃料上昇の終盤に差し掛かった足元の動向を見ると、空室率が上昇していないにも係らず、2018年以降の大量供給への懸念が重石となり、賃料は伸び悩んでいる。景気拡大が長期に亘り、企業のオフィス床需要が拡大する一方で、Aクラスビルの大量供給が撹乱要因となり、現在の市況判断をより難しくしている(図表-5)。
図表-2 東京都心部の空室率/図表-3 東京都心部のオフィスレント・インデックス
図表-4 東京都心部のオフィスレント・インデックス(前年同期比)/図表-5 東京都心部Aクラスビルの循環図
 
3 三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料に基づくオフィスマーケット指標。
4 賃料サイクルは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図上を、その進展とともに時計回りに動く。賃料サイクルの起点を、賃料下落から上昇に転じる局面とすると、賃料サイクルは、通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、という動きになる。
 

3. 東京都心部Aクラスビルの賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積

3. 東京都心部Aクラスビルの賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積

東京都心部Aクラスビルの空室率は着実に低下している。その要因として、企業のオフィス拡張意欲が強いことや、人材確保のために築古・中小ビルから好立地の築浅・大規模ビルへの移転5、大規模ビルの新規供給が少なかったことが挙げられる6。空室面積が2008年の水準まで減少し、築浅の大規模ビルでまとまった空室が確保しづらくなっていることから、2018年以降に竣工予定のオフィスビルのリーシングが順調に進んでいる(図表-6)。

三鬼商事のデータによると、都心5区全体の賃貸可能面積の増加は抑制されている。2013年以降、新規供給が抑制されていることに加え、滅失面積が比較的高水準であることが要因である。また、オフィスビルの賃貸面積は7年連続で増加しているものの、その増加面積は2012年をピークに縮小傾向にある。空室面積は6年連続で減少し、オフィスビルの需給は一段と引き締まっている(図表-7)。
図表-6 東京都心部Aクラスビルの賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
図表-7 東京都心5区オフィスビルの賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
 
5 森ビル「東京23 区オフィスニーズに関する調査」(2017.12.20)によれば、新規賃借予定のある企業の約6割がオフィス面積の拡大を予定しており、新規賃借理由として企業ステイタスの向上とした回答した企業が前年より増加している。
6 2017年に竣工した大規模ビルには、大手町パークビルディング、GINZA SIX、渋谷キャスト、日比谷パークフロント、赤坂インターシティAIR、神宮前タワービルディング、目黒セントラルスクエアなどがあった。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

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