2018年02月07日

プライマリ・ケアで読み解く地域医療構想-日常的な医療ニーズをカバーする重要性

基礎研REPORT(冊子版)2月号

保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   三原 岳

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1―はじめに~地域医療構想とは~

団塊の世代が75歳以上を迎える2025年には医療・介護需要が増大すると見られているため、政府は病床削減や在宅医療といった医療提供体制改革を進める一環として、「地域医療構想」に力を入れている。具体的には、各都道府県が咋年3月までに医療計画の一部として地域医療構想を策定し、その内容や病床推計をベースに、各地域で病床削減や在宅医療の充実などの提供体制改革を進めることが期待されている。

しかし、地域医療構想では病床削減の議論が先行しがちである。医療提供体制は通常、日常的な疾病やケガに対応するプライマリ・ケアと呼ばれる1次医療に始まり、一般的な入院である2次医療、専門性の高い救急医療などを提供する3次医療に分類されることが多いが、地域医療構想はプライマリ・ケアに対応する視点を欠いている。

本レポートではイギリスの事例を基に、提供体制改革におけるプライマリ・ケアの重要性を論じるほか、日常的な医療ニーズへの対応を重視した高知県の地域医療構想を取り上げることで、この考え方が他の地域でも適用する可能性を論じる。

2―地域医療構想の構造的な欠陥

地域医療構想は元々、病床削減を想定した制度であり、その後の制度化プロセスを通じて、性急な病床削減を懸念する日本医師会の反対が出たことで、病床削減の目的が薄まった経緯がある。このため、国の議論は「病床数ありき」の病床削減に傾きがちである。特に、地域医療構想の制度化に繋がった2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書では、病床を「川上」、在宅を「川下」と形容しており、病床を削った後の患者を地域で受け入れるという発想に立っていることは明らかである。

確かに日本の病床数は世界的に高水準であり、制度の持続可能性を確保する上で、病床削減の議論は重要だが、患者が医療機関とアクセスを持つのは入院医療や在宅医療に限らず、予防、外来、退院支援など多岐にわたる。

むしろ、患者から見れば、生活に身近な日常的な疾病やケガに対応する医療が「川上」、入院医療が「川下」であり、生活に身近な医療をカバーするプライマリ・ケアの発想を欠いているのは地域医療構想の構造的な欠陥と言える。

3―医療提供体制の基本構造

図表1:イギリスの家庭医が接する外来患者の一例 1|英国から考えるプライマリ・ケア
プライマリ・ケアは1次医療の概念にとどまらず、社会資源の活用や福祉サービスとの連携などを図る。その一例をプライマリ・ケアが定着しているイギリスの事例から考える。

イギリスでは高度な医療を受けたい場合、家庭医(General Practitioner=GP)と呼ばれるプライマリ・ケア専門医の紹介を原則として必要とする。その際、国民は3~5人程度のGPが勤務する診療所への登録が義務付けられており、GPは幅広い年齢層や病気・ケガに対応し、必要に応じて高度な医療機関や福祉サービスなどにつなぐ。

実際のGPによるケアについては、GPとしてイギリスの診療所に勤務する澤憲明氏の事例を見ると理解しやすい。

第1に、GPは年齢、性別、疾病とは無関係に幅広い病気やケガに対応する。図表1は澤氏が接した外来患者の一例だが、臓器・疾病別に専門分化した日本では考えられないぐらいに幅広い患者や症例に対応していることが分かる。

第2に、患者との対話を重視しつつ、その人のニーズや経験、生活実態などに沿って全人的に対応する点である。具体的には、1人当たり10分程度を費やす患者との対話を通じて、患者の不安を引き出すほか、時には医学的なエビデンスに基づいて対話する。それだけでなく、「育児と仕事の両立で余裕がない」といった生活上の問題を引き出すと、体調不良やストレスを生み出す家庭や職場の環境改善まで考える。

社会的処方(Social prescribing)と言われるケアを通じて、社会資源も活用する。まれな難病による社会的孤立に悩む患者に接した際、対話を通じて「実は周囲に理解してくれる人がいないので寂しい」との本音を引き出すと、澤氏は患者団体を紹介するだけでなく、患者に団体の会費を払う余裕がないと、会費の値引きまで依頼する。こうした日常生活について何でも相談できるだけでなく、全人的かつ継続的にケアできる医療こそ本来の意味で、住民にとって「川上」の医療と言える。
図表2:日本人の一般住民における健康問題の発生頻度と対処行動 では、プライマリ・ケアは提供体制改革で意味を持たないのだろうか。

1961年に公表されたイギリスの研究では1,000人のうち、750人が1カ月間で何らかの病気やケガを訴え、250人が医師のカウンセリングを受けたが、高度な医療機関を紹介された患者は5人に過ぎなかった。日本の2000年代にも類似の研究があり、図表2の通り、人口1,000人に対して862人が心身に異常を感じたが、一般病院に入院した人は7人にとどまった。

つまり、8~9割程度のニーズはプライマリ・ケアで完結するため、日常的な病気やケガを幅広く診るプライマリ・ケアの体制を整備すれば、たとえ病床を減らしたとしても、国民の医療ニーズに対応できる可能性がある。

しかし、日本はプライマリ・ケアを制度・政策として明確に位置付けてこなかった。確かに広島県旧御調町(現尾道市)など個別の実践例があるが、特に日本の医療計画制度は2次医療圏をベースとした病床規制が中心であり、「1次医療計画」が存在しておらず、地域医療構想でも想定されていない。

4―都道府県に期待される対応

1|地域医療構想における言及
こうした制約がある中、各都道府県には日常的な医療ニーズをカバーしようという考え方が見て取れる。

地域医療構想の文言を見ると、37都道府県が日常的な医療ニーズをカバーする「かかりつけ医」、またはプライマリ・ケアの専門能力を持つ医師として2018年度から制度化される「総合診療医」に言及し、(1)患者の病状に応じて適切な医療機関にかかることを支援、(2)予防医療、(3)在宅医療、(4)病院・診療所連携、(5)医療・介護連携、(6)過疎地医療―などを進めるとしていた。

2|高知県の事例
この観点で積極的なのは高知県である。高知県は人口比で見た病床数、特に慢性期病床数が日本で一番多く、その削減に備える上では、日常生活に近い医療提供体制の整備が求められる。

そこで、高知県の地域医療構想は安芸、中央、高幡、幡多の4つの構想区域のうち、最も人口が多い中央区域の下に、4つの「サブ区域」を保健所ごとに設定し、保健所を拠点に市町村や関係者と連携しつつ、かかりつけ医機能や福祉・介護との連携、リハビリテーション、退院調整などの「日常的な医療」の強化を図るとしている。そのイメージは図表3の通りであり、「病床数ありき」で進みがちな地域医療構想の欠点をカバーする取り組みと言える。
図表3:高知県のサブ区域のイメージ

5―おわりに

「病床総数を規制する部分的な手直しによって全体としてシステムがどうなるか考察しなければならない」(郡司篤晃「地域福祉と医療計画」『季刊社会保障研究』)。実は、医療計画制度がスタートした頃の論文には、全体最適を目指すためにプライマリ・ケアの必要性が論じられていた。むしろ、医療計画を単に病床規制の手段にとどめたことが問題であり、医療計画の一部として策定された地域医療構想は同じ問題を引きずっている。

こうした観点に立つと、日常的な医療ニーズを重視する高知県の取り組みは重要であり、他の地域も参考にできる普遍性を持っているのではないだろうか。
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保険研究部   准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

(2018年02月07日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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