2018年02月07日

世界を変える3つの潮流-平成の終わりに考える

基礎研REPORT(冊子版)2月号

櫨(はじ) 浩一

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1―パワー・ライフ・テクノロジー

天皇陛下は2019年4月30日に退位され、翌日5月1日に改元されることになった。年末年始に行く年・来る年に思いをはせるように、元号の変わり目という大きな区切りを前に、去りゆく時代と新しい時代のことを考えてみるのも良いのではないか。

平成は30年余で終わることになり、60年を超えた昭和に比べれば短いとは言うものの、この間に我が国社会は様々な変化に見舞われた。もちろん、変化は平成に入って突然始まったわけではなく、平成とともに終わるわけでもない。日本経済を大きく変えつつある潮流とでも言うべきだろうが、大きく3つに整理できるのではないだろうか。

第一の変化は、パワーシフトだ。ソ連が崩壊して冷戦構造が終わり、中国経済が急速な発展をして世界のパワーバランスは大きく変わりつつある。日本は昭和の時代につかんだ世界第二の経済大国の地位を中国に譲った。また国境に縛られる国に対して、企業はますます国境を越えてグローバルに活動するようになり、政府が企業をコントロールすることが難しくなっているなどの変化が起こっている。

第二の変化は、リンダ・グラットンの本で人口に膾炙(かいしゃ)するようになったライフシフトだ。日本は高齢化先進国となり、遠からず人生が100年という時代を迎えようとしている。長期化する人生を個人個人がどう過ごし、国や政府がどう支えるのか、持続性を高めるためには制度を再設計することが求められるほどの大変化が予想されている。

第三は、テクノロジーシフトだろう。AI(人工知能)を使った囲碁ソフトが世界最強とされる棋士に圧勝し、自動車が人やモノを目的地まで文字通り自動で運んでいくようになる日も目前だ。我々の働き方、日常生活の姿を大きく変えてしまうだろう。

2―複雑化・加速化する変化

バブル経済の崩壊に見舞われて低迷が続いた我が国だけでなく、先進諸国はどこも経済の停滞が問題となるようになった。サマーズ元米財務長官が長期停滞論を唱え、これを裏付けるような研究や著作も多数発表された。しかし、多くの人はむしろ世の中の変化が加速して、対応が難しくなっていると感じているのではないか。

子供の就職に際して、どのような仕事に就けば良いのかと聞かれても、今ある仕事は消えて無くなってしまうかも知れず、何か助言をすることは難しい。長寿化によって老後が長くなったにもかかわらず、現在の高齢者が歩んできたような定年まで勤めあげて公的年金と退職金・貯蓄で穏やかな老後を送るという人生は現実的でなくなり、そもそも親の世代もこの変化に自分がどう対処して良いのか分からず途方に暮れている。

三つのシフトについては、このコラムでも「人生百年時代」や「機械との競争」というテーマで取り上げてきた。しかし、それぞれの変化は単独で起こっているのではなく、複雑に絡み合っている。例えば、Fintechで生まれたビットコインなどの仮想通貨は急速に成長し、国境を超えて取引され、既存の通貨や中央銀行の地位を脅かす恐れが出るまでになった。変化は、速度が速いだけでなく複雑で、社会がどのように変わっていくのか先行きを見通すことが難しい。

3―新しい革袋

「新しい酒は新しい革袋に盛れ」ということわざがあるように、企業や家計を取り巻く環境が大きく変化すれば、企業や家計の活動の場である社会の仕組みも大幅に変える必要がある。もちろん、それぞれの制度の中では、変化に対応した変更が行われてきた。しかし、変化の規模はあまりに大きく、個別制度の部分的な修正では間に合わず、日本の経済・社会システム全体の基本設計の変更が必要だ。

変化の先にどのような未来が待っているのかが見えない中で、多くの人が不安を感じている。大幅な仕組みの変更には、幅広い世論の合意を形成する必要もある。将来の日本社会はどうあるべきかをじっくり議論し、将来に向けて政府が何を目指しているのかをはっきり国民に示すことが、今のわが国には必要なのではないだろうか。

平成に入って、日本経済はバブル経済の崩壊やアジア通貨危機、金融危機、ITバブル崩壊、リーマンショック、欧州債務危機と次々とショックに見舞われ、政府も企業も家計も目の前の危機への対応に追われた。日本経済は失われた10年どころか20年を超える低迷が続き、物価の下落というデフレに苦しめられてきたが、失業率は2.7%という低い水準に低下し、ようやく目先ではなく将来のことを考える余裕が少し生まれている。平成の終わりというひとつの節目が見えてきたところで、新しい時代が始まるまでの間に、個人的にも企業でも日本全体でも、腰を落ち着けて未来の世界、日本、そして、自らの将来を考えてみてはどうだろう。
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(2018年02月07日「基礎研マンスリー」)

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