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- 競争と協調~企業の存在意義はどこにあるのか~
1――競争の重要性
計画経済が市場経済に敗れたのには様々な原因があるが、競争がうまく働かなかったために経済が非効率だったことが大きな原因であることは誰もが認めるだろう。社会主義や共産主義は性善説に依存して、人々が誘因がなくても努力すると考えていた。残念ながら、自分を省みても人は易きに流れるということは否定できず、努力の結果で差がないのであれば誰も努力しなくなってしまうというのは確かだ。
しかし私有財産制度を支える財産権は非常に重要なものだが絶対的なものではなく、社会全体の利益のためには当然様々な制限を受ける。社会を「万民の万民に対する戦争状態」というホッブスのような競争だけの世界と考えるのも行き過ぎだろう。
2――組織への貢献度
複雑な現象も単純な要素に分解できるという考え方は、科学の大きな進歩をもたらした要因で、西欧的思想の根幹を構成する要素だろう。企業が生み出す成果も、同じように要素に分解できる。経済の教科書では、企業の収益はそれぞれの貢献に応じて労働と資本の寄与にきれいに配分できるように賃金と利益率が決まると教えている。しかし、組織に属する人々が協力することで生まれる成果は、誰のものかははっきりせず、教科書に書いてあるようには簡単に分配できないものが残る。組織は単に個人が集まっているだけのものではない。
3――企業はなぜ存在するのか
ところが、市場の競争があらゆる場面で効率性の改善をもたらすのであれば、企業という組織は存在する意味が無い。なぜなら企業内で行なわれている業務を分解してそれぞれの社員が請け負って、市場で競争するようにすれば今よりも効率良く業務が行なえるはずだからだ。それにも関わらず企業という組織はなぜ存在するのか?それはひとりひとりが独立した会社のように生産活動を行い市場で取引を行なうよりも、組織として活動する方が効率的だからだということになる。組織を構成する人たちが協力しあっていくことで、企業間の取引よりもうまく活動できる。つまり企業は競争ではうまくできないことを、組織を使うことで克服するために存在する。従業員を競争させるということだけでは、企業がうまく動かないのは当然なのだ。
4――サービス化への対応
労働経済学の教科書には、しばしば、最も生産性が低い従業員を解雇したところ、組織全体の生産性が大きく低下してしまったという話が登場する。生産性が最も低く見えた従業員は他の人々が効率良く働けるように潤滑油の役割を果たしていたということがあるという戒めとして紹介されることが多い。
競争だけが善で、それを阻害するものは全て悪であるという単純な議論が横行しがちだが、競争だけが経済の活力を生み出す源泉ではない。企業組織は社員が互いに助け合い協力し合うことで効率を高めるために存在しており、互いの信頼や協調が効率を生み出す源泉だ。管理職の仕事は、組織の中で競争と協調の微妙なバランスをコントロールすることだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
研究・専門分野
(2018年01月31日「エコノミストの眼」)
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