2018年01月31日

健康に関わる女性の不安-年齢とともに感染や罹患から介護へ、未婚40代は不安最多だが半数は対策をしておらず

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに

家族に関わる女性の不安~多様化する女性のライフコースと不安、政策にも多様性の観点を」にて、家族に関わる女性の不安について、未既婚や子の有無、働き方などのライフコースによる違いを分析した。本稿では、平均寿命が延び人生100年時代が言われる中、健康や医療、介護に関わる不安について分析する。前回と同様、女性に注目し、健康や医療、介護に関わる不安はライフコースによって年齢とともにどのように変化するのかを捉える。分析には弊社実施の調査データ1を用いる。
 
1 「日常生活における不安等に関する調査」、調査対象は学生を除く全国に住む20~69歳の男女、調査手法はインターネットリサーチ、実施時期は2014年8月、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答4,131(男性2,051、女性2,080)
 

2――健康や医療、介護における不安

2――健康や医療、介護における不安~「受傷・罹患」「要介護関連」「医療過誤・感染」「介護・医療サービス受給」「インフォームド・コンセント」の5つに集約

はじめに、20~60歳代の男女全体で、健康や医療、介護に関わる不安にはどのようなものがあるのかを捉える。

調査では、健康や医療、介護に関わる19の不安をあげ、それぞれどの程度不安に感じるか、「不安でない」「あまり不安でない」「どちらともいえない」「やや不安である」「不安である」の5段階に、「該当しない」を加えた6つの選択肢を用意した。

得られたデータに因子分析を行い、健康や医療、介護に関わる不安要因を分析した(図表1)。図表1より、20~60歳代の男女では、健康や医療、介護に関わる不安は「受傷・罹患」「要介護関連」「医療過誤・感染」「介護・医療サービス受給」「インフォームド・コンセント」の5つに要約される。
図表1 健康や医療、介護に関わる不安の因子分析結果 
各因子を構成する変数から、「受傷・罹患不安」は病気やケガを患うことや後遺症についての不安、「要介護関連不安」は自分が要介護状態となった時に入所施設等が希望通りにならないことについての不安、「医療過誤・感染不安」は医療ミスや薬害、感染症等の被害を受けることについての不安、「介護・医療サービス受給不安」は手厚い介護サービスや医療サービスを受けられないかもしれない不安、「インフォームド・コンセント不安」は医療行為についての十分な説明と同意無しに医療行為が行われる不安という意味合いを持つ。

これらの不安の強さについて、性年代による違いを見ると(詳細は付表1)、性別では、女性で「要介護関連不安」が強く、男性で弱い。女性は主な介護の担い手となることが多いため、自分に介護が必要となった時については不安が強いのだろう。

年代別には、20歳代で「医療過誤・感染不安」が強く、50歳代で弱い。この背景には、日常生活における感染症リスクとの距離や医療関連知識の差があるのだろう。また、50歳以上で「要介護関連不安」が強く20~30歳代で弱いこと、そして、20歳代で「受傷・罹患不安」が弱いことについては、加齢に伴う健康状態の違いによるものだろう。このほか、高年齢層の多い無職・専業主婦(主夫)層で「要介護関連不安」が強く、無収入層では「受傷・罹患不安」や「要介護関連不安」、「介護・医療受給サービス不安」が強いといった特徴がある。
 

3――女性のライフコースによる不安の変化

3――女性のライフコースによる不安の変化~年齢とともに感染や罹患から介護へ、未婚40代女性が最多

ここからは女性に注目する。健康や医療、介護に関わる不安の強さは、未既婚、既婚者は子の有無、既婚で子がいる場合は働き方によって、どのような違いがあるのだろうか。

付表2のデータを基に、女性の不安を年代別に図示化すると、女性の健康や医療、介護に関わる不安は、ライフコースによらず年齢とともに医療過誤・感染の被害や受傷・罹患に対する不安から介護に対する不安へとうつる様子が分かる(図表2)。また、40歳代の未婚女性は5つの不安が全てあらわれ、最も不安が多い。未婚女性では配偶者や子がいないために自分が要介護状態となった時に面倒を見てくれる人がいないかもしれない(図表3)、出産経験がない場合は乳がんなどの罹患率が高いこと2などがあるのだろう。なお、40歳代では既婚で子のいない女性でも「受傷・罹患不安」があらわれるが、未婚女性と同様の背景と考えられる。
図表2 年代別・属性別に見た健康・医療・介護に関わる不安
図表3 2013年の年齢・部位別に見た女性特有のがん罹患率 一方で20歳代の女性で全ての層にあらわれる「医療過誤・感染不安」は男性ではあらわれず、女性の中では既婚・子あり・専業主婦層で強い(付表2の値より)。図表は省略するが、不安の内訳(不安を構成する各変数の不安度=「やや不安である」と「不安である」の選択割合の合計値)を見ると、専業主婦層では全体的に不安度が高い。女性は子を生む性であるため、もともと男性と比べて健康全般に関する意識が高いことに加えて、専業主婦層では他層と比べて20歳代で出産する女性も多いため、医療がより身近であることなどが考えられる。

また、50~60歳代の女性で全ての層にあらわれる「要介護関連不安」は未婚層や既婚・子なし層で強い。同様に不安の内訳を見ると、50歳代では既婚・子なし層で全体的に不安度が強い。また、60歳代では未婚層や既婚・子なし層で「入りたい介護施設に入所できない」や「希望しても自宅で介護を受けられない」、「要介護状態になったとき自分の尊厳が無視される」の不安度が高い。なお、60歳代では既婚・子あり・会社員/公務員層で「加齢により身体的機能が衰えて思ったように動けなくなる」が、既婚・子あり・会社員/公務員層や専業主婦層で「認知症になる」の不安度が高い。つまり、50~60歳代の女性では同様に「要介護不安」を抱えるが、ライフコースによって、少しずつ違いがあり、未婚や子がいない女性では希望通りの介護を受けられるかどうか、子のいる女性では自分の状態についての不安という意味合いが強い。

なお、参考のため男性も見ると、男性は女性と比べて健康や医療、介護に関わる不安は顕著に少ない(図表2(b))。男性では、同年代の女性とは対照的に、若い頃は属性によらず健康や医療、介護に関わる不安はない。また、無職では30歳代(サンプル数が少ないため参考値)から、未婚では40歳代あたりから、「要介護関連不安」や「受傷・罹患不安」などがあらわれる。無職では医療費などの経済面での不安、未婚では面倒を見てくれる人がいない不安などがあるのだろう。既婚者でも50歳代から、子なし層や子あり・パート/アルバイト層で不安があらわれ、面倒を見てくれる家族の存在や経済的な安定性が影響する様子がうかがえる。一方、既婚・子あり・会社員/公務員層は60歳代で「要介護関連不安」があらわれるのみであり、総じて不安が少ない。
 
 
2 日本乳癌学会乳癌診療ガイドライン「出産は乳癌発症リスクと関連するか (疫学.予防・リスク―生活習慣と環境因子・ID41240)」http://jbcs.gr.jp/guidline/guideline/g4/g41240/など。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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