2018年01月30日

【ロシア経済】2018年の見通し~2018年の成長率は2017年からほぼ横ばい~

神戸 雄堂

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2 (需要項目別)経済の動向
(民間消費) 低インフレによって、消費マインドが改善し、堅調に推移。
2017年の民間消費はインフレ率の低下に伴う消費マインドの改善によって堅調に推移した。2017年は原油価格の持ち直しと、過去最多となった穀物生産によって食料品価格が下落したこともあいまって、インフレ率が低下し、消費マインドが改善した。労働市場では、2017年に入ると失業率が緩やかに低下し、実質賃金も前年比で上昇傾向が続いている(図表7)。実質可処分所得こそ前年比で減少が続いているが、消費マインドの改善によって小売売上高や新車販売台数は前年比で増加が続いており(図表8)、民間消費の回復が顕著になった。
(図表7)失業率と実質賃金・実質可処分所得の推移/(図表8)小売売上高・新車販売台数の推移
(図表9)ロシア連邦の財政状況 (政府消費) 緊縮的な財政政策によって微増にとどまる。
2017年の政府消費は前年同期比で増加するも、2017年度(1月-12月)の連邦政府は前年度より緊縮的な財政政策を採用したため、微増にとどまったと見られる。先述の通り、石油・天然ガス関連の収入は連邦政府の歳入に占める割合が高いため、原油価格が大きく下落した2014度年から15年度にかけて連邦政府の歳入は減少した(図表9)。また、社会保障費の高い伸びなどの歳出の拡大もあって、財政赤字は拡大し、財政赤字を補填する予備基金5の残高は大きく減少した。原油価格の持ち直しによって2017年度は歳入が大きく増加したものの、政府は予備基金の枯渇を防ぐべく、緊縮的な財政政策を志向したため、歳出は前年度からほぼ横ばいとなった。その結果、2017年度の財政赤字は前年度から縮小した。
 
5 原油価格下落時の財政赤字への備えとして、2008年に設立されたロシア連邦の政府系ファンド。2018年1月1日をもって、国民福祉基金に統合された。
 (総固定資本形成) 政府部門の投資が牽引。
内訳は公表されていないが、2017年の総固定資本形成は政府主導の大規模なインフラ整備が牽引役となって前年同期比で増加したと見られる。

民間部門の設備投資については、金融緩和による政策金利の引下げで銀行貸出金利が個人向け・企業向けともに低下しており、これが投資を下支えしていると見られる(図表10)。ただし、原油価格の持ち直しによって2017年から改善基調にあった企業の景況感や鉱工業生産が足元で落ち込み始めており、当面注視が必要である(図表11)。

政府部門の総固定資本形成では、クリミア半島の実効支配に向けたケルチ海峡大橋の建設や中国向けガスパイプライン「シベリアの力」の建設など政府主導の大規模なインフラ整備が本格化したことが、総固定資本形成を押し上げたと見られる。
(図表10)銀行貸出金利の推移/(図表11)鉱工業生産の推移
(純輸出)内需の回復に伴う輸入の増加が純輸出を押し下げた。
2017年の純輸出は、国内需要の回復によって輸入が輸出を上回って増加した結果、成長率寄与度がマイナスに転じた。
(図表12)貿易収支(通関ベース)の推移 通関ベースで見ると、輸出は原油価格の持ち直しを受けて鉱物製品を中心に、17年1-3月期に前年比で大きく増加した後、増加率は鈍化した。一方、輸入については内需の回復に伴い、機械・設備・輸送用機器を中心に前年比で大きく増加している(図表12)。

2017年の貿易収支は、2016年の黒字こそ上回ったと見られるが、2015年以前の黒字幅を大きく下回っており、また足元では黒字幅の縮小が続いている。
3 物価・金融政策の動向
2016年年初から原油価格の持ち直しによって、為替がルーブル高方向に進み、インフレ率は低下した。2017年も引き続き原油価格が持ち直すとともに、好調な穀物生産によって食料品価格が下落したこともあいまって、2017年平均のインフレ率はインフレ目標(4.0%)を下回る3.7%まで低下している。

ロシア連邦中央銀行は、16年6月以降、断続的に利下げを行い、17年12月時点で政策金利は7.75%となっている。中央銀行は17年12月の声明の中で足元のインフレ率がインフレ目標の4.0%を下回っていることから、18年上半期も更なる利下げの可能性を示唆した。
 

4――2018年経済の展望

4――2018年経済の展望

ロシア経済の行方を左右する原油価格(ブレント価格)は、2018年に入り70ドル/バレル台に突入するなど上昇基調にある。2017年12月にOPEC諸国と非OPEC諸国が原油の協調減産を2018年末まで延長することに合意した他、中東地域における地政学リスクの高まりなどがその要因と見られる。今後は原油価格の上昇に伴う米国のシェールオイルの増産が予想されるため、上値は重いものの、上昇要因は継続すると見られることから、2018年平均の原油価格は60ドル/バレル前後と2017年水準を上回ると予想する。

その他の景気の押上げ要因としては、緩やかなインフレと金融緩和の継続が挙げられる。インフレ率については、2017年の食料品価格下落による押下げ効果こそ剥落するだろうが、2018年のルーブルは底堅く推移すると予想されることから、輸入物価の上昇を通じたインフレ率の大幅な上昇懸念は小さいと見られる。18年平均のインフレ率は17年並みの4.0%と予想する。中央銀行が18年上半期の追加利下げを示唆していることから、インフレが緩やかに推移する限り、金融緩和は継続するだろう。しかし、政策金利は小幅な利下げが数度行われた後は据え置かれ、18年末は7.0%と予想する。また、6月から7月にかけて開催されるサッカーワールドカップでは、海外観光客によるインバウンド効果が見込まれ、小幅ながら景気の押上げ要因になるだろう。
(図表13)ロシア連邦予算 一方で、緊縮的な財政政策は景気の抑制要因となるだろう。17年12月に成立した2018年度予算法では、2018年度(1月­-12月)は前年度より歳入が増加するものの、連邦政府は緊縮的な財政政策を継続しており、歳出は前年度から微減となっている (図表13)。連邦政府は18年度の原油価格6を前年度より低く想定しており、18年度の石油・天然ガス関連の歳入については、前年度を下回るとしている。18年度の原油価格が想定価格を上回ることで、実際の歳入は予算案を上回ると見られるが、17年度において原油価格の持ち直しによって歳入が当初予算案より大きく増加した際も歳出の拡大は限定的であった。また、ケルチ海峡大橋などの政府主導の大規模な投資の効果が剥落すると見られるため、18年度の政府部門による景気の押上げは期待できないだろう。
(図表14)ロシア経済の見通し 以上を踏まえると、2018年のロシア経済は原油価格の底堅い推移とさらなる金融緩和がプラス材料となるものの、政府部門が景気の抑制要因になると見られる。2018年の実質GDP成長率は2017年からほぼ横ばいの1.8%と予想する(図表14)。

需要項目別に見ると、民間消費は、2018年のインフレ率が2017年並みに推移し、引き続き堅調に推移すると見られるため、前年比3.0%増を見込む。政府消費は、緊縮的な財政政策によって2018年度の歳出が前年度並みと予想されるため、前年比0.0%増を見込む。総固定資本形成は政府主導の大規模な投資の効果が剥落すると見られるため、前年比3.0%減を見込む。純輸出は、引き続き内需の拡大によって輸入が増加するも、原油価格が昨年を上回ることで輸出の増加額が輸入の増加額を上回ると見られ、前年比寄与度を+1.0%ポイントと見込む。

なお、3月18日に実施される大統領選挙では、プーチン大統領が再出馬を表明しており、再選することは確実視されている。これによって、プーチン政権は次期任期終了の2024年まで存続するだろう。また、プーチン政権が継続することで欧米諸国の経済制裁は長期化することが予想される。
 
 
6 ブレント原油価格はヨーロッパの原油価格の指標。ウラル原油価格はロシアの輸出油混合物の価格設定に用いられる指標で、ブレント価格に近い。
 
 

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(2018年01月30日「基礎研レター」)

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